「こーら!待ちなさーい!」
「母様おそーい!ねーえー、どうしてジュースもお兄ちゃんもはしってくれないのー!」
「ああ、私としたことが!申し訳ございません、エミリア様!!」
「ぜえ、はっ…はあ、ちょ、はやっ……」
「ジュースはそうやって甘やかさないの!」
「で、ですが…」
「でももだってもありません。エミリアが我儘に育ったらどうするのよ。」
「エミリアちゃんが我儘…絶対可愛いじゃん…」
「ジュースに続いてスバルまで…」
『絶対ピーマルなんて食べないもん!』『今日の朝ごはんはリンガパイがいいの!』
ぐらいしか思いつかなかった。なんてささやかな我儘なんだろう。しかも一生懸命考えてこのレベルだったらE・M・Tすぎる。
というか、可愛い可愛い妹に我儘言われたら応えたくなるだろう。それが兄心というものではないだろうか。
どうして突然エミリアとの鬼ごっこが始まったのか。
それは、時を遡り、ジュースと出会ってすぐのこと。
「マジョキョー?ねえねえ、マジョキョーってなあに?」
「ふーむ、マジョキョー…魔女教…?何かの宗教ってことか…?」
「え、エミリア様…それはですね…」
1番気になるキーワード『魔女教』について、エミリアがズバズバと質問しているが、先ほどから困り笑いしながら言葉を濁している。
恐らく、言えない事情でもあるんだろうなとぼんやり考えながら、そしてエミリアの純真さに癒されながら森を歩く。
「それにしたって、エミリアは道ゆく先で必ず人を見つけてくるよな…」
「…?それはどういう…?」
「俺も、森で迷ってたとこでエミリアに助けられたんですよ。」
「そうだったんですか…。スバル様も、エミリア様に手を差し伸べられた一人だったということですね。」
エミリアに出会ったジュースと、エミリアに救われたスバル。
その二人が今並んで歩いているのも、ある種の運命なのかもしれない。
そんなことを考えていると___
「エミリアー?スバルー?どこにいる…の…」
「「あ」」
「フォルトナ様」
と、フォルトナに見つかったことで、怒られたくないエミリアが鬼ごっこを始め、今に至る。
「はぁ…エミリア?いつもいつも、どうやってここまできているの?」
「あのね、前にも言った妖精さんが、私をジュースのところまで連れて行ってくれたの。」
兄バカなスバルを無視して、目下の疑問を投げかける。
すると返ってきたのは『妖精さん』。
「妖精さん、ね…」
いかにもファンタジックだが、一体どんな妖精なのだろうか。
「それで?その妖精さんっていうのは誰なの?」
「うん。___おいで。」
エミリアが前に手を差し伸べ、蕩けるような可愛い声で呼びかけた。
___直後。
「おお…」
「こんなにたくさんの微精霊を、一度に…」
「これは…」
そこには、幻想的な空間が広がっていた。
青く淡い光がエミリアに寄り添うように現れたのだ。
ふわふわと空中をただよい、まるで夜闇に紛れる蛍のような___。
「どうやら、エミリア様には精霊術師の天稟がおありのようですね。」
「セーレージュツシ?テンピン?」
「ええ。精霊術師とは、彼らのような精霊を付き従え、共に道を歩む存在のこと。エミリア様には、その才能がおありかもしれないと、そういうことです。」
「私、それになれるの?」
「エミリア様が今のまま健やかに成長なされ、彼らと心を通わそうと、そう願えば、必ず。」
「もう、勝手なこと言わないでちょうだい。これでエミリアが変な気を起こしたら…」
「私、今日はジュースの味方っ!絶対、セーレージュツシになるもん!」
「ああもう…言わんこっちゃないじゃない」
「す、すみません…ええと、どうしましょうか…」
「___あ」
ジュースがあたふたしていると、スバルの周りにも一部の微精霊が寄ってきた。
ふよふよ、くるくると回る微精霊たち。
「えっと、これは…」
「スバル様?…ほう、スバル様にも精霊術師としての素質があるようですね。」
「え、俺にも!?」
「はい。精霊との親和性がとても高く…」
「俺も、精霊術師になれるってことか!?」
「その通りです。それにしても、お二人とも精霊術師の素質があるとは…」
「そんなに珍しいんですか?」
「___精霊術師の絶対数は少ないんです。そもそも素質がないという場合がほとんどで、素質があったとしても誰も気づかない…なんてこともあったりするので…」
「へぇ…」
「エミリア様はみたところ火属性…スバル様は…ほう、陰属性でしたか。」
「陰属性?」
「魔法適正の話です。スバル様、彼らと契約を結んだりなどは興味ありませんか?」
「ちょっと、ジュース…」
一瞬、「契約とかの儀式してみてぇ…」と思ったが、心の片隅に小さな引っ掛かりを覚える。
この感覚は一体___。
ーーーーー
『___◼︎を選べ◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!』
ーーーーー
「いえ…俺が契約しても宝の持ち腐れになるだけですよ。___それに、誰の手を取るかは決めているので。」
「そうでしたか。烏滸がましいことを言ってしまい、申し訳ありません。」
後半は完全に無意識のうちに出た言葉だった。
決めているとは、なんなのだろうか。
それにしても、記憶にモザイクがかかっているような、そんな感覚がずっと____それこそ、召喚直後から、ずっと。
そんな、何か得体の知れない薄寒さも、
「ね、二人とも!一緒にあそぼ!」
と言ったエミリアの笑顔に打ち消されてしまった。
思わず、ジュースと二人で顔を見合わせ、
「喜んで。」
「___おう!」
各々の返答でエミリアとの遊びが始まったのだった。
「ジュース、絶対の絶対、また会おうね。これ、私とジュースの、約束!」
「はい、もちろんです。約束、ですね。」
「それでは、フォルトナ様も、スバル様も、息災で。」
「うん。」
「はい。ジュースさんも、お元気で。」
「ええ。」と微笑み、静かに会釈したジュース。___やばい。礼儀正しさが惚れる。俺の指針にしようかな…
そしてそのまま、ジュースとは別れる____はずだった。
別れは、唐突に乱入してきた足音に邪魔されることとなる。
「誰!?」
「___あのさぁ、まず最初に君が自己紹介すべきじゃない?確かに、知らない男が突然近づいてきたらそうやって警戒する気持ちは分かるよ?分かるけどさ、それでも最低限の礼儀ってものがあるでしょ。それすらしないまま相手へ礼儀を求めるって、それっておかしくないかい?まずは自分から相手に礼儀を施せば、相手も自然と返してくれる。こんな簡単なこともできないとかどうなの?」
「長話はいいから、誰なのか教えなさい!」
「魔女教大罪司教、『強欲』担当___レグルス・コルニアス。」
「マジョキョー…」
「それって確か…ジュースと同じ…」
「___あら。皆さんお揃いで、仲がよろしいですね。」
意識の外側から入り込むもう一つの声。
その声の主は、まさしく『白』。
まだ少女と言って差し支えないほどの見た目の少女は、布一枚だけ、という独特なファッションを着こなしている。
白金の髪に、白い布一枚。まさしく儚いという印象が残るその外見。風にさらわれそうなほど華奢な見た目。
ここに現れたということを除けば、ただの美少女なのだが___
「どうして貴方がここに…!」
「___パンドラ様!!」
その可能性は珍しいジュースの怒鳴り声で消される。
だが、直後、さらに珍しいものを見ることとなる。
「___パンドラぁーーッ!!」
フォルトナだ。
声に乗る怒り、その勢いのまま手を空に向け、魔力で練られた氷の杭が世界に顕現する。
それはそのまま、パンドラという名の少女へと一斉に向けられ____射出される。
混沌がより混沌を深めに、手を差し向けた。
全部一話にまとめようとしたらすんごい長くなっちまったぜ…












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!