第132話

墓参り
710
2023/10/14 15:25


ななもりside





遺品整理の翌日。


皆で朝食を終えて、俺と莉犬くんはフランシスカに連れられてらリアさんの墓参りに来ていた。
フランシスカ
ここよ、リアさんのお墓
ななもり
ななもり
案内ありがと、フランシスカ
フランシスカ
いいえ……
母の墓を目前にした莉犬くんは、呆然と立ち尽くす。
莉犬
莉犬
おかあ、さん………ッ
何を感じて、何を考えているのか……


それとも何も考えたくないのか、考えられないのか。



莉犬くんは数十分と微動だにせずに、14年前に作られた土の塊をただ見つめていた。
莉犬
莉犬
………
ななもり
ななもり
………
重すぎて息が詰まりそうな空間で、どれくらいの時間がたったか……


ふと、莉犬くんはぐっと俯いて、堰を切ったように声を溢れさせた。
莉犬
莉犬
ずっと……どこかで生きてる、って勘違いしてた
莉犬
莉犬
一生掛けて探したら、いつか会えるって思ってた……ッ
莉犬
莉犬
おれ、母似らしいけど……お母さんのこと、全く覚えてねぇよ
莉犬
莉犬
なんで……なんで自分の命を捨ててまでおれを生かしたの?
ななもり
ななもり
………
きっと、家族との関わりが希薄だった莉犬くんは知らない。


たいていの親は自分より子を優先する事も、


自身の命より子が大切だって事も、


親が子をいかに愛してるかも……
莉犬
莉犬
生まれてすぐなんて何も知らないし覚えてもないし、死んでも悔いることないんだから、おれなんか見捨てて生きればよかったじゃん……
莉犬
莉犬
その時のおれと違って、おかあさんが死んだら悲しむ人いたんだから
こんな、こんな残酷なことが言えてしまうのは……


きっと、知らないからってだけなんだ。
莉犬
莉犬
生まれたばっかのこども置いて、勝手に死ぬなよッ……!
莉犬
莉犬
どうせ先にいなくなるなら……
莉犬
莉犬
どうせなら、普通の親子として愛して欲しかったッッ!!!
莉犬
莉犬
ちょっとくらい甘えさせて欲しかった!!
莉犬
莉犬
親孝行とかさせて欲しかった!
莉犬
莉犬
生きてるうちに、話したかった!
莉犬
莉犬
せめて、もう一度会いたかった……っ!
莉犬
莉犬
会えなくても、生きてて欲しかった……ッッ
莉犬
莉犬
生きてなくても……覚えて、いたかった……
声と共に小さくなっていく、叶うことの無い願望。


もう二度と家族に逢えない辛さは知っていても……


幸せな記憶を思い返すことすら出来ない遣る瀬無さは、俺には到底共感してあげられなくて。
莉犬
莉犬
どんなお願いなら……どんなおねだりなら、きいてくれるの!?
莉犬
莉犬
1回でいいから、声だけでいいから、聞いてよ……ッッ!
掠れた嘆きも訴えも、聞き入れられることはなく風に消えていく。


無情に過ぎていく時間の中で、微かに震える小さな背中をただ見ていることしか出来なかった。
莉犬
莉犬
………っ
ぱっと前を向いた莉犬くんは、前にすっと両手を伸ばす。


そして、土魔法で花……茉莉花とカーネーションを形作り、墓の前に挿した。


永遠に枯れることの無い花を母に贈って、真っ直ぐな声で別れを告げる。
莉犬
莉犬
おれ、お世辞にも立派な子とは言えないけど……ちゃんと大きくなったし、今は幸せだよ
莉犬
莉犬
……産んでくれて、生かしてくれてありがとう
莉犬
莉犬
じゃあね、おかあさん
そう言って莉犬くんは踵を返し、俺の袖口を掴んだ。
莉犬
莉犬
行こ、なーくん
ななもり
ななもり
……うん
 




墓地を出て城の廊下を歩いていると、突然フランシスカの叔母さんから声を掛けられた。
モブ♀
モブ♀
あ、フラン!……今いいかしら
フランシスカ
姉さん、どうかした?
モブ♀
モブ♀
ちょっと色々、ね……
フランシスカ
あぁ……ごめんなさい、ちょっと用事があるから2人で部屋戻ってちょうだい
ななもり
ななもり
わかった、ありがとね
フランシスカと別れて、莉犬くんと2人で廊下を歩く。
莉犬
莉犬
せっかく墓参りに来たのに理不尽な文句と不満言ってさようなら、なんて……
莉犬
莉犬
冷静に考えたら酷い子だよね
ななもり
ななもり
莉犬くん……
そんなことはない……


仕方ないよ、会ったこともないんだもん……


散々理不尽に振り回されたんだから、理不尽なことしか言えなくても仕方ない……
ななもり
ななもり
……っ
俺には、俯く莉犬くんに掛ける言葉を見つけることが出来なくて……


部屋に着くまでの間、俺達の間には痛い沈黙が流れ続けた。



ガチャッ……
さとみ
さとみ
お、戻ってきた
ころん
ころん
おかえり〜
ななもり
ななもり
ただいま
莉犬
莉犬
………
部屋に入って扉を閉めると、ふと莉犬くんが動きを止めた。
ななもり
ななもり
……莉犬くん?
莉犬
莉犬
………ッ
ただの一言も喋らずに、俯き立ちすくむ様子を見てか……


るぅとくんは椅子から立ち上がり、莉犬くんに駆け寄った。


それから片膝を立てて目線を合わせ、頬を撫でる。
るぅと
るぅと
莉犬おかえり、大丈夫?
莉犬
莉犬
っ……ぁッ、
撫でられると同時に、莉犬くんの目に涙が溜まっていく。


それを自覚したのか眉間に皺を寄せて、自分の手の甲にグッと爪を立てた。


莉犬くんの手が離れた自分の袖口を見ると、存外に強く握られていたのか、手汗が滲んでしわくちゃになっていた。
ななもり
ななもり
ずっと、耐えてた?……今も
莉犬
莉犬
ぅ、っ……フルフル、ッ
ななもり
ななもり
もう……我慢しなくたっていいんだよ?
莉犬
莉犬
フルフルッ
何を言っても、莉犬くんは首を横に振るばかり。


ふと、ソファにいたさところとジェルくんもこっちに来た。


さとみくんは、莉犬くんの頭をわしゃっと撫でて声を掛ける。
さとみ
さとみ
莉犬
莉犬
莉犬
ビクッ
さとみ
さとみ
……爪立てんな、痛てぇだろ?
ころん
ころん
そーそー、跡になっちゃうよ
そう言いながらころちゃんは屈んで、さりげなく手を握る。


莉犬くんは肩を震わせて、ぎゅっと目を瞑った。
ジェル
ジェル
莉犬……親のこと突っ込まれたくないんも泣きたくないんも、そら分かるで?
ジェル
ジェル
でも我慢しすぎたら壊れてまうし……皆、壊れた莉犬なんか見たないんよ
莉犬
莉犬
っ……ぅ、るさッ
ジェル
ジェル
ごめんな……
莉犬
莉犬
っ、ぐッ
ジェル
ジェル
全部、全部我慢して押し殺さんといて?
そう言いながら、ジェルくんは莉犬くんの後ろにしゃがむ。
ジェル
ジェル
1人にして欲しいんやったら幾らでも待つし、それが嫌なら何時間でも傍におるから……
莉犬
莉犬
ぅ゙ッ、グスッ…な、……っ
莉犬
莉犬
ヒッ、っ……な、んでッッ!!!
なんで、か。


''なんで'' が何に対する疑問なのか、不満なのか、失望なのか……


言ってくれなきゃ、俺達にもわかんないな。
莉犬
莉犬
なんでっ、グスッ…なんでぇッ……!
るぅと
るぅと
っ、……ギュッ
るぅとくんは辛そうに顔を顰めて、震える莉犬くんを抱き寄せる。
莉犬
莉犬
なっ、で……ヒュッ…なん、でッ!
莉犬
莉犬
ゔぇッ…グスッ、っぐ、な゙ッんっ……
莉犬
莉犬
んぐッ……ゔあ゙ッ、あ゙あ゙ぁぁあ゙ッッ!
俺達は、堪えきれずに泣き叫ぶ莉犬くんを抱き締めて、


頭を撫でて、


手を握って、


背中をさすって、


何も言わずに寄り添った。


辛さに共感してあげることも、''なんで'' に答えてあげることも出来ないけど……


気持ちを押し殺してほしくないことを、我慢せずに感情をぶつけてもいい居場所があることを、ただ彼に知っておいて欲しかった。




・・・・・・。
莉犬
莉犬
はッ……グスッ、ん゙ッぅ……
あれから何十分も泣き続けた莉犬くんはすっかり声も枯れて、ぐったりとるぅとくんにもたれかかっていたけど……


ふと、るぅとくんの肩をぐっと押し返して呟いた。
莉犬
莉犬
……ちょっと、1人にさせて
るぅと
るぅと
!……うん
ななもり
ななもり
寝室篭っていいから、気持ち落ち着いたら出ておいで
莉犬くんはコクっと頷いて、ジェルくんの方をじっと見た。
ジェル
ジェル
?……莉、
莉犬
莉犬
……ごめんね
ぽつりとそう呟いて、莉犬くんは寝室に入っていった。


ギッ……パタン
ジェル
ジェル
……何だったんやろ
ころん
ころん
うるさいって言っちゃったの、気にしてたんじゃない?
さとみ
さとみ
かもな
ジェル
ジェル
いつも口悪い癖に、こんな時だけ気にすることないやろ……w
と、ジェルくんは苦笑する。



''我慢しすぎたら壊れてまうし''


''1人にして欲しいんやったら幾らでも待つし、それが嫌なら何時間でも傍におるから''



これまで幾度となくジェルくんから言われて……その度に救われてきたな。


きっとこの言葉が、ジェルくんの優しさの本質なんだろう。
ななもり
ななもり
……ジェルくんのそーゆーとこ本当に大好き
ジェル
ジェル
ぃ、いきなりどしたん……w
ななもり
ななもり
いや別に?
ふと、床に座り込んだままのるぅとくんがぽつりと呟いた。
るぅと
るぅと
莉犬……大丈夫かな
ななもり
ななもり
大丈夫、今はちょっと気持ちを整理する時間が必要なだけだよ
さとみ
さとみ
まぁそのうち出てくるだろうし、今は気長に待とうぜ
るぅと
るぅと
そう、ですね
ころん
ころん
………
暗い顔で俯くるぅとくんを見てか、ころちゃんはるぅとくんの手を引っ張って立ち上がらせた。
ころん
ころん
ほらほら、床座ってないでソファ行こ!
るぅと
るぅと
わっ……!
さとみ
さとみ
……後で莉犬が戻って来やすいように、るぅとはいつも通り笑顔でいてやれよ
るぅと
るぅと
あ……はい、
考えすぎちゃって落ち込んだるぅとくんを通常運転に戻して、後で莉犬くんに気を遣わせないようにして……


やっぱ連携すごいわ、さところ。
ジェル
ジェル
なーくんも行こ?
ななもり
ななもり
うん
それから俺達は、いつもと全く変わらないテンションで雑談をした。


ソファに座ってゆったり気長に待っているとフランシスカも戻って来て、お昼を食べて……


何時間と話していると窓の外も次第に暗くなってきて……



完全に日が暮れたころに、莉犬くんは出てきた。



………………………………………………………………
ぴよこ(作者)
ぴよこ(作者)
今回は、リアさんのお墓参りをした莉犬くんのお話です。辛く残酷な現実と底無しに優しく暖かい仲間との対比が伝わればなと思います。
ぴよこ(作者)
ぴよこ(作者)
今回の挿絵は、リアさんのお墓に背を向ける莉犬くんです。平静を装いつつ、どこかぐっと堪えているような表情ですね。
ジェル
ジェル
次回は出て来た莉犬と晩飯やな、莉犬昼食ってないし腹減っとるやろな……
ぴよこ(作者)
ぴよこ(作者)
それではまた次回。

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