第172話

限界_12
1,473
2026/01/10 14:28 更新
JUNON side

ガタッ、という音で、意識が浮かび上がった。


……ん?


一瞬、どこにいるのか分からなくなる。

天井。見慣れた照明。

ああ、家だ。

喉が少し痛い。

頭が重くて、こめかみの奥がじんわりする。


…まだ本調子じゃないな。笑

さっきまで眠ってたはずなのに

体を起こすだけで、体温が一気に上がる感じがする。


誰か、いる?

耳を澄ますと、キッチンの方から微かな物音。


……そうた、か。


あいつ、たまに勝手に合鍵で入ってくる。

連絡もなしに、ソファでくつろいでたり

冷蔵庫漁ってたり。
JUNON
…そうた?
掠れた声でそう呼びながら、廊下に出る。

寝起きのせいか、視界が少し揺れる。

頭が痛い。


廊下を曲がった、その先。

キッチンに立っていたのは——
JUNON
……え?
思わず声が漏れた。


あなた。


一瞬、脳が追いつかない。
JUNON
…あなた
え、なんで。

ここ、俺んち。


夢?

本気でそう思った。

熱で、都合のいい幻覚見てるんじゃないかって。


でも、キッチンの明かりも

冷蔵庫を開けている姿も、やけに現実的で。
JUNON
…え、なんで?
完全に困惑したまま、そう聞いてた。

あなたの方が、先に慌てたみたいに言う。
あなた
あ…ごめん、勝手に来て……起こした?
いや、起こした、というより

この状況に頭が追いついてない。
JUNON
音がしたから起きただけ
そう言いながら、やっと思考が動き出す。

……どうやって入ったかなんて、鍵しかない。
JUNON
…カギ、?
あなた
うん、そうたから借りたの
…あいつが?

一瞬、頭の中にそうたの顔が浮かぶ。


……行け、って渡したのか?

あの、かなり妬くタイプのそうたが?


正直、あんまり想像できないけど…
JUNON
……あー…
意味のない声が出る。

頭が熱でぼんやりして、感情が追いつかない。
あなた
…ごめんね、怒ってない?
そう聞いてくるその顔が、心配そうで。
JUNON
怒んないよ笑
それだけは、はっきり言えた。

怒る理由なんて、どこにもない。
JUNON
…起きたらさ
自分でもわかるくらい、声が静かになる。
JUNON
家にあなたがいるの、ちょっと不思議で
夢かと思った、って言いかけてやめた。

でも、本音だ。

起きたらあなたいる。

それだけで、胸の奥がふっと緩む。


……会いたいって、思ってた。

連絡できなかったくせに。

心配かけたくないとか言い訳して強がったけど。


今すぐ、抱きしめたいかも。
あなた
…体調、どう?
あなたの声で、現実に戻される。
JUNON
解熱剤が効いたかも。寝たらだいぶ…
そう言いながら、廊下を進んでいく。


キッチンの手前で立ち止まる。
あなた
あ、ゼリーとか、スープとか。簡単に食べれるもの買ってきたよ
そう言って、棚の方に視線を向ける。

その横顔を見た瞬間、胸の奥がぎゅっと詰まった。


――あ、だめだ。


起きたばかりで頭はまだ重いし

身体も本調子じゃない。

それでも、今この距離で、この背中を見てたら。


気づいたら、一歩踏み出していた。


あなたの肩にそっと額が触れるくらいまで近づいて

そのまま、静かに腕を回す。
あなた
……っ
小さく息を呑む気配が伝わる。

強く抱きしめることはできなくて

ただ、離れないように包むだけ。

熱があるのは分かってる。

本当はあんまりしちゃいけないんだろうけど…

でも。


起きたらあなたがいて

声を聞いて、匂いを感じて。


悪いけど、許して欲しい。
JUNON
…来てくれて、ありがと
囁くみたいな声が、自分でも驚くほど弱くて。

あなたはすぐには振り向かなくて

ただ、腕の中で一瞬だけ動きを止めた。



その静けさが、妙に心地よくて。


離すまでに、少し時間がかかってしまった。

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