第169話

限界_9
1,270
2026/01/02 15:42 更新
SOTA side
次の仕事場は

さっきまでの慌ただしさが嘘みたいに落ち着いていた。

スタジオの隅で待機しながら

俺たちはそれぞれ適当に腰を下ろして

他愛もない話をしている。
MANATO
今日のお便り急に重くなかった?笑
SHUNTO
気づいたら人生相談になるやつね
RYUHEI
ああいうのはJが上手いんだよ
MANATO
あー、落とし所が優しいんよね…
そんなやり取りを

俺は頬杖をつきながらぼんやり聞いてた。

会話の輪には入ってるけど、どこか半歩引いた位置。


俺の視界の端には、ずっと同じ光景があった。

少し離れたところにいる、あなた。

壁にもたれて立ったまま、スマホを見て。

ポケットにしまって。

また出して。

今度は腕時計を見る。


……分かりやすすぎる。

Jのことだろうな、って思う。

さっきから、もう何回目だ。
SOTA
…まなと
MANATO
ん?
SOTA
あいつずっとあんな感じじゃない?
まなとはちらっと目線を向けて

すぐ察したように肩をすくめた。
MANATO
うん笑…もう4回目
SOTA
え、数えてんの!?
MANATO
いや、あなたを見てるだけ
SOTA
…こわ!笑
MANATO
怖くねーわ!笑
…こいつはかなり見てるからな…笑

それでもってなんも言わず見守ってる。

必要な時はちゃんと出てくるし…

ほんとすげえやつ。


あなたの様子は気になるけど

一旦いつも通り仕事をこなす。

ラジオ収録が終わって、現場が一気に片付いていく。

スタッフの声、バッグの音、椅子を引く気配。


その中で、あなただけが少し動き遅れてる。

スマホを見て、何も来ていないのを確認して

また画面を暗くする。

俺は自然に近づいた。
SOTA
あなた
声をかけると、少し驚いた顔でこっちを見る。
あなた
あ、そうた、お疲れ様
SOTA
お疲れ
一拍置いてから、軽く言う。
SOTA
…ちょっと話せる?
一瞬だけ迷ったあと、あなたは小さく頷いた。
空いてるRECルームに連れていく。

ドアを閉めると、外の音がすっと遮断されて

空気が一段落ち着いた。

さっきまでのざわつきが嘘みたいに静かで

呼吸の音がやけに近く感じる。
SOTA
Jから、連絡あった?
あなた
……まだ
SOTA
…心配?
俺が聞くと

あなたは少しだけ眉を下げて、素直に頷いた。
あなた
うん
その一言が、思ってたより重くて。

俺は無意識に、ポケットの中で指を握り込んだ。
あなた
寝てるんだと思うんだけど…ちゃんと水分とったかなとか、食べ物あるのかなとか…
言葉の途中でスマホを見下ろす。

画面はもう暗いのにそれでも離さない。


俺的に、その答えだけで十分だった。

少し考えてから静かに切り出す。
SOTA
……さ
少し間を取ってから、俺は続けた。
SOTA
俺Jとマンション同じなんだよね…
あなた
うん、知ってるよ
SOTA
……合鍵、持ってる

一瞬、あなたの視線が俺に戻る。

驚いたように瞬きをしてそれから少し戸惑った顔。


ポケットから鍵を出すと、金属が小さく音を立てる。
SOTA
様子見てきてあげてよ
そう言って差し出した時

あなたが鍵を取ろうとして指先が俺の手に触れた。


ほんの一瞬。

でも、なぜかちゃんと分かるくらいの温度。


あなたは慌てて手を引こうとして

俺の方が先に、そっと力を抜いた。
あなた
…わかった、ありがとう
小さく言われて、胸の奥がきゅっとなる。

俺は衝動を誤魔化すみたいに

あなたの頭に軽く手を置いた。


ぽん、っていうより、撫でるに近い動き。
SOTA
気、張りすぎ笑
そう言った声は、自分でも少し優しすぎたと思う。

こいつは何も言わなかったけど

一瞬だけ、肩の力が抜けたのが分かった。


正直、妬けないわけじゃない。

あなたが一人でJの部屋に行くのも

そこに自分がいられないのも。

でも。

――俺がJの立場なら。

今は、あなたにそばにいてほしい。

それだけは、迷いなく思えた。
SOTA
…起きてたらさ
鍵を握るあなたの手を見ながら、俺は続ける。
SOTA
ちゃんと休めって言ってやって
あなた
…うん
あなたは鍵を握り直して、しっかり頷いた。

RECルームのドアを開けて出ていく背中を

俺はしばらくそのまま見送っていた。


ーー俺はゆっくりと息を吐いた。

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