(※ドラマ6話終了後からの妄想話です)
良介くんを追いかけて走る。
走るスピードが速くて、いつの間にか背中が見えなくなっていた。
何も考えないようにひたすら走っていたけど、どんどん懐かしい光景が近づいてきて思わず立ち止まった。
昔、毎日のように通勤で使った道。
思い出されるのは、全部楽しい思い出なんかじゃなくて。
楽しい思い出なんて1つも思い出せなくて。
ただ、辛かった記憶だけが背中にのしかかる。
ダメだ。
進めない。
これ以上前に進めない。
足が鉛のように動かない。
早く良介くんに追いつかないといけないのに。
ふと思い出してポケットから携帯を取り出す。
佐神くんが、今日の凱旋ライブは配信もすると言っていた。
楽しみにしてるって、私、言った。
時間を確認すると、すでに配信の時間になっていた。
たまたまあったイヤホンを携帯に差し込んで、両耳に当てる。
途端に聞こえてくる、佐神くんの、声。
曲が始まる。
みんなの声が代わる代わる聞こえて、ざわざわしていた胸の内が少しだけ落ち着いた気がした。
みんなの声を聞きながら、不思議と足が動いた。
一歩、二歩と足が前に進む。
みんなの歌声が私を包み込んで、そっと背中を押してくれるような気がして、気がついたらまた走り出していた。
みんなの声が、佐神くんの声が、聞こえる。
みんな、すごいよ。本当にすごい。
曲が終わったタイミングで、学校の正門が見えた。
もうみんなの声は聞こえない。
あとは自分が進んで、歩いていくだけ。
私だって、前に進まなきゃ。
なのに。
なんで。
正門から全く動かない足を叩く。何度も叩く。
ここまで来たのに。ここまで、みんなの声で走ってこれたのに。
正門から見える校舎が目に入った瞬間、思い出したくない過去たちが一気に押し寄せてきた。
心無い罵声、冷たい目。
今まで築いてきたもの全部が崩れる瞬間。
呼吸が苦しくなって、思わず胸元を左手でぎゅっと抑えた。
息の仕方を忘れたみたいに、何度を口を開閉させる。
うまく息が取り込めない。
激しく上下する肩。
立っているのも耐えられなくなって、正門の壁に肩を寄せてズルズルとしゃがみ込んだ。
さっきまで聞こえていたみんなの温かくて優しい歌声を、思い出したいのに。
頭の中で繰り返し聞こえるのは過去の思い出したくない言葉たちばかりで。
結局私は、なんにも前に進めてない。
みんなに偉そうなこと言ってるけど、私は自分自身のこと何一つ出来てなくて。
ずっと、過去に囚われてばかりで。
助けて。
たすけて。
本当はずっと、誰かにそう言いたかった。
そう思った時、ふと頭の中に浮かんだのは、なぜか佐神くんの、顔で。
瞬間、
地面についていた右手を、大きな手のひらが覆った。
頭上から私を呼ぶ声。
聞きたかった、声。
見上げると、真っ直ぐな瞳が私を見つめていた。
佐神、くん?
頭の中で繰り返される罵声が急にクリアになる。
名前を呼ぼうと思ったけど、呼吸も満足にできなくて、言葉にならなかった。
なんで。
なんで?ここにいるの
佐神くんが私の右手をギュッと握りしめる。
温かい体温に、思わず視界が歪んだ。
たまらず泣き出してしまいそうな私に、もう一度佐神くんが名前を呼ぶ。
このタイミングじゃなかったら「初めて名前呼んでくれたね」なんて軽口言えるのに。
ずるいよ。
私の目を真っ直ぐ見つめながらそう言う。
お互い視線を合わせたまま。
言われるがまま、なんとか佐神くんの呼吸と合わせて整えようとする。
ゆっくり、佐神くんが呼吸をリードしてくれる。
眉尻を下げて心配そうな瞳を向ける佐神くんに、心の中で何度も謝った。
ごめんね。
こんな姿、見せたくなかったのに。
見たく、なかったよね。
だけど、佐神くんの手の温もりに安心しているのも事実で。
あの頃、
こんな風に、私に手を差し伸べてくれる人がいたら、今とは違う未来があったのかな、なんて思ったりもして。
何度も繰り返される佐神くんの「大丈夫」の言葉に、涙が伝い落ちそうになる。
それに気付いた佐神くんの親指がそっと拭ってくれる。
名前を、呼びたいのに。
大丈夫だよって、笑いたいのに。
後ろから焦ったように私を呼ぶ声が聞こえた。
振り返れない代わりに、佐神くんが私の背後に視線を移して呟いた。
...next?
(時間があれば続きます笑)











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。