諸伏さんのビーフシチューをたいらげたあと、私は、みんなにトリップしようとした方法を教えた。
なんせ、グッズを置いて寝る。それだけだから。
あるはずのない記憶。
そう言った瞬間、しんみりとした空気が流れる。
私は、そんな空気を変えるためにパンッと手を叩く。
みんながここにやってきてから、今日までの出来事をまとめてある。
なんせ、推しが我が家にやってきたのだ。
忘れてしまうのはもったいない。
推しへの愛が詰まった日記を、推し自身に読まれるなんて、考えただけでも恥ずかしい。
穴があったら入りたい。
今からでも掘ってしまおうか。
ありすぎてもうすぐ2冊目に突入する。
たった数日間の話なのに。
みんなの魅力を事細かに書いていくと、一日で2、3ページは書ける。
日記に書き留めておきたい。
よし。1字1句暗記した。
これも日記に書き留める。
もしも失敗しても、ここで伝えることに悔いは無い。
むしろ、伝えないまま別れてしまう方が悔しい。
私が、ずっと胸に秘めていた思いを告げると、みんなは顔を見合せた。
顔を見合せながら、苦笑する。
それから、まるで打ち合わせでもしたかのように声を揃えて言う。
「「「「「出会わせてくれて、ありがとう」」」」」
泣く予定なんて無かったのに、そんなことを言われてしまえば泣くのは必然的だ。
無いわけがない。
私は、さっそく自室に戻って全員分のグッズを持って行く。
こんなに可愛いのに。
みんなに、各々のぬいぐるみを渡す。
あぁ、これでお別れかもしれないんだ。
そう思うだけで、寂しくなる。
みんなからの「ありがとう」を聞いて、さらに泣きそうになる。
寂しさを押し殺して、笑って言った。
トリップしたいと強く願って、夜明けを待った。











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。