第16話

24話
212
2025/12/18 11:22 更新
諸伏さんのビーフシチューをたいらげたあと、私は、みんなにトリップしようとした方法を教えた。
あなた
やり方はいたって簡単で、そのアニメのキャラのグッズをベッドの近くに置いて寝る。
そうするとあら不思議。そこはあなたの行きたい世界!らしい
萩原研二
え?たったそれだけ?
あなた
そうらしい。私も初めは拍子抜けしたよ


なんせ、グッズを置いて寝る。それだけだから。
松田陣平
やることは単純なのに、起きたことはすっげぇ複雑だな
あなた
なんか、ごめん…
降谷零
…もしかしたら、これが僕らが話せる最期の機会になるのかもしれないな
あなた
えっ、嫌だ
降谷零
嫌だとかじゃなくて、もしもの話だろ
あなた
そうだけど、嫌だよ
諸伏景光
そういえば、元に戻ったあとの記憶ってどうなるんだろう?
伊達航
あったままがいいけどな
あなた
……すっごく嫌だけど、それは無理だね。
だって、あるはずのない記憶がだから


あるはずのない記憶。

そう言った瞬間、しんみりとした空気が流れる。
私は、そんな空気を変えるためにパンッと手を叩く。
あなた
ま、それも分かってたから、私、実は日記をつけてたんだよね
萩原研二
日記?
あなた
そうそう。忘れても、ちゃんと思い出せるように


みんながここにやってきてから、今日までの出来事をまとめてある。
伊達航
忙しいのに、そんなことしてたのか
あなた
"そんなこと"なんかじゃないよ。大事なことなの


なんせ、推しが我が家にやってきたのだ。

忘れてしまうのはもったいない。
萩原研二
みーせて
あなた
だっ、だ、だ、ダメだよ!?
松田陣平
人に見せられねぇもんを書いてんのか?
あなた
ち、違うよ!


推しへの愛が詰まった日記を、推し自身に読まれるなんて、考えただけでも恥ずかしい。

穴があったら入りたい。

今からでも掘ってしまおうか。
諸伏景光
でも、そんな書くことってある?
あなた
ある
萩原研二
即答じゃん…


ありすぎてもうすぐ2冊目に突入する。

たった数日間の話なのに。
みんなの魅力を事細かに書いていくと、一日で2、3ページは書ける。
あなた
あ、そうだ、何か言い残しておくことはある?

日記に書き留めておきたい。
萩原研二
無いって言ったら嘘になるけど
松田陣平
もしかしたら失敗するかもしんねぇって思ったら、中々言えねぇよな
諸伏景光
なんか、まだ帰りたくないよね
伊達航
あれだけ帰りたかったんだけどな
降谷零
もう帰るかもしれないって思うと、名残惜しいよな


よし。1字1句暗記した。

これも日記に書き留める。
あなた
…私は、みんなに言いたいこと、いっぱいあるよ。
もう、お別れだって覚悟はできてるから、いつでも言える


もしも失敗しても、ここで伝えることに悔いは無い。

むしろ、伝えないまま別れてしまう方が悔しい。
あなた
私は、自分のせいだとはいえ、みんなに出会えてよかった。私一人だったら絶対に諦めてたことも、みんなが居たから乗り越えようって思えた。
本当にありがとう。元はと言えば私のせいだけど…助けに来てくれて、ありがとう


私が、ずっと胸に秘めていた思いを告げると、みんなは顔を見合せた。
萩原研二
俺も、あなたの下の名前ちゃんと出会えてよかった。
なんつーか、色々学んだよ。警察官としての姿勢とかさ
松田陣平
ここまで覚悟して、色々抱えてんだなって
伊達航
俺たちのモチベーションにもなった
諸伏景光
ただコンビニに行こうとしてこんな目に遭って、正直すぐにでも帰りたかったけど…
降谷零
帰る相談をしている今の方が、寂しかったりするんだよな


顔を見合せながら、苦笑する。
それから、まるで打ち合わせでもしたかのように声を揃えて言う。


「「「「「出会わせてくれて、ありがとう」」」」」
あなた
っ……あぁもう、なんで泣かせにくるかなぁ…


泣く予定なんて無かったのに、そんなことを言われてしまえば泣くのは必然的だ。
萩原研二
そうだ、上手くいくかわかんねぇんだけどさ、俺らも一緒にやってみねぇ?
トリップ
あなた
どういうこと?
萩原研二
トリップの方法は、そのアニメのキャラのグッズを置いて寝ればいいんだろ?
だったら、俺らも、自分のグッズをベッドの近くに置いて寝れば、あなたの下の名前ちゃん1人がやろうとするより上手くいく確率が上がるんじゃねぇ?
諸伏景光
じゃあ、さっそく試してみよう。
あなたの下の名前さん、人数分のグッズは、ある?
あなた
もっちろん!全員もれなく全種類集めてますよ!
アクスタも、ぬいぐるみも、キーホルダーも、色々
降谷零
その中で、僕たちが警察学校時代のものがあればいいんだが
あなた
えぇ、もちろんありますとも


無いわけがない。

私は、さっそく自室に戻って全員分のグッズを持って行く。
松田陣平
うわ…マジで俺たちじゃねぇか…
あなた
可愛いよね
萩原研二
可愛い…けど…ここまで自分そっくりのぬいぐるみがあると思うと、ちょっと…
諸伏景光
俺、この世界で生きてなくてよかった…
伊達航
なんというか、いたたまれないよな…こんなの売り場で見つけたら
あなた
ああ、これね、クレーンゲームで取ったやつ
降谷零
…突然ゲームセンターに行きたくなくなった
あなた
みんな酷いよ…


こんなに可愛いのに。
諸伏景光
ま、まぁ、とりあえずやってみようか
あなた
そうだね


みんなに、各々のぬいぐるみを渡す。


あぁ、これでお別れかもしれないんだ。



そう思うだけで、寂しくなる。
あなた
それじゃあ、おやすみ。
今までありがとう
萩原研二
おやすみ。こちらこそ、ありがとな
松田陣平
色々と世話になったな。ありがとう
諸伏景光
大変なことの方が多かったけど、楽しかったよ。ありがとう
伊達航
もうお別れだって考えると寂しくなるな。
今までありがとな
降谷零
元の世界に戻っても記憶がある可能性は限りなく低いが…忘れたくないと思えるよ。ありがとう


みんなからの「ありがとう」を聞いて、さらに泣きそうになる。

寂しさを押し殺して、笑って言った。
あなた
それじゃあ、またね




トリップしたいと強く願って、夜明けを待った。

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