【告白】
今日も今日とて柱稽古。
稽古を初めてまだ5日ほどだが、皆動きが初日より良くなっていて嬉しく思う。
これからの暇な時間は何をしようか。夜の見回りが終わったら宇髄の家に行ってもいいな。
それとも甘露寺におすすめされた甘味処にでも行こうか。でも僕は甘いものは得意ではない。
ならいっそ他の柱の稽古に参加しよう。他の子たちの稽古の様子も見たい。
誰のところに行こうか。肝心なのはそこだ。
申し訳ないが甘露寺の所は勘弁したい。あんな格好したくないし、僕の体はそこまで柔らかくない。
悲鳴嶼さんも申し訳ないが遠慮したい。今は滝行の気分ではない。
ならどうしようか。
実弥のところに行こう。今回の柱稽古に1番と言ってもいいほど張り切っていたのは実弥だ。
実弥は優しいから、他の隊士達に死んでほしくないのだろう。本当に不器用な優しさだ。
そう歩き出そうとした時。
真剣を持った実弥が詰め寄る。
突風。羽織が少し破れる。
実弥は刀を振り下ろし僕の首を狙う。それを刀で防ぎ後ろへ跳ぶ。逃げの体制に入る。最初は実弥の番だという優しさでもあり、煽りでもある。
実弥の本気を出させるために。
実弥の殺意が僕の脳に走る。
そこまで広くない僕の屋敷の庭は実弥の風でボロボロになってゆく。
乱れうちの技。でも太刀筋は正確で。
実弥の呼吸の隙に合わせ距離を詰める。刃先で腹を斬る。少し抉れた感覚がする。
参ノ型、 晴嵐風樹。
実弥の腹から血が吹き出す。風に乗り僕の羽織へかかる。
一旦下がり実弥がこちらに来るのを待つ。
が、こない。今度は実弥が待つ番のようだ。
お言葉に甘えて。
土を蹴り実弥の首ではなく頭を狙う。刀を突くように前へ。実弥が右に避けた隙に刀を右へ。今度は首を狙う。僅か一瞬の内に実弥の首へ。
動きが止まる。
勝負あり。
僕はぽかんとする実弥の手首を掴み引っ張って屋敷へ歩く。
その間も血は止まらない。僕は破れかけた羽織を引きちぎり実弥の腹に巻く。
馬鹿はお前だと言いたくなるがぐっと堪える。縁側へ座らせ奥から救急箱を持ってくる。
血が止まらない傷口を塞ぎ圧迫。数分そうして血が止まったら塗り薬。そして色々して包帯を巻く。
羽織だった布切れを見る。
別にこの羽織になんの愛着もない。
真っ白だった羽織が実弥の血で汚れるのがなんとも言えない感情を起こす。この感情はなんだろう。
まあいい。これは後で捨てて、新しい羽織を作ろう。
処置をする間実弥は無言だった。ただ俯いていて、まるで子供のようだった。
屋敷はすっかり無人になった。いるのは俯いている実弥と僕だけ。
庭に咲いていた藤の花も所々千切れ土の上に落ちていた。
よしよし、と頭を撫でる。実弥は抵抗もせずずっと俯いている。
髪の間から見えた実弥は
本人でも気づかない内に、実弥は泣いていた。
僕は訳も分からずあんあわと慌てるだけ。
実弥はぐしゃぐしゃに泣きながら血で汚れた羽織を抱いた。
そうか。
この子達にとっては羽織は僕同然なのかもしれない。昔から同じ羽織をずっと使ってきて、時折実弥や義勇に羽織を洗濯させたり、昼寝している実弥達に羽織をかけてやることもあった。任務で留守にする時、義勇が泣いて僕の代わりに羽織を家に置いていく事だってあった。
ただ"その程度"だと思っていた。
今まで破れたことはなかったし、汚れたことさえなかった。だからこそ、実弥は僕よりこの羽織を大切にしてきたのかもしれない。言わば思い出の塊なのかもしれない。僕の代わりだったのかもしれない。
そんな大切なものを、僕は"こんなもの"呼ばわりした。それは実弥にとってすごく辛いことなのかもしれない。
僕には推測しかできない。
実弥を抱き寄せる。まだ実弥は泣いている。僕の羽織を大切そうに持って。
背中を撫でてやる。ああ、今かもな。
そう言って僕は左手を出す。
力を込めると、左手は青色に輝く。
僕の左手は創造、そして、右手は破壊を司る。
青色の光が収まった時、左手には新しい真っ白の羽織があった。
声のした方へ振り返ると、おはぎを手に持った義勇がいた。
僕は義勇と実弥に全て話した。
十数年前に下界におりてきたこと。
力は弱いが神の力を使えること。
人ではないため呼吸が使えないこと。
稀に未来が見えること。
不老だということ。
否定されなくて良かった。2人とも、僕を肯定してくれてよかった。
その時、少しだけ未来が見えた。
笑うふたりの後ろ姿。僕はそれを遠くから見ている。
桜が風に乗って舞う。ひらひらと落ちる花びらの中の2人はとても美しい。
これは果たして幸せな未来なのか。それは分からない。
でも、もしこれが不幸な未来だとしても。
変えてみせる。僕が2人を守るために。
愛するふたりのために。
ここから
カナン×実弥
カナン×義勇 要素あります。
次の日
今日も稽古だ。今日から入ってきた子も数人いて、大したものだなと感心する。僕が一般の隊士だったら、他の柱の稽古を突破する自信が無い。
僕の稽古は比較的優しいから、他の柱の所より人が多い。だから全員は見きれなくても、意欲のある子たちは気にかけている。
休憩の号令をかけて僕は水を飲みに一旦屋敷へ戻る。
稽古はいつも僕の屋敷の庭でやっているので、一度に全員ではなく半分半分に人数を分けて日替わりで稽古を行っている。庭でやっていない子達は他の場所で自主練だ。
水をぐいっと飲み干し口元を拭う。
明日は炭治郎が来るんだっけか。あと、あの金髪。
楽しみだ。あの子たちは他の隊士より伸びしろが期待されている。なんなら僕より上弦と対峙している。他の子達よりもキツく稽古しよう。
誰かのコソコソ話が聞こえてきて、僕は息を潜める。こういう話は興味がある。
僕が女だったら惚れてただと?なんと失礼なことを言う。後で稽古キツくしてやろう。
決めた。コイツらまとめて伊黒なところに送ってやろう。
それに僕のことを実弥が好きなのは当たり前じゃないか?仮だが親として何年も一緒にいたんだから愛情が湧くのも当たり前だろう。それが家族愛であれ恋愛感情であれ。普通のことでは無いのか。
それに僕は男色だ。男に好かれる方が僕は嬉しい。
相手が実弥ならもっと嬉しい。
気がついたら、僕は隊士たちの前に立っていた。
明日にでも実弥に聞きに行こう。僕のこと好きなのか。好きじゃなくても痛くない。
次の日
炭治郎たちは稽古が始まる何時間も前に来た。
一旦敬語が始まるまでお茶を飲むことしに、話を聞きながらゆったりとした時間を過ごす。
稽古が始まると、
他の隊士達がやっている稽古を見せ、同じことをするように命じる。基本的に見よう見まねで練習し、分からなかったら聞きに来ると言う方法なのだが、僕はその日稽古が終わるまでずっと炭治郎達の横にいることになった。炭治郎はすぐ聞きに来るからだ。
そんなこんなで時間が経つ。
実弥の屋敷に行く頃にはすっかり夕暮れになっていた。
玄関に履物を揃えて置く。実弥の屋敷はいつも人の気配がしない。
黙って実弥の後を着いていく。
広い部屋に通され僕はなんとなく正座をする。
それにつられてかは分からないが、実弥も正座をする。
実弥は立ち上がり僕に指を指す。顔だけでなく耳まで真っ赤だし、汗もすごい。
実弥は
実弥はははっと笑った。もう顔は真っ赤じゃないし、照れたりもしていない。
これは所謂"はぁれむ"というやつか。
ばっと手を広げる。実弥はおずおずとこちらに寄る。
ぎゅ。
頭を撫でてやると、実弥は安心したのかふっと力が抜ける。
そのまま十分はそうしていた。
そろそろ手合わせの時間がやってくる。僕は実弥を離す。
僕の合図によって無一郎くんが動き出す。
土埃によってあまり見えないが、伊黒と実弥の2人でも互角に戦える無一郎くんは本当に凄いとしか言いようがない。
義勇はこういう時男前な時がある。普段無口なくせにこうも男前だと逆に心配になる。
沈黙。二人して三人の戦いを無言で見つめる。気まずいのではなく、無言な方が安心するからだ。
この関係はなんて名前なのだろう。
2人に好かれて、僕もふたりが好きで。
宇髄の所は嫁が三人いたな。あれは夫婦という名前なのだろうか。
じゃあ僕らは?男同士だし、恋仲だと言っていいのかさえわからない。
名前なんかいらないのかもな。
僕の大切な人達。それでいい。
土埃が収まり三人の姿が見える。
今回は伊黒達の勝利らしい。
位置に立ち木刀を構える。
怪我はさせない。完璧な勝利を。
第8話
終わり
変な感じになってしまい申し訳ありません。
過去一長くなってしまいました。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。