カナン×実弥 要素注意
前半のみ実弥視点
無意識に舌打ちがでる。
目前では今、カナンと冨岡が手合わせの最中だ。
俺とカナンとの手合わせは数える程しかしてこなかった。
いや、やらせてもらえなかったが正しい。
危ないから。ただそれだけの理由で。
だから真剣で手合わせできてすごく嬉しかったのに、冨岡、こいつは簡単にご指名されて刀を交えられる。
腹立たしい。出来ることなら、カナンを独り占めしたい。
何を考えてるんだ俺は。ぶんぶんと頭を振る。
アイツは。自分で技も作りやがって、俺らを逆撫でするような発言までして。なのにカナンから好かれているなんて。
また舌打ちが出る。
あの血で濡れた羽織は、俺がこっそり手に入れた。
カナンの一部と言ってもおかしくない羽織を、俺のものに。
なんという背徳感だろうか。
まだ手合わせは続く。水の呼吸は俺が使う風の呼吸のように技は派手ではない。使い手も多い。
その頂点に立つ男。
俺より、冨岡のほうが。
腹立たしい。カナンに斬られた傷が痛む。
怪我なんてしょっちゅうする。生傷は絶えず体にできる。
なのに、この傷だけは特別だ。カナンが創り上げたあの刀で斬られた傷だから。
自分でも女々しいことはわかっている。だからこそ余計腹が立つ。
むしゃくしゃする。今すぐ誰かと剣を交えたい。
苛つきが頂点に達しそうな時、手合わせが終わった。
その時透の神の一声によって、一日ぶりの手合わせが始まった。違うところは、木刀であること。カナンが連戦しているということ。
今までのたった数回の手合わせで、カナンに勝てたことは一回もない。だが今日は勝てる。
そしたら。きっと。
その合図で一気に飛び掛る。
壱ノ型 塵旋風 削ぎ。
カナンはそれを軽く受け流す。
木刀を上へ。次の技を構える。
弐ノ型 爪々 科戸風。
さすがに堪えたのか、カナンは後ろへと跳ぶ。
その後も、技を出し続ける。
それでも攻撃はしてこない。この前の二の舞になりたくないようだ。
なら二の舞にならせてやる。こっちが勝つか、こっちが負傷するか。ただそれだけだ。
後ろへ下がる。指で挑発する。
思惑通りカナンがこちらへ接近する。カナンは呼吸が使えない。だから単純な剣術での勝負。勝てる。
バギッ
攻撃を防いだ時、カナンの木刀は綺麗に折れた。
今回もこれで勝負は終わり。
こんな勝負ならやらなきゃ良かった。
上辺だけの褒めなんていらない。俺だけを見てほしい。
ずっとそうだ。泣き虫だった冨岡をあやして、俺は後回し。俺はずっと寂しかったんだ。竈門の野郎についても、俺には知らせずに腹賭けて。
なんなんだ。俺だけ。
握る拳に力が入る。そんな俺を察してか、伊黒が再戦を提案する。
俺は断った。ただの意地だった。
俺はこんな俺が大嫌いだ。
なんだ、これは。
実弥の心が僕へ流れ込んでくる。
痛い。泣きそうになるほどの感情。
手に持っていた折れた木刀が手から落ちた。
下を向く。今前を見たら泣いてしまいそうで。
なんて馬鹿なんだ僕は。
その謝罪は誰に向けたものなのか分からない。
落ちた木刀を拾って、木刀がまとめて置いてある所へ投げる。
次は無一郎くんと伊黒の番だ。
伊黒達の手合わせを見ながら、僕は義勇に聞かれない声量で実弥に話しかけた。
反射的に実弥の口を手で覆う。幸い義勇には聞こえていないようだった。僕は実弥の目を見て続ける。
実弥はもうそれはそれは真っ赤になっていて、今にも飛んでいきそうだった。
頭を撫でる。ほんのすこしだけ。
これで少しでも不安が無くなればいいな。
義勇を見る。あの子は、どう思っているのだろうか。
いいや。今は実弥のことだけを考えよう。
そう言うと、実弥はすこしだけ嬉しそうな顔をした。
手合わせが終わり、各々帰っていく。義勇におやすみと言って、僕は実弥の手を掴んで歩き出す。
掴むと言うより繋いでいる。手をまるで恋人のようにし、隣に並んで歩く。
俺を見ろ。
実弥の言葉に、僕の顔はみるみる赤くなった。僕の顔は自分で見なくても茹でダコのようになっているだろう。
実弥が笑う。
前に実弥を見た女性隊士達がきゃーきゃー言っていたのを思い出した。
そうやって夜は更けていく。
明日、いや明後日は義勇の所へ行こう。
隣の実弥を見る。大きい背。ガタイも随分良くなって、もう立派な男だ。
道は長い。手に汗を少しかく。
一理ある、と頷く。
空いているもう片方の手で撫でてやる。まだ笑顔は幼い。
傍から見たら気味悪がられるかもしれない。
でもこれが僕らの形。
見ているのは、天に浮かぶ月ただ一つ。
第8話
終わり












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!