始業式が終わり、実弥と義勇は自分のクラスがあるのでそっちに行き、僕は暇になったので校内を見て回ることにした。
カナエからは言われていなかったのだが、3年にしのぶがいた。
しのぶは僕の顔を見てはっとした。おそらく思い出したのだろう。
あとで3学年棟に改めて行ってみよう。
養護教諭というものがよく分からなかったので、
(仕事の内容はもちろんわかっているが、日常生活での立ち回りなど)とりあえず印象として白衣着てそうだなと思ったので白衣を着ている。
図書館や自習室、クラスを見て回り、また保健室に戻ってきた。
基本的に保健室で仕事をするため、実弥や義勇、ほかの先生達とは簡単には会えない。
まあ、お昼休みとかに会いに行けばいいか。
今は楽観的だが、この後物事はそう簡単に行かないことを、僕は知る。
順調に一学期が始まり、保健室にいると様々な人間が居るのだなと思い知った。
ギャルのように明るくてメイクが派手な女子に、一軍と呼ばれるイケイケな男子。一方少し引っ込み思案な子など、様々な子が毎日入れ代わり立ち代わり保健室にやってくる。
それに加え事務の作業もあり、僕に自由は時間はほぼなかった。
悩みがある子の相談にも乗ったり、色々書類を作ったり、お昼休みにはギャルたちが話にやってくる。
若い子と話すのは少し疲れるが、現代のコミュニケーションは非常に面白くて、つい話が盛り上がってしまう。
だから学校で休めるのは、生徒たちが授業をしている時間の、ベッドで誰も休んでいない日。
疲れる。教師になっていいことも沢山あるが、辛いことも沢山ある。鬼狩りの頃から肉体に鞭打ってきたが、それよりもきついかもしれない。座りっぱなしは非常に辛い。
そんな時、保健室の扉をコンコンと誰かが叩いた。
前よりも僕の方が背が高くて、いつ見ても新鮮だなと思う。
見下ろすのはこれで何回目か。同棲を始めてから、隣に立つことはあっても見下ろすことは無かったかもしれない。
実弥の髪の毛をふわっと撫でる。
指輪について、前義勇が生徒に聞かれて困っていたので、3人で「聞かれたら素直に答えよう」と決めたのだ。
ソファに腰掛けた実弥の隣に座り髪を撫でている。
たった5分程度。それでも心の疲れが取れていく。
実弥は表情にはあまり出ないが、嬉しい時は頬がすこしあがる。それが可愛くてつい撫ですぎてしまう。
最後に優しく抱きあって、実弥は出ていった。
そこから、1週間に1回来るか来ないかのペースで、実弥は保健室に通い始めた。
義勇が幼い頃僕を独り占めしていたように、実弥も今僕を独り占めしている。
実弥は少し嫉妬深い所があって、それが今でいうギャップ萌え、というやつだ。
義勇は恋愛においては鈍いので、あまりギャップ萌えというものは無いかもな。いや、鈍いのがギャップなのか。
まあいい。疲れも取れた事だ。僕はまたパソコンに向かいにらめっこを始めた。
こうして保健室の常連のギャル4人組が相手を見事探し当てたのは、2週間後の事だった。
そこからは大量の質問攻めにあいながら仕事を終わらせ、こりゃ迷惑かけるなと反省した。
仕事終わりの実弥と義勇がいつもより疲れ果てていたのは、きっと見間違えではないだろう。
そのあとは、一学期が終わり、二学期に入り。
文化祭は僕も結構忙しくて大変だった。
その文化祭の終わり。先生たちで飲み会に行った。
メンツは宇髄、僕、実弥、義勇、伊黒、煉獄の6人。ほかの先生たちは綺麗に受け流し帰って行った。
いわゆる僕らは被害者だ。これから宇髄のアルハラに付き合わされ潰される。明日が休みなことをいいことに、朝まで飲まされるかもしれない。
だが今日は違った。
紹介したい人がいる。その伊黒の一言で場の空気は完全に変わった。
一旦伊黒が外に出ていき、数分後、伊黒は戻ってきた。
ある女性と一緒に。
その後が大変だった。甘露寺は大泣きして、他のお客さんに白い目で見られた。
甘露寺は意外と酒に強かった。
義勇が最初に潰れそれを実弥が介抱し、僕は甘露寺の話を聞き、宇髄は伊黒に色々聞き出そうとしている。
何だこの空間は。
甘露寺の話は面白かった。甘露寺だけに見せる伊黒のスマートな仕草や、どんな所がカッコイイだの素敵だの聞かされ、僕は面白くてたまらなかった。
その日の飲み会はいつもより早めに解散となり、僕と実弥で潰れた義勇を頑張って支えながら家に帰った。
甘露寺の連絡先も貰った。僕からではなく甘露寺から教えて欲しいと言われたので無問題だ。
あの二人が幸せそうで僕は嬉しい。あの最後がずっと心残りだったのだ。
現世で幸せになってくれて嬉しい。あの二人が結婚なんかした暁には僕はどうなってしまうんだろう。
そんなことを考えながら義勇に水を飲ませ風呂に入れ、髪を乾かしていた。普通の日常の風景だ。幸せ。
その後は3人で(義勇は寝ていたが)見ようと言っていて見れていなかった映画を見て、そのまま寝た。
そうして、皆と過ごす1年はあっという間に終わった。
三学期の終業式が終わり、また飲み会に誘われたが、今日は3人して断った。
だいぶ浮かれている。この生活に。
でも何の支障もなかったので、まあ良しとしよう。
そんなこんなで短い春休みも終わり、また一学期がやってきた。
入学式を眺めていると、昔よく見た顔ぶれが沢山居た。
炭治郎は僕の顔を見るなりカナンさーんと大声で叫ぶし最悪だった。目立ちたい欲は無い。
その他の善逸やカナヲなどもいて、とても良い気分だった。でも、ひとつ心残りなのは、玄弥だ。
玄弥は僕の顔を見ても1部だけ思い出さなかった。
いや、思い出せなかったが正しい。
僕のことは分かっている。前世で良くしてくれた人だと認識しているし、鬼殺隊のことも分かる。だが炭治郎達のことや自身の最後などが思い出せなかったのだ。
この違いはなんだろう。よく分からないが、まあ僕のことを思い出せたのはよかった。
きっと思い出したくないと脳が言っているのだろう。
無理に思い出そうとしなくていい。そう玄弥には伝えた。
そして宇髄から、中等部に無一郎がいるらしいと伝えられたので中等部のほうへ出向いてみた。
保健室は中等部の子もたまに来ることがあるのでよく来る子は分かるのだが、無一郎はそう簡単には見つからなかった。
やっとの思いで会った無一郎は、僕の顔を見てニコッと笑った。
前世よりも感情豊かになったな。
その後無一郎のお兄さんが来て、喧嘩を売られそうになったので逃げ帰ってきた。
これで柱は全員か。
炭治郎達も元気そうだった。
これで、僕の願いが1つ叶った。
『皆で鬼のいない世界で皆と幸せに生きる』という願いだ。
もちろん今も犯罪はある。前の宇髄のように被害に遭うかもしれない。それでも、前より死ぬ危険性は減った。
幸せだ。
この幸せを絶やさぬよう。
僕らで繋いでいこう。
『蒼からの贈り物』
ー完ー












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。