駆け寄ってきた義勇を抱き上げる。ひょいと抱えられた義勇は抵抗せず僕に抱きつく。
義勇は僕の頭を抱き寄せる。
小さい。見たところ小学校高学年か。
それに。この子達にはずいぶん前に会ったことがある。
義勇の師範のところの子達だったか。
この子達も転生したのか。
義勇より早く亡くなったのに、義勇と同時期に転生したのか。
謎だな。死んだ時期は関係ないのか。
まあいい。それよりも義勇との約100年振りの再会を祝おう。
義勇を下ろすと、義勇は錆兎達の所へ走ってゆく。
終わるまでは近くの図書館にでも行こうか。今は昼の3時過ぎ。終わるのは5時くらいだろうか。
古い懐中時計を見る。動きが止まる度に独学で直してきたから、滑らかに動いていた昔より、今は少し動きがカクついている。
けれど昔と同じくらい綺麗に青色は光っている。
アイス、もったいないことしたな。
またアイスを求めて、僕はコンビニに歩き出した。
僕が道場の前に戻ってきてみると、丁度義勇たちが出てきた所だった。
なにやら僕のことで言い争いをしているらしい。
まあ。当たり前か。
そう言って2人は走って行った。それを追うように義勇と2人で歩き出す。
義勇の小学校の話を聞いたり、僕の余生の話をしたり。
宇髄の最後のことを聞かれ、僕は戸惑いながら答えた。そうすると義勇は辛そうな顔をしながら、そうか、と一言だけ言った。
長いようであっという間だった帰り道は、話すことが尽きることは無かった。
義勇の小さい手と、ぼくの大きい手を繋ぎながら歩く。
あ、ちょっと小学生らしかったな。
義勇はアパートの階段をのぼり、部屋に入っていった。
お姉さんと二人暮しと言っていたな。今世でもご両親は亡くなってしまったのか。
サポートした方がいいのか。いや、急に僕が出てきたら怖いか。
まあいい。それより。義勇が見つかったのは大きな進展だ。これをきっかけに、他の人達も見つかるかもしれない。
幸い、僕のアパートと義勇のアパートは近い。
すぐに情報交換もできる。
今日は大人しく帰ろう。
その後義勇が高校生になるまで、他の人達は1人も見つからなかった。
決して広くないアパートの一室、つい先日中学を卒業した義勇がいる。
あの日、小学生の義勇が見つかったあの日から、冨岡家と僕の交流は始まった。
お姉さんは急に現れた僕にも優しく接してくれて、僕に義勇を任せる日もあった。
お姉さんの夜が遅い日は僕の家に泊まったり、夕飯に僕がお邪魔したり。
なぜこんなに優しいのか?という理由は、きっと義勇が僕に懐いているからということもあるが、お姉さんがお人好しという理由の方が大きい。
それから義勇が僕の家に泊まる頻度も増え、お姉さんが学校の行事、例えば授業参観などに行けない時は僕が代わりに行ったりもした。
そんなこんなで小学校を卒業し、ついに中学校を卒業した。
高校はここから電車に乗って4駅先の高校で、決して近いとは言えない。
実は、義勇は中学生の時攫われそうになったことがある。
その時は僕が犯人を蹴り飛ばして助かったが、いつまた狙われるかは分からない。
かくして僕は義勇の護衛に任命された。
明日からの高校生活の通学において、過保護な程に護衛する任務が与えられた。
今日はお姉さんが夜遅くなるため、義勇は僕の家に預けられた。
夕飯は僕の手作りの、今日のために覚えたロールキャベツ。
あーだこーだ試行錯誤しながら作ったロールキャベツは世界一美味しかった。世界一は誇張かもしれないが、そのくらい美味しかった。
義勇も美味しいと褒めてくれて僕は大満足。
鼻歌混じりにお皿を洗うなど浮かれた行動をした。恥ずかしい。
さて。時間はまだ19:30。寝るには早すぎる。
テレビの前のソファに座る。隣に義勇がいる。
先に口を開いたのは義勇だった。
わしゃわしゃと頭を撫でる。
テレビでは、温泉の特番が流れている。
実弥。何してるのだろうか。
腕の中の義勇を見る。
幸せそうに僕を見上げている。
また頭をわしゃわしゃと撫でて、風呂一緒に入るかと聞く。返事はNO。
先に義勇に風呂に入らせてから、僕はソファで1人考える。
もし他に誰も見つからなかったら。
実弥も、宇髄も、胡蝶姉妹も、煉獄も、伊黒も、甘露寺も、無一郎も、悲鳴嶼さんも。
きっと僕は想像より落ち込むだろう。
でも確信がある。必ず見つけられるという確信が。
もうこのまま寝てしまおうかな。
あ、まて、明日は義勇の入学式だ。それは行かなければ。
慌てて起き上がり、スマホを見る。時刻は20:00過ぎ。
義勇が出たらすぐ入ろう。それですぐ寝よう。
僕はそう意気込んで、またソファに沈んだ。
結局そのまま寝落ちして、朝ドタバタしながら風呂に入り、義勇のお姉さんの運転で3人で高校に向かう。
この日のために準備したスーツ。ナルシストでは無いが、おそらく今の自分は世界一かっこいい。
式場に入り、パイプ椅子に座る。すぐ隣は新入生が通る道があって、もし誰か知った顔がいたら直ぐに気づける距離だ。
内ポケットに忍ばせた懐中時計を見る。
これは手放せない。いつも持ち歩いているからか、近くにないと落ち着かない。
式が始まった。新入生が入場してくる。
その中に僕は見た。
義勇も気づいているはずだ。先程張り出されていたクラスの紙では気づかなかったが、今、隣を通り過ぎて行った人を僕は知っている。
知っているなんて次元じゃない。
実弥だ。
あっ、と声が出そうになって口を抑える。
お姉さんは式に夢中だ。周りの人も誰も見ていない。
あの白髪。あの額の傷。なにもかもあの不死川実弥だ。
僕の方は見なかったのだろう。前を素通りしていった。
ある意味ラッキーだ。帰りに会えるかもしれない。そしたら、なんとかして記憶を取り戻させよう。
忘れたなんて言わせない。必ず。
その後の式は覚えていない。ぼーっと見ていたら終わっていた。
説明会みたいなものがあって、それを聞いて。
奥様方の目線を感じながら、僕は校門前で義勇を待つ。お姉さんは知り合いがいたとかで別の方へ行っている。
結局、実弥には会えなかった。
その日は義勇の家の食卓にお邪魔し、お姉さんの手料理に舌鼓をうった。美味しかった。
帰ってきてから、改めて思い出す。
何度思い返してみてもあれは紛れもない実弥だった。
ほかに誰かいなかったか?いや、知った顔は居なかった。
どうやって会うか。それが問題だ。
うーん、と悩んで出た結論は「まあいつかばったり会うだろう」という大雑把ななものだった。
スーツを脱いで、風呂に入りベッドに横たわる。
ご飯、美味しかったな。
今日も義勇の護衛。学校が終わる時間に校門前で義勇を待つ。女子生徒に黄色い目線を向けられるのは嫌じゃない。むしろ気分がいい。
前にそう言って義勇に怒られたっけ。僕にも最近そういう欲が芽生えたのだ。現代に染ってきた証拠だ。
スマホを弄りながら義勇を待っていると、後ろでドサッという音がした。カバンを落とした音か。
振り向くと、ぎょっとした顔の実弥が僕を見ていた。
実弥の後ろから登場した義勇が、呆れたように言う。
そうして、3人でマクドナルドへやってきた。
とりあえず、義勇とは小学生の時に出会ったことを伝えた。それを聞くとまたぎょっとして、出遅れたとかなんとか呟いていた。
そのあとは実弥と義勇にバーガーを奢り、実弥の連絡先をゲットした。
帰りの電車は反対方向だったので、駅で解散した。
義勇を家まで送り届け、早速実弥に連絡する。緑色のアプリアイコンを押し、実弥にメッセージを送る。
「テスト。ちゃんと送れてる?」
『送れてる』
案外淡白なんだなあとか思っていると、実弥の方からメッセージが来る。
『懐中時計、まだ持ってんの』
「持ってるよ。ほら」
ピカピカの懐中時計の写真を共に送ると、数分かかって返事が来た。
『ありがとう』
『思い出せてよかった』
「どういたしまして」
数分かかった僕の返事は、僕の涙で濡れていた。
「返そうか?」
『ああ。返してほしい』
「わかった。明日返す」
そのまま会話は終わった。ばいばいとか、おやすみは恥ずかしかったんだろう。実弥らしい。
もうお別れか。長い付き合いだったな、懐中時計。
やっと持ち主のところに帰れるよ。
心なしか懐中時計も喜んでいる気がする。
僕は懐中時計を机に置いて、そのまま寝た。
実弥は時計を大事そうにカバンにしまった。
駅から3人で歩く。本当は僕も車を持っていたら良かったのだが、今はまだ持っていない。
昨日のテレビの話とか、そんな他愛もない話をしていると、あっという間に学校に着く。
2人を見送って、僕もバイトに行く。本当はズルしてお金を稼ごうかとも迷ったが、結局正当にお金を稼いでいる。
昼は書店で働き、夜は居酒屋バイトの生活。楽しいけれど少しキツイ。でも2つとも割とホワイトな会社なので有難い。
バイトとバイトの合間に義勇を迎えに行き、家に送ったら店に行く。
掛け持ちすれば生活は安定するほどの生活なのでゆっくりと過ごす日もある。
楽しい。鬼狩りをしていた時より平和。平和すぎてボケてくる。
そんな時、義勇のお姉さんが結婚するという知らせが来た。結婚式にお呼ばれしたのでもちろん行くことにした。
お姉さんは家を出ていくらしいので、僕の家に義勇が居候するという形で同居が始まった。
結婚式はあまり大人数ではやらずに、こじんまりとした式だった。なんともお姉さんらしい式であった。
なにより、前は結婚式は挙げられなかったのだ。義勇もさぞ嬉しかっただろう。
二次会には参加せず、義勇と共に一足先に同じ家に帰った。
今日から同居が始まる。一応実弥にも伝えておくか。
「義勇と同居することになった。一応報告しておくね」
『はァ?ずる』
直ぐに帰ってきた返事はまあびっくりするくらい素直で。思わず義勇にも見せて、2人して笑い合った。
そんなこんなで夏は過ぎ冬になった。
冬には3人でスキーに行った。楽しかった。
謎に上手い義勇と実弥、コケまくる僕で謎に対立した。
結局2人だけ楽しんで、スキーは終わった。
そうしてまた春がやってくる。
季節が巡る。思い出も沢山増えた。
誕生日パーティーは欠かさかなったし、海に行ったり、3人でお泊まりもした。
高校生という1回きりの青春を、2人は存分に謳歌していた。それが僕は嬉しくて堪らなかった。
そうして、2人は進路を考える歳になった。
僕も今年、挑戦をする。
3人で大学に行って、教師になろうという話をした。
理由は、とある学校の名前が引っかかったからだ。
『キメツ学園』
なんとも引っ掛かる。キメツ、ということは、鬼滅か。
これは、きっと神からの思し召しだ。
もういい加減出逢えという神からのチャンスだ。
そう思ったので、教師になりたいと2人に言うと、2人も教師になると言い出したのだ。
実弥は数学教師、義勇は体育教師、僕は保健室の先生志望。
なれるかは分からない。受かるかも分からないし、希望通りにキメツ学園に入れかも分からない。
でも挑戦しよう。
そうして、3人で猛勉強して大学に入り、大学でも猛勉強した。
大学に入り、3人で同棲を始めた。
2人の20歳の誕生日に、指輪を嵌めた。もちろん左手の薬指だ。
そりゃ喧嘩もあった。けれど、基本的にはとても幸せだった。
また、あの指輪を嵌められた。お揃いのあの綺麗な指輪を。
幸せだ。多分、世界で僕が1番の幸せ者だ。
3人の記念日に新しい日が加わった。
教員免許を取った日だ。
明日は、ついにキメツ学園に赴任する日だ。
耀哉様だ。耀哉様も思い出すかと思ったが、僕の顔を見ても何も言わなかった。おそらく何も思い出さなかったのだろう。
耀哉様、いや、耀哉校長に連れられて通された職員室。
何の変哲もない、普通の部屋。
だけど、僕の顔を見てはっとする人がちらほら。
今から、僕の第2の人生が始まるんだ。
全員では無いが、揃った顔ぶれを見ると泣きたくなる。ああ、幸せだ。
そうやって他愛もない話ができることが幸せでならない。
僕の第2の人生の
はじめの一歩だ。
第15話
終わり
ここからおまけ
キメツ学園(中高一貫校)
先生達の担当教科など(原作改変あるかもしれません)
夜桜カナン→養護教諭
冨岡義勇→体育
不死川実弥→数学
胡蝶カナエ→社会
悲鳴嶼行冥→社会
煉獄杏寿郎→国語
宇髄天元→美術
伊黒小芭内→化学
産屋敷耀哉→校長
そのほかの教科などはモブが担当します。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!