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第32話

拍手のない舞台で君と
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2026/08/07 22:00 更新


あの日から。

長い時間が流れた。

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街は変わった。

人々の考えも。

ヒーローの在り方も。

ヴィランという存在への見方も。

少しずつ変化していった。

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でも。

あなたの中には。

変わらないものが一つだけあった。

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夜の帰り道。

コンビニの明かり。

遠くを走る電車。

少し冷たい風。

昔と同じ景色。

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「……」

立ち止まる。

ふと。

隣を見る。

もちろん。

誰もいない。

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「コンプレスさん」

小さく呼ぶ。

返事はない。

でも。

もう悲しくなかった。

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彼がいなくなった日。

世界が終わったように感じた。

自分の大切なものが。

全部消えてしまったようだった。

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でも。

時間が経って分かった。

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大切な人との時間は。

その人がいなくなった瞬間に消えるわけじゃない。

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言葉。

仕草。

考え方。

もらったもの。

全部。

自分の中に残っていく。

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「ねえ」

夜空を見る。

「ちゃんと覚えてるよ」

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初めて会った日のこと。

軽い冗談ばかり言っていたこと。

本当は誰よりも周りを見ていたこと。

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誰かに見てほしかった人。

誰かの笑顔を守りたかった人。

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「最後の観客」

そう呼ばれたことを思い出す。

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でも。

本当は違った。

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あなたが彼の舞台を見ていたんじゃない。

彼もまた。

あなたの人生という舞台を見てくれていた。

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「昔のあなたなら」

「きっとずっと泣いてた」

小さく笑う。

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「でも今は」

「ちゃんと前向いてるよ」

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それは。

彼との約束だった。

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生きること。

自分を嫌いにならないこと。

大切な思い出を、苦しみだけにしないこと。

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簡単じゃなかった。

何度も立ち止まった。

何度も寂しくなった。

それでも。

歩いた。

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ある日。

古いニュース映像が流れていた。

そこには。

派手な衣装の男。

人を惹きつける話し方。

舞台の上で笑う姿。

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「……やっぱり」

「似合ってるね」

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誰にも届かない言葉。

でも。

それでよかった。

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拍手はない。

観客もいない。

終わった舞台。

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それでも。

確かに。

そこには二人の物語があった。

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誰よりも愛されたかった少女。

誰よりも見てもらいたかった役者。

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正反対だった二人は。

互いの孤独を見つけた。

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そして。

ほんの一瞬だけ。

同じ舞台に立った。

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幸せな結末ではない。

二人で未来を歩くこともできなかった。

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それでも。

出会わなければよかったとは思わない。

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「ありがとう」

最後に呟く。

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その瞬間。

風が吹いた。

まるで。

誰かが笑ったような気がした。

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舞台の幕は下りた。

拍手はなかった。

歓声もなかった。

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それでも。

あなたにとって。

あの時間は。

一生忘れない。

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『拍手のない舞台で、君と』

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