影宮は鼻で笑う。それを聞いたアリスは、内心で唇を尖らせた。甘田や露月とはずいぶん印象の異なる男性である。
陽道寺が述べた瞬間、影宮の動きが停止した。彼は片眉を持ち上げて訊き返す。
陽道寺は薄く笑みをうかべた。
台詞を遮った影宮に驚き、アリスは彼を見やった。影宮の面持ちは先程までの嫌そうな顔とは異なり、今はどこか凛としている。
腰に手をやった陽道寺が、クールな微笑を唇に描きながら、明らかに煽る声を出した。
甘田と露月がしみじみと述べる。この言葉だけで、陽道寺の性格は知れるというものだった。――もっとも、それはアリスの不安を増幅する役割しか果たしていないのだが。
陽道寺は電話の横に置いてあったメモを影宮に手渡す。いつの間にか、メモを残していたらしかった。
アリスの肩を、陽道寺がぽんと叩く。
くちを噤んだ影宮が、真顔でアリスを見た。
目をしばたたき、そうして影宮は勢いよく視線を陽道寺に戻す。
言い争っているふたりの視線が、アリスに集まる。それに気圧されながら、アリスはおずおずと発言した。
こうは言ったものの、実際の不満点はそこではなく、相手が影宮という点にある。話が「甘田に同行せよ」「露月に同行せよ」というのであれば、アリスは些かの不安をいだきながらも不満をいだくことはなかっただろう。
よりによって、印象の悪い影宮に同行するなど、避けられるものであれば避けたいというのが本音であった。
陽道寺の鋭い眼差しが、アリスを射貫く。鋭いのは眼差しばかりでなく、声まで鋭利で、アリスは相手から目を逸らすことはおろか、返事をすることさえままならなかった。
アリスは陽道寺の足に縋りついた。ここまで必死に誰かの足に縋ったのは、生まれて初めての経験であった。
そんなわけで、アリスは強制的に影宮に同行する運びとなったのである。
事務所に足を踏み入れて、まだ一時間足らず。あまりに前途多難なアリスのバイト生活が幕を開けようとしていた――。

















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。