私の声が歌詞をなぞるたび、今までの思い出がよみがえって、喉が締まる。
熱い汗が首を幾度もなぞる。
みんなの拍手がすごく大きく聞こえた。
* * *
打ち上げで隣に座ったおばあちゃんが話しかけてきた。
破顔したおばあちゃんが私の背中を力強く叩いた。
* * *
イベントの翌日、氷雨さんと理科室で落ち合った。
最敬礼する。大体三ヶ月前の出来事とはいえ、流しちゃだめだ。
頭を上げると氷雨さんは顔を片手で押さえていた。
頬は赤らみ、困惑した表情が指の隙間から見えた。
言いながら、氷雨さんは水色の封筒を私に差し出した。
前にここで歌った時や、バラエティ出演の時みたいに氷雨さんの表情が和らぐ。
その表情になぜか胸がきゅっと苦しくなった。
* * *
おばあちゃんの『花嵐の恋』は不思議と、私のこれまでの道をなぞるような歌詞だった。
完
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。