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第9話

未来の私が見えた
28
2021/03/29 12:24
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(『花嵐の恋』……。私も何百、何千回と歌った超名曲だ)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(でもステージの上で歌うのはこれが初めて)
 私の声が歌詞をなぞるたび、今までの思い出がよみがえって、喉が締まる。
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(この歌の向こうに……)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(未来の私がいるんだろうな……)
 熱い汗が首を幾度もなぞる。

 みんなの拍手がすごく大きく聞こえた。
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(歌い終わったのにまだ緊張してる)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(この歌を歌う重圧、おばあちゃんはもっと感じてるんだろうな)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
歌わせてくれてありがとうございましたー!

 * * *


 打ち上げで隣に座ったおばあちゃんが話しかけてきた。
花崎カンナ
花崎カンナ
アンタもやるようになったね
花崎カンナ
花崎カンナ
アタシに相談なしでアタシの曲のカバーか
花崎カンナ
花崎カンナ
……どうだった
花崎ゆかり
花崎ゆかり
おばあちゃんの強さの理由がわかった気がする
花崎カンナ
花崎カンナ
そうかい、ありがとよ
花崎ゆかり
花崎ゆかり
おばあちゃんは無敵だよ
花崎ゆかり
花崎ゆかり
私も無敵って言えるように努力する
花崎カンナ
花崎カンナ
頼もしくなってまぁ!
 破顔したおばあちゃんが私の背中を力強く叩いた。


 * * *


 イベントの翌日、氷雨さんと理科室で落ち合った。
花崎ゆかり
花崎ゆかり
氷雨さん、ビンタしちゃって本当に申し訳ありませんでした!
 最敬礼する。大体三ヶ月前の出来事とはいえ、流しちゃだめだ。
氷雨霜月
氷雨霜月
……そうか、今更謝るか
花崎ゆかり
花崎ゆかり
今でも言われたことには納得してません!
花崎ゆかり
花崎ゆかり
でも、氷雨さんは私を助けてくれるときもあって……
氷雨霜月
氷雨霜月
わかったから顔を上げてくれ
 頭を上げると氷雨さんは顔を片手で押さえていた。

 頬は赤らみ、困惑した表情が指の隙間から見えた。
氷雨霜月
氷雨霜月
いいから、そこまで言わなくても許すから
氷雨霜月
氷雨霜月
……なんだか俺はキミへの気持ちがわからない。要領を得ない
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(な、なんか、二人だけの時にそういうこと言われると……)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(事故とはいえ、抱きしめられちゃったし……!)
氷雨霜月
氷雨霜月
一つ言えるのは!正真正銘キミへのファンレターと言えるモノが俺に届いた
花崎ゆかり
花崎ゆかり
またですか……
氷雨霜月
氷雨霜月
キミの仲間はうっかりが多いな
 言いながら、氷雨さんは水色の封筒を私に差し出した。
花崎ゆかり
花崎ゆかり
『この調子だと、そのうち私のことも歌ってもらえそうだね』
花崎ゆかり
花崎ゆかり
『すたみねは辞めたけど、同じ世界で女優として生きている私はあなたを応援してます』
花崎ゆかり
花崎ゆかり
『これから先、どっかで再会したら、そのときはよろしくね』
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(この子は、女優の夢を諦めきれなくて『すたみね』を卒業した子だ)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(さっぱりしてて、内輪もめもどこ吹く風って感じで頼もしかった)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
いいのかな、私の歌で
氷雨霜月
氷雨霜月
いいんだろう、キミの歌が
 前にここで歌った時や、バラエティ出演の時みたいに氷雨さんの表情が和らぐ。

 その表情になぜか胸がきゅっと苦しくなった。


 * * *
花崎カンナ
花崎カンナ
アンタ、次は二曲同時に出したいって意欲的だね
花崎ゆかり
花崎ゆかり
自分に向けた曲も作ってみたくなったんだ
花崎カンナ
花崎カンナ
霜ちゃんの影響か
花崎ゆかり
花崎ゆかり
い、いいじゃん!誰の影響でも!
花崎ゆかり
花崎ゆかり
もうほとんど書き終わってるし、タイトルだって決まってるんだよ!
花崎ゆかり
花崎ゆかり
女優になった子への曲は『勝ちに行く歌』!
花崎ゆかり
花崎ゆかり
私への曲は『わたしレベルアップ』!
 おばあちゃんの『花嵐の恋』は不思議と、私のこれまでの道をなぞるような歌詞だった。
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(だから私のこの先の道は自分で描こうと思う)
花崎ゆかり
花崎ゆかり
(これからも、私は強くなる!)

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