たった一人には大きすぎるステージの上で、ライトの熱に焦がされながら。
深々と頭を下げて、みんなへの感謝を伝える。
客席に広がる光の波に大声で叫んでも、私の気持ちは彼女たちには伝わらない。
彼女たちはこの会場にはいないし、連絡すらできなくなってしまった。
* * *
家に帰ってすぐ悩みを打ち明けた私への回答がそれだった。
カンナおばあちゃんは紅白にも出場した超有名歌手だ。
その孫が、リーダーだけど人気最下位の私。ソロで大人気だったおばあちゃんとは正反対だ。
おばあちゃんが鼓舞するように私の背中をたたく。
* * *
おばあちゃんが知り合いに作曲をお願いして、私は作詞を担当した。
最初に作ったのは、一番人気のメンバーに嫌がらせを続けて追放された子への歌だ。
脱退が決まったときにあの子は泣いていた。
その言葉で傷ついたのは事実だった。
そこまで思うほど必死に活動してたんだなって思うと……。
* * *
おばあちゃんや作曲家さんにたくさんアドバイスしてもらって、つたないながらも初めての詞を完成させた。
今はレコーディングスタジオでブースの予約時間を待っている。
話しかけてきたのは氷雨霜月さん。
超人気アイドルグループ『月のカタチ』の一番人気だ。ファンのみなさん曰く、クールでかっこいい孤高の王子だそうだ。
これ以上氷雨さんに付き合いたくない私は、そろそろ空くはずのレコーディングブースに向かった。
* * *
レコーディングは二時間行われた。
歌い方のアドバイスをしてくれるおばあちゃんの表情は困り顔で固定されていた。
おばあちゃんに背中をたたかれて、満足できないままブースをあとにする。
* * *
外は夜に切り替わろうとしていて、建ち並ぶビルの向こうにうっすらとオレンジが滲んでいた。
暗いのは苦手だ。寝るときに電気を消す瞬間すら、たまらなく怖い。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。