光が消えたあとも、太宰はしばらく動けなかった。
自分の姿を見下ろして、言葉を失う。
スカート。ブーツ。胸のブローチ。
どう考えても、現実とは思えない。
黒猫――ルナは、はっきりと言った。
太宰は、かすかに笑った。
ルナは、一瞬だけ目を伏せた。
その時。
低く、冷たい声。
振り返ると、さっきの怪物とは違う――
明らかに“意思”を持った女が立っていた。
黒いドレス。冷たい瞳。
闇そのもののような気配。
ルナが叫ぶ。
女は、くすりと笑った。
女が腕を振ると、黒いエネルギーが渦を巻く。
太宰はとっさに後ずさる。
心臓がうるさいほど鳴っている。
逃げたい。
戦いたくない。
ルナの声が、強く響いた。
胸のブローチが、淡く光る。
敵の攻撃が、すぐそこまで迫る。
太宰は、目を閉じて叫んだ。
その瞬間――
ティアラが、光の輪となって放たれた。
月の光をまとった刃が、一直線に飛ぶ。
女は、驚いたように目を見開いた。
光が、闇を切り裂く。
――次の瞬間。
女は、悲鳴を上げ、闇の霧とともに消えた。
静寂。
風の音だけが、戻ってくる。
太宰は、その場にへたり込んだ。
ルナは、誇らしげに言った。
けれど。
太宰は、膝を抱えた。
ルナは、静かに答えた。
太宰は、空を見上げた。
そこには、変わらず優しい月が浮かんでいる。
ルナは、そっと言った。
太宰は、小さく笑った。
その時――
遠くの屋根の上。
黒いマントの男が、静かにこちらを見下ろしていた。
視線が合った、気がした。
だが、次の瞬間。
男の姿は、夜の闇に溶けるように消えていた。
太宰は、胸のブローチを握りしめる。
戦うことを、拒みたい。
それでも――
もう、引き返せない場所に、立ってしまった。
――月の戦士として。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。