志貴は狙撃手のいるであろう方向を強く睨んだ。
そして、地面を蹴り上げ、窓から出ていった。
志貴は狙撃をしていた白装束の2人組を攻撃した。
1人には火拳を、1人には火蹴を喰らわせる。
不意をつかれたためか、どちらも攻撃直撃している。
火拳を喰らった方、狙撃手の方は膝をついてしまった。
これ以上攻撃はしてこないだろうと、判断した志貴は
2人組から少し距離を取る。
環とカリムが伸ばした氷の上に立ち、
志貴は2人を見下ろした。
その瞳は冷ややかに2人を見ていた。
白装束の1人、火拳を喰らった方、女の声だった。
志貴は黙っている。
氷に夕陽が反射して、志貴を後ろから照らしていた。
逆光でその赤と青の瞳のみが見えている。
白装束のうち、1人、男の声がそう呟いた。
狙撃手ではない方だ。
神の器、そう呼ぼうとしたのだろう。
いや、そうではないのかもしれない。
夕陽を反射して、光る2色の瞳は、
志貴を神と呼ばせても不思議ではないかもしれない。
どちらにしても、志貴は「神」というものが大嫌いだった。
当然、自分がそう呼ばれるのも嫌いだ。
志貴の殺意を感じ取った二人組は
志貴の瞳に串刺しにされて、
その場に縫い付けられたように、動くことができなかった。
固唾を飲んだ。
白装束の2人の間に緊張と、そこからくる汗が流れる。
時間にしてわずか2秒足らず。
しかし、2人には20年以上の長い時間のように感じた。
その様子を見て、志貴は黙って廃工場に戻っていった。
志貴が立ち去ってもなお、
まだそこには志貴の殺意が残っていた。
完全に志貴の姿が見えなくなってから、
2人はようやく動けた。
肩で息をし、手は震えていた。
白装束の男が言った。
女が身を翻して、そう言った。
森羅の手に握られている面を受け取って、
カリムにそう言った。
カリムは志貴の顔をまっすぐ見て、志貴に尋ねる。
志貴は一瞬驚いたような反応を見せたが、
すぐにそう答えた。
カリムの向こう側でフォイェンが答えた。
子供たちを連れて、環が影から出て来た。
環は烈火との戦闘で服がボロボロに破けていた。
そのせいで今は下着姿だ。
それを見かねて、志貴は環に来ていた防火服を渡した。
そして、今度は
カリムの向こう側にいるフォイェンに声をかける。
フォイェンのことだから、きっとまだ
まともな処置をしていないだろうと志貴は思った。
フォイェンは仕方なく、志貴に傷口を見せた。
傷口には当て布がしてあるが、そこから血が滲んでいる。
血は止まっていないらしい。
志貴はフォイェンの反応を無視して、処置を進めた。
青い炎でフォイェンの傷口を焼く。
焼灼止血法だ。
傷口を焼いて、止血する。
38.0度前後の温度の炎が
フォイェンの傷口を焼き、血を止めた。
今度は志貴は屈んで、
子供たちに怪我がないか確認していた。
泣いている子供は多いが、
怪我をしている子はほとんどいなかった。
だが、1人だけ、蟲の適合者であろう男の子。
その子だけは、気を失って眠っていた。
志貴はその子の頭を撫でて、心の中で謝罪した。
志貴は烈火に近づいた。
今は亡き教え子をまっすぐに見つめた。
白装束の烈火星宮が亡くなった。
衝撃的なことだけど、これで少なくとも新宿区での
人工的な焔ビトが作られる可能性は確実に減る。
悪者だった烈火が殺されたのだから
これでたくさんの命が救われた。
今回の件で第一は事後処理と報告に追われ、
研修は中止になった。
陽光が塔の壁を照らす。
志貴の顔には穏やかな微笑みが浮かび、
カリムとフォイェンは志貴の前に立っていた。
志貴がそう言うと、
風がやさしく髪をなでるように通り過ぎた。
志貴がそういうと、2人は微笑んだ。
それを見て、懐かしく思った。
そう言って志貴は軽く腕を広げてみせた。
カリムが志貴の手を取り、その手の甲に
感謝の意を込めて軽くキスを落とした。
フォイェンもまた、志貴の指先に
師への敬意を込めて唇を触れさせた。
その仕草はかつての志貴が
彼らの額にそうしたのと同じだった。
志貴は驚きの表情を見せつつも、
その表情はやがて誇らしげな笑顔へと変わった。
2人は恥ずかしそうに目を逸らした。
その姿を見て、志貴は微笑んだ。
2人は頷いて志貴を見送った。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!