第18話

カケラの一部 有馬side
572
2021/02/16 21:28
敦が巨大ヘドロの様な怪物の元まで行き、威吹は異能者を倒すと言って居たが、どうやって倒すのだろうか。威吹の異能をようやく知れると思うと、多少興味はある。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
やれやれ……僕も行きますか
そう呟く威吹に喰種達が襲いかかる。
しかし、威吹が触れてもいないのに、襲いかかった喰種達は地面へと勢い良く叩き付けられ、身動き出来ず、圧でもかけられているかのようにそのまま潰れてしまう。
有馬貴将
有馬貴将
(今のは……)
影嶺 威吹
影嶺 威吹
じゃあ喰種は任せました
それだけ言うと、威吹はフワッと空中に浮き、巨大な怪物を越えて何処かに行ってしまった。
平子丈
平子丈
威吹の奴……飛べるんですね
有馬貴将
有馬貴将
初めて見たけど、便利だね。アレ
平子丈
平子丈
でも、何の異能なんですかね。感知出来たり、触れずに潰したり、飛んだり……
喰種の方は大体片付いたが、敦や威吹の方は簡単には行かなそうだ。取り敢えず、巨大な怪物の元まで駆け付けると、人型の怪物がぞろぞろとゾンビの如く出てくる。
有馬貴将
有馬貴将
……クインケって、喰種以外の怪物にも効くかな
平子丈
平子丈
試してみたらいいんじゃいんですかね
有馬貴将
有馬貴将
それもそうか
試しにナルカミを使って攻撃をすると、意外にも良く効いた。頭上から騒音がし、見上げると威吹と身を隠していた敵異能者が異能で戦っていた。その真下にはジェットコースターがあるのだが、敦が怪物の攻撃を避けながら上へ上へと登って行く。
このままでは、建物ごと倒れてしまう。
中島敦
中島敦
っ……この怪物の口の中に光る物を見つけたんです。それが“白いカケラ”だと思います!
平子丈
平子丈
口の中……?まさか、飛び込んでその中に入るつもりか?
人型の怪物を倒していると、背後に威吹が降りてくる。派手に怪我をしている訳では無さそうだったが、威吹は無表情ながらも何処か顔色が悪い。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
“やっぱり”……か
有馬貴将
有馬貴将
(やっぱり?)
敵異能者
敵異能者
あの影嶺威吹がざまぁないな。カケラにならなかった分、“異能を使うのは身体に堪える”だろう?
影嶺 威吹
影嶺 威吹
調子が出ないねぇ……全く
有馬貴将
有馬貴将
威吹、異能を使うと身体に堪えるのか?
影嶺 威吹
影嶺 威吹
いつもなら、そんなことは無いんですけどね……
威吹が咳き込み、口元を手でおさえるが、血が出ている。吐血しているのだ。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
長時間の浮遊さえ今の僕にとってキツいとは……我ながら情けない話ですよ
威吹は軽く笑うと、自分の身体の状態について説明し始める。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
本来、異世界に飛ばされる際、異能者はカケラになります。けど僕は、異世界に飛ばされる寸前、異能で自身にバリアを張った。だから僕は人の姿を保っていられました
平子丈
平子丈
なるほど。それでお前はカケラにはならなかったんだな
影嶺 威吹
影嶺 威吹
だけど、それはそれでリスクがあった。異世界に飛ばされる時、他者の異能の効力は一時的に弱まる。自身にバリアを張ったは良いが、異能の効力が弱まり、僕はカケラになりかけた。結果的に人の姿は保ったけど、なりかけた時の一部のカケラが僕の体内に残ってしまった……。故に、異能を使えば使うほど、体内に残っているカケラが力を吸収し、体内で大きくなる
敵異能者
敵異能者
その通り。今回みたいに異世界に飛ばしてカケラにならなかった奴はソイツが初めてだから最終的にどうなるかは私も知らない。ただ……予想としては、力を吸収されて自身がカケラそのものになるか、もしくは、体内で大きくなったカケラが器官や臓器を傷付け圧迫するか……最悪の場合心臓に刺さって死ぬかもな。しかも、影嶺威吹……お前の異能は異能力の中でも稀に見る使い方によっては“危険且つ強力”な異能だ。一度の技の使用でどれだけ体内のカケラが大きくなるかな
威吹が異能を滅多に使わないと言ったのはその問題があったからなのだろうか。
何とか立っていられるらしいが、威吹は敵異能者に聞こえない程度の声で話し始める。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
最初にこの異空間に連れてこられ、あの敵異能力を見た時に違和感を感じたから、確認ついでに奴の元に行ったが……案の定頭上で浮いている男はただの傀儡だ
平子丈
平子丈
偽物と言うことか。なら、本物は……
影嶺 威吹
影嶺 威吹
異空間の何処かで身を潜めているだろうけど、今は無視していい。男を倒しても、この異空間から出る条件は変わらない。傀儡である頭上の男を倒さないと行けないからね。
元の世界に帰れるでもないし……。
敵異能者が今回僕達に挑んだのは……主に僕を弱らせる為だろう。空間系の異能は面倒だ。分かって居ても避けられないからね。しかも、空中戦となればこの中で飛べるのは僕だけだ。だから、必然的に僕が奴と対峙する羽目になる。けど、飛ぶのにも異能を使用する
有馬貴将
有馬貴将
飛んでいる間にも体内に残っているカケラは大きくなり、相手に攻撃技を使用すれば更に……と言うわけか
影嶺 威吹
影嶺 威吹
ご名答。少し休んで、確認も済んだし……もういいや。“一気”に終わらせよう
敵異能者
敵異能者
何……?
具合の悪そうな表情から打って変わって、何時も通りの笑顔を浮かべると、威吹は「敦」と名前を呼んだ。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
あの巨大ヘドロみたいな怪物の口の中に白いカケラがあると言ったね?そのままいると、レールごと倒れて下敷きになる。乗り物の上に乗れ。銀河鉄道での旅ならぬ、ジェットコースターでの旅だ
中島敦
中島敦
乗り物に?分かりました
敦が乗り物の上に乗ると、怪物はレールを支える支柱に攻撃し、構造物全体がぐらつき始める。すると、敦が乗っている乗り物が空中に浮き、怪物の周りを囲むように浮遊し始めた。怪物が暴れると、隣にあった観覧車と、ジェットコースターの構造物がこちらに倒れて来る。
平子丈
平子丈
……!
有馬貴将
有馬貴将
(止まった……?)
倒れてくる構造物が緑色の光に包まれ、寸前の所で止まり、幸い下敷きにならずに済んだ。威吹が「今だ敦」と言うと、乗り物が怪物の口の中へ入って爆発し、敦が白いカケラを壊したのか、怪物の体内が光だして突風と共に消滅する。
平子丈
平子丈
おい、アレ大丈夫なのか。敦、中に居るだろ。爆発したぞ
影嶺 威吹
影嶺 威吹
だーいじょぶ大丈夫。敦君、喰種並とはいかないけど、手足もがれても再生能力あるんで治るんですよ
有馬貴将
有馬貴将
人間なのに再生するって、タケが言ってたように、異能って何でもアリだね
影嶺 威吹
影嶺 威吹
ものにもよりますけどね。さて、残りはあの男か
寸前で倒れずに止まっていた観覧車と、ジェットコースターの構造物がギギッと動き、地面から引きちぎれるように全体が空中に浮き始める。そして、ゆっくりと捻れ、巨大な槍が二槍出来る。もはや原型を留めていない。
有馬貴将
有馬貴将
これ、威吹がやってるの?
影嶺 威吹
影嶺 威吹
はい。僕の異能は俗に言う“念力”ですよ。異能者と言うより、もはやエスパーですね
平子丈
平子丈
念力って……映画や漫画等の創作物でしか見たことなかったが、居るもんなんだな……
影嶺 威吹
影嶺 威吹
このままあの敵異能者に小馬鹿にされるのも癪なので、倍返ししようかと
平子丈
平子丈
敵異能者とはいえ、人間一人相手に巨大な槍?二槍て……結構酷いなお前
影嶺 威吹
影嶺 威吹
どうせ相手は傀儡ですし
威吹が片手の人差し指と中指をクイッと下げた瞬間、浮いていた二槍が傀儡の敵異能者目掛けて勢い良く刺さる。
有馬貴将
有馬貴将
……“刺さる”と言うか、面積や大きさ的に敵異能者の方が小さいから“潰される”だね
条件を満たしたのか、廃墟化した遊園地の風景は消え、次第に元の部屋の風景へと戻る。異空間から出られたのだ。
中島敦
中島敦
うぅーん……
影嶺 威吹
影嶺 威吹
どうやら無事だったみたいだね敦君
平子丈
平子丈
意外とタフだな
中島敦
中島敦
元の場所に、戻れたんですか……?
有馬貴将
有馬貴将
そうみたいだね
影嶺 威吹
影嶺 威吹
仕事が早めに終わって明日も仕事だというのに、迷惑お掛けしました
平子丈
平子丈
これでもまだ初段階だろ?それを考えると、後々これより更に状況が悪化する可能性がある。異能がどれほど厄介なのか、具体的に想像出来なかったからそう言う意味では今回の件で危機感は以前より増した
有馬貴将
有馬貴将
条件付きで時空と空間を操る、か。今日は威吹が居たから条件が直ぐに分かって早めに対処出来たけど、異空間に閉じ込められる度に条件が変わるとなれば……人によっては何が条件なのか当てるのに苦労するだろう。敵異能者を倒せば出られるわけでもなさそうだし
影嶺 威吹
影嶺 威吹
はぁ……体内のカケラがなければ、直ぐに倒せたのに……
中島敦
中島敦
体内のカケラ、取り出せないんですか?
敦が聞くと、威吹は「方法はある」と即答し、言葉を続けた。
影嶺 威吹
影嶺 威吹
方法はもう考えてあるけど……取り出す為には、“与謝野先生”の異能が必要になる。だから、与謝野先生が封印されているカケラを探さないと
中島敦
中島敦
与謝野先生……のカケラですか
影嶺 威吹
影嶺 威吹
あと、中也とQの異能も敵異能者の手に渡る前に早く見つけないと、悪用されるかもしれない。あの二人の異能は異能の中でも危険だからね。主にQは
平子丈
平子丈
その三人が誰かは知らないが……お前もあの敵異能者に稀に見る危険で強力な異能って言われてたな
影嶺 威吹
影嶺 威吹
使い方によっては、ね。今は体内にカケラがあるから大した力や技も使えないけど……それすら無くなれば、念力使い放題ですから
平子丈
平子丈
さっきのは“大した技じゃない”のか?
観覧車とジェットコースターの構造物が地面から浮いて槍になったぞ
影嶺 威吹
影嶺 威吹
浮かせて捻るぐらいまだ序の口ですよ
平子丈
平子丈
そういうもんなのか……?
中島敦
中島敦
あぁ……言われてみれば。僕は威吹さんが本調子で異能を使っている場面を元の世界で見た事ありますが、それと比べると確かに序の口かもしれませんね……
平子丈
平子丈
(何したんだ、威吹の奴)
有馬貴将
有馬貴将
念力の異能……やっぱり便利そうだ。日常生活でも使えそうだね
影嶺 威吹
影嶺 威吹
使えますよー。と言うか、何時もなら使ってます
ベランダのドアを閉めたあと、タケと敦がテーブルの方に戻る。横目で威吹を見ると、さっきまで見せていた笑顔は消え、無表情のまま暗く冷たい眼差しで遠くを見つめていた。
有馬貴将
有馬貴将
……

プリ小説オーディオドラマ