両片思い一歩手前の🐹🦊
無自覚に🦊をジロジロ見ちゃう🐹の話
『舐めるような視線』…ってよく言うよね。人にジロジロ見られるときに使う言葉。あれ、上手いこと言うなぁって最近思うんだ。
飛行機に乗り込む時なんて特にそう。ファンの子たちの間をすり抜ける僕たちに、空港の至る所で視線が注がれる。機内の通路を通る時も、偶然居合わせた知らないオジサンに「なんだコイツら、有名人なのか?」なんて視線で、頭のてっぺんからつま先までじぃっと確認されるんだ。まるで全身をスキャンされてるような感じ。ああいう時まさに、舐めされてるなぁって感じる。
別に見知らぬ人にどう見られたって構わない。そういう仕事だし。でもさ、よく知った人からそんな視線を向けられたらどう思う?……変だなって思うよね?
瞬きひとつせず、黒曜石みたいな瞳だけがゆっくりと動く。その視線は僕の顔をなぞって、首筋、胸元…と這うように動いていく。
形だけ頷く彼は、とても話を聞いているとは思えない。心の中で芽生えた違和感はどんどん膨らんで、合わない目線にとうとう腹を立てた僕は、そこで話すのを止めた。
はっ、と息を吐くような笑い方は彼の癖だけど、今だけは妙にいなされたように感じがして気に入らない。僕は口を膨らませた。
ヒョンは一瞬目を丸くして、しまった、という顔をした。それからわざとらしく悩むふりをして、絞り出すように答えた。
その答えに僕は見せつけるように肩を落とす。
おおげさに嘆く僕に、眉を下げたヒョンがごめんね、ともう一度謝る。そこでムキにならないところが彼らしい。その姿がなんだか可哀想に思えて、僕は首を横に振る。
むっと口を尖らせて、鋭い目でヒョンを睨む。楽しいからぼーっとしちゃうなんて聞いたことがない。別にたいした話じゃないし、"聞いてなかった"って正直に話してくれたって怒らないのに。その言い訳が、変に気を使われてるようで気に入らなかった。
ヒョンの背中をぐいぐいと押して、無理やり扉まで誘導した。足を踏ん張って抵抗するヒョンの様子はやっぱり何かおかしい。
そのまま廊下に追い出して、バタン、と扉を閉める。外で不満を漏らしていた彼も、しばらくして諦めて帰っていったようだった。
赤みがかったスープを掬って、ふぅふぅと息を吹きかける。目の前ではチキンを頬張ったゴヌクが、もぐもぐと咀嚼をしながら首を傾げる。
そう付け足して、相変わらず湯気を立ち上げているスープにもう一度息を吹きかける。ゴヌクの喉仏が上下して、少し不自然な間が空いた。
一拍遅れて聞き返す僕にゴヌクが頷く。最近あの人ずっと喋ってんじゃん、と言った彼は口を大きく開けて、もう次の一口を噛み始めてる。
想定していた答え──────『俺もそう思ってた』とか、『心配だね』とか、そういう類のセリフ────とは正反対の回答に面を食らった僕は、動揺を気取られまいと匙を持ち直す。
試しに啜ってみたスープは思った以上に熱くて、すぐに舌先に火傷の痛みが走る。…もっとふぅふぅしておけばよかった。火傷した後に後悔しても、もう遅いんだけどね。
一度浮かんだモヤモヤはそう簡単には消えてくれない。目を凝らして一日彼を観察して見ると、確かに僕以外とは饒舌に喋ってるみたいだった。
いや、それだけじゃないはずだ。あの鎖骨から耳先までを舐め回すような視線も、ジットリと素足に向けられる眼差しも、全部僕の話がつまらないせい…とは考えづらかった。だって僕と話すのが退屈なら、わざわざ部屋を訪ねてきたりしないでしょ。何かきっと別の理由があるんだ。
……でも、それがどうしても分からない。
────分からないから、本人に聞いてみることにした。
今夜だって約束してないのに、こうして僕の部屋に来るハンビニヒョン。
並んで腰掛けた瞬間から、ヒョンの"視線だけのボディチェック"が始まった。頭の先からつま先まで、ねっとりと視線が絡みついては、素肌の部分を重点的に繰り返し往復する。
黒褐色の瞳が小刻みに震えながら、身体中をなぞっていく。そんな彼の仕草をしっかりと確認して、今度こそ勘違いじゃないと確信した僕は、ここ数日の疑問をすべて彼にぶつけてみた。
視線について指摘されたヒョンは頭を抱えるように何度も小さく唸る。何事にも実直な彼がこんな風に答えを迷うのは珍しい。きっと彼自身もハッキリとした答えを持ち合わせていなくて、それをどう説明すればいいか迷っているように見えた。
しばらく考えた後、何かを決心したような顔つきでヒョンが口を開く。
その瞳は、ひたすらにまっすぐ僕を捉えていた。身体中を舐め回すように蠢いているときとはまるで違う、素直な眼差しに思わず吸い込まれそうになった。
目を丸くした僕に、ヒョンは気まずそうに眉を落とした。
ハンビニヒョンの視線が、まるで触れてくるみたいに肌をなぞっていく。じっとりと絡みつくように、時間をかけて全身を犯していく。何もされていないのに、無意識のうちに温度が上がっていく。もどかしいような感覚にゴクリと唾を飲んだ。
頬杖をついたヒョンがくすくす笑う。申し訳なさそうに眉を下げていた彼はどこへやら、今となっては完全に開き直って、堂々と見つめてくるようになった。僕も気にしないと言った手前、なんにも言えない。相変わらず僕の話は上の空なのがちょっと不満だけど。
水音がよく似合うような、濡れた視線。湿り気を帯びたそれが肌をくすぐる。鎖骨から耳の先までを何度も往復するように、何度も何度もゆっくりと。
こういうのを、しかん?って言うらしい。全身を舐め回すようになぞられて、指ひとつ触れられていないのに何故かくすぐったくて。
頷くと、そっと指先が伸びる。その瞬間、スローモーションのように世界が速度を落とす。ぴた、と触れたのはうなじ。指先の冷たさに一瞬肩が跳ねた。
人差し指がつぅ…と肌の表面を優しくなぞる。なおも向けられる視線は、さっきよりもずっと重たくなって、ねっとりと僕を撫で回す。声が出てしまったのが恥ずかしくて、口を固く結び直した。
指先はピタリと動きを止めて、かと言って離れることもせず、僕たちの間を繋げるように触れ合う。横顔に感じる強烈な視線に思わず頬が赤くなる。
『…好きだから、つい見ちゃうんだ』
あの言葉の意味は未だに分からない。というか、多分ヒョン自身も分かってない。退屈だとか嫌悪だとか、ネガティブな感情じゃないことだけは伝わるけど。
"好きだから見たい"って、多分、僕が猫をじぃっと眺めるのと同じかな?確かに、ぼーっとギアを眺めてるのは楽しいし、近くにいたら触りたくなるもん。
ツツツ…と指先が肌を滑り、耳元へ近づく。横髪をくぐり抜けた爪先が皮膚の薄い耳裏をなぞり、ゾクッとした感覚に首をすくめる。
ほら、またぼーっとしてる。彼の視線を真正面から受け止めるのが恥ずかしくて、いつもなんとなく目を逸らしてしまう。
こんなとき、一体どんなことを考えてるんだろう。気になってついに横目でヒョンを見てしまった。
欲を孕んだ眼差しにどくん、と心臓が跳ねる。
まるで獲物を値踏みする獣みたいな顔だった。…今までずっと、こんな顔で僕のことを見てたんだ。その色っぽさに、かーっと顔に熱が集まった。
思わず顔を背ける僕に、ハンビニヒョンは不意をつかれたように首を傾げる。どうしたの、という声はいつも通りの爽やかさで、まるで僕がおかしいみたい。
どうしてそんな目で見るんですか、と問い詰めてやりたいけど、この恥ずかしさの理由も、嫌と言えない自分の気持ちもよく分からなくて、そんな複雑な感情を上手く説明出来る自信もなかった。
多分、ヒョン自身も気づいてないんだ。あんな舐めるような視線で僕を見てるってことに。
一度は身を捩った僕に、再びヒョンの指が伸びる。
耳朶に触れた指先が意味深に肌をくすぐった。なんでだろ、と独り言みたいに呟いて、またぼーっと僕をなぞる。
これよりもっと先があるの?
首をかしげる僕にハンビニヒョンは薄く笑って、なんとなくね、と呟いた。声に孕んだ熱の熱さが、絡みつくような重さが僕の心をカラダごと犯していく。
その視線の答えはまだ誰も知らない。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。