前の話
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「じんちゃん、俺グループやめないといけんのかな…」
「…え?なに、いってんのお前…」
いきなりの衝撃告白に飲んでいたコーヒーをこぼしそうになる。意味が分からない。普段から仕事が楽しいと話していた舜太がそんな事を言うなんて。
たしかに最近は忙しくて大変だとは思っていたが、そんなことでこの仕事を投げ出すような奴ではない。
舜太に向き合うが珍しくこちらを見ない。そんなにも悩んでいるのか。
息を吸って整える。真面目に話を聞いてやらないといけない、リーダーとしてーーーー
「俺じんちゃんのこと好きやねん」
「……………」
気合いを入れた途端に舜太の言葉を聞いて気が抜ける。真面目に考えた俺がバカだった。
「……あーはいはい」
またこいつのばかに振り回されてしまった……と落胆する。
「あーあ真剣な話かと思って損した…お前な、そういう冗談よくないぞ」
体から力が抜け頭を抱えた後舜太を睨み盛大にため息をつくと、舜太がこちらを見て不満そうな顔をする。
「本気なんやけど」
「お前さあ、もういいって。分かったから。」
しっしっとジェスチャーした手をぐっと掴まれる。
驚いていたら真剣な顔の舜太が目の前に入ってくる。
「どうしたら本気って分かってくれる?」
そう言いながら頬を優しく撫でられ、唇をなぞられて体が跳ね上がる。
「ほんまに、かわええなぁ…」
舜太の少し苦しそうな嬉しそうな複雑な表情、熱を持った言葉に戸惑い何も反応できない。きっと今俺は間抜けな顔をしているんだろう。
ツッコミでも入れてやろうかとするが声が出ない。真剣で狙いを定めるような、いつもと違う舜太の顔。黙っている俺をじっくりと見つめてくる。
異常事態だ、絶対に何かがおかしい。そう思っていると舜太が顔を伏せる。
「……やっぱ諦められへん」
「は?なっ……」
やっと声が出たと思ったら強く抱きつかれる。細いのにしっかりと筋肉と身長があるのでしっかりと抑え込まれる。
なんとなく、ああこいつこんなデカくなったんだなんて変に冷静になる。人間いざおかしな状況になると動けないというが本当なのだ。そう呆然としている俺の耳元で囁かれた言葉で一気に思考停止する。
「俺、じんちゃんが本当に好きなんよ。…このままキスして、押し倒したい」
「………は?」
「本当にそうしたら信じてくれる?」
舜太が俺を強く抱きしめていた手を離して自然とソファに押し倒された。頬を優しく撫でられ切なそうな顔で俺の目を見つめてくる。こいつは本気だ、と肌でわかる。
「え、あ」
頭の処理が追いつかない。硬直して言葉の出ない俺の唇に舜太の唇が迫ってくる。手が動かない。舜太の強い瞳が自分の思考をぐちゃぐちゃにする。止めないとーーーーー
「……ごめん、卑怯やんな。こんなの」
吐息がかかるぐらい近づいた時、舜太は起き上がり悲しそうな顔で言う。
「しゅん…た…?」
「ごめんな?強引にこんなことして。怖かったよな?俺ばっかり突っ走って…」
ずっと俺を見つめていた舜太が目線を外す。本当に思い詰めているようで胸がちくりと痛む。こいつはそれだけ俺を思ってくれているのか、なんて思ってしまって自分の感情がわからなくなる。
冷静に考えろ。こいつは男だ。しかもメンバーだ。同性愛の趣向は持ち合わせてない。
なのになぜ、今こんなに心臓がドキドキして顔が熱くなっているんだろうか。
「ほんとにごめん!俺先行くから!じんちゃん休んでて!」
明らかに無理をした笑顔で俺にそう言って立ち上がる舜太の顔。走り出そうとする舜太の腕を咄嗟につかんでしまった。この状況で初めて自分の体が動いた。
「ちがう、あの…怖かったとかじゃ、なくて…びっくりしただけで…」
俺は何してるんだ?いやでも、このままじゃ気まずくなるだけで…だからこうやって引き留めただけで…。
「お前の意思は分かったから、でもその、」
舜太は真面目な顔で俺の話を聞いている。腕の熱から舜太の感情が伝わってくるような気がして、恥ずかしくなって舜太の顔が見れなくなるが必死に言葉をつむぐ。
「突然で意味が分からないっていうかさ、お前がそんな事考えてると思ってなかったし…普通に女が好きだと思ってたし…」
「俺やってそうやったよ、じんちゃんに会ったからそうなっただけ」
必死に離していると舜太の冷めた声が聞こえて息が止まる。
「じんちゃんに会って俺おかしくなってもうた」
「……い、いや別におかしい事じゃないし…好きになるのなんて、自由なことで…」
訳が分からなくなって最近の世論の話みたいなことを話し出してしまう。年上なのに慌ててこんな時にうまく喋れない自分が情けない。
「……でもメンバー内恋愛は禁止なんやろ?」
「……………は…?」
「えんじぇるたちから聞いたんよ、じんちゃんがそう言ってたって」
「いやいやいや」
色々とツッコミどころがあるが追いつかない。えんじぇるは舜太のファンネームだったか?恥ずかしげもなくファンをそう呼べるこいつはすごいと思う。
いや!そんな事を考えてる場合じゃない。
「あれはただの冗談っていうか、インスタライブで話したことで…」
「えっ!じゃあ違うん!?」
効果音がつきそうなぐらいぱあっと顔が明るくなる。いつもの舜太の笑顔に戻った。それを見て少し安心するが状況を考えて焦ってきた。
「…い、や、違うというか、あり得ないからって意味で…」
「でもあり得てるで?」
俺のつかんでいた腕がいつの間にか俺の手を握っている。その手には笑顔を裏腹に強い力がこもっていて、先ほどの真剣な言葉が脳内にリフレインする。
「………」
「この場合はどうなるん?」
「…そんなの想定できるか!ばか!」
ねだるような顔で見つめてくる舜太に限界がきてぶち切れる。
なんで俺がこんな事を考えなきゃいけないんだ!?リーダーだから!?だとしてもこの状況はおかしいだろ!なんでよりによって俺なんだ!?
先ほどとは違ってたくさんの思いが頭に流れてくるが言葉にはできない。舜太が真剣なのを分かってしまったから。
「……と、とにかく!辞めるな!お前は!そんな事で!分かったか!?」
「ええの?」
「当たり前だろ!っていうかそんな理由で辞めるの会社が許す訳ないだろ!」
また舜太の笑顔がぱあっと輝く。本当に気持ちが全て顔に出る男だ。気が抜けてため息をついていたところにどんっと衝撃が走る。
「嬉しいわあ、これからも一緒にいてええんやね」
舜太に抱きしめられていた。ただ先ほどとは違う、いつものスキンシップ程度の抱きしめ方。何が違うのか分からないがそれを感じられて体から力が抜ける。
改めて脱退という選択肢がなくなった、ということを確信し俺も舜太の背中をぽんぽんと叩く。
えへへと嬉しそうな舜太の声が聞こえ、少し口角がゆるんでしまった。
まだ問題はある…が、まあこいつも若い。気の迷いもあるだろう。この先もっといろんな人間と出会って成長していけばこんなバカな考えもなくなるだろう。そうに違いない。
自分を安心させるように、そう思うことにする。
しかしそこでぎゅうと抱きしめていた舜太の指が俺の腰を撫でた。ビクッと反応すると舜太が嬉しそうに笑う。
「やっぱりじんちゃん、かわええなぁ…」
またいつもと違う、何だか色を孕んだ声。そんな風に聞こえてしまう自分に戸惑う。さっきの出来事のせいなのか?
まずいと思い身じろぐが舜太は離してくれない。
「…お、おい……」
「……嫌なん?」
寂しそうな声で耳元に囁いてくる。多分コイツは何も考えずにこういう事をしてるんだろう。吐息でまた体がビクリと反応しそうになるのを抑え息を整える。
「嫌……ではないけどくるしいからさ…」
ストレートに言うつもりが思わず理由付けをしてしまった。また辞めるなど変なことを言われて面倒臭いことになっても困る。
「あ!そっか、ごめんなぁ」
そう言うとすぐに俺を解放してくれる。その素直さに安心すると共に少し混乱する。だが変わらず距離が近い。俺を真っ直ぐな目で見つめてくる。
「次はちゃんと優しくするな?」
「次ってなんだよ!」
変な言い回しに鳥肌が立つ。咄嗟にツッコミは入れたが心臓がドクドクと波打っていてうるさいのに気づいた。もしかしてさっきからずっとこうだったのか?舜太に伝わっていたのか?少し冷や汗をかく。
思わず目を逸らしたら舜太は覗き込んでくる。
「じんちゃん、好きやで」
「な」
「ゆっくりでええから、俺の気持ち分かってな?」
「……………」
何回言うんだよ、なんてツッコミを入れようとしたが真剣な顔を見て声が出なくなる。そんな俺に舜太はいつもの顔に戻って微笑んだ。
「恋愛NGは嘘って言ったやんな?なら時間はたくさんあるやん。俺いつでも待ってるで。」
「…お前の謎のポジティブをこんなところで発揮するな」
どうしたらいいか分からず顔を逸らしながら言う。何でこいつはこんなに極端なんだ。勘弁してくれ。
もしかして俺はとんでもない対応をしてしまったのか?もっとちゃんと拒絶するべきだったのか?とぐるぐると考える。
そんなふうに悩んでいると舜太が俺の頬に手をあて顔を寄せてきた。先ほどの出来事が頭によぎり、驚きで手を構えながら目を瞑ると想像と違う箇所に唇の感覚がきた。
「……え…?」
「でこちゅー、はやちゃんとしてたやんな?これなら俺もしてええやろ?」
「…………なんだ、それ」
思わず気の抜けた声が出て体から力が抜ける。
「ん?唇で良かったん?」
拍子抜けする俺にいたずらっぽい笑顔で言ってくる舜太の頭を反射的に叩く。
「いった!」
「調子乗んなバカ!!!」
この男は本当によく分からない。そして、俺も。
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普段オラオラなのに攻められると弱いじんとくんが好きです。押し強い大型犬わんこ攻めのしゅんちゃも好きです。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。