第54話

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41
2026/02/06 10:19 更新

 回答席が高くなったからなのか、
 それともアトラクションの演出とやらなのか。
 空には満点の星空があった。





 別に、答えて減るものはないはずだった。

 みんなの方が、酷い問題を出されていた。

 プライバシーの侵害、だなんて問題じゃない。
 一歩間違えれば彼女らの心を粉々に砕いて、
 もう元に戻らないようにする程に、外道な問題。

 …それに比べれば、僕らの問題は、マシなのだろう。
 両親がいない理由を、僕は無かったことにはしない。
 今でもこのことは辛くて辛くて仕方がないけど、
 それでも口を噤むほどのことじゃない。

 これは100点問題。
 正解すれば多くのメダルを貰えるのは勿論のこと、
 間違えればゲームオーバーは確定だ。

 僕だけならまだしも、苑を巻き込んで脱落だなんて、
 許されるわけがないし、僕自身が僕を許せない。



 …あぁ、それなのに。そのはずなのに。
 ボタンを押す手は震えっぱなしで。
 声を出そうとしても声にならなくって。
 笑おうとしても、全然、全く、笑えなくって。

 これを言ってしまえば、母さんと父さんの死が、
 なんだか、軽いものになってしまう気がして。

 怖くて、悔しくて、辛くて、泣きたくて、仕方ない。
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
兄さん…、
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
…………っ、ごめんね、苑!
早く…、早く、答えないとだよね、
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
にいさっ、
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
大丈夫!…大丈夫だよ!ほら、メダル100枚あれば最強だよ、僕ら!ね!

 なんとかして、口角を上げた。

 それから、震える手を押さえつけて、ボタンを押す。
 押してしまった。後には引けない。
 深く、深く、深呼吸する。

 ギシギシと音を立てる心を、なんとかして無視する。
 最後に、心の中で両親に「ごめん」と謝った。
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
答えは……っ、!!轢き─────
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
───そんなの教えるわけないでしょ!!バーカッ!!!

 ブッブー!!!!!!!!



 大きく、大きく、不正解の音が響き渡った。


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

 悩み続ける兄さんに、私は何も出来なかった。

 私自身に、両親に関する記憶はほとんど無い。
 小さかったから、悲しいけど仕方ないん…だと思う。

 ただ、兄さんがずっと、二人のことを話してくれた。
 だから、とっても素敵な両親の暖かさを、
 なかったことにせずに、今日まで来れた。



 …拝啓、お父さん、お母さんへ。
 今ここで、この決断をすることを許してください。
 あなたたちは、私たちに生きることを望むでしょう。
 けれど、私は兄さんの心を守りたい。私を怒るかな?
 ううん…、きっと褒めてくれるよね。
 「よく禅を守ったね」…って。
 だから私に、勇気をください。


 私は、リボンに触れながら語りかけた。
 兄さんとお揃いの、二人がくれたリボン。
 唯一、両親に関する思い出で覚えている出来事。



 ピコン、と、回答ボタンを押した音が鳴った。
 隣を見れば、いつにもなく苦しげな表情の兄がいた。
 …そんな顔、しないでよ、兄さん。
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
答えは……っ、!!轢き─────
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
───そんなの教えるわけないでしょ!!バーカッ!!!

 今までにないくらい大声で。
 今までにないくらい乱暴な口調で。
 今までにないくらいぐちゃぐちゃな表情で。

 私は、兄さんの答えを遮った。


 大きく響いた不正解の音も、気にならなかった。
 私は、兄さんの心を、守ることができただろうか?


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
 カエルタマゴ
不正解デミ~っ!!!!
カエルタマゴ
Eチーム、30点から-100点…つまり、-70点デミ!!
 カエルタマゴ
ゲームオーバー、確定デミ~!!!!
_緋窮 星螺@ヒキュウ セイ_
緋窮 星螺ヒキュウ セイ
なっ……バカッ!!どうして…っ、どうして、そんな…っ!!!
_朝霧@アサギリ_ ひより
朝霧アサギリ ひより
追加でメダルを払えばなんとかなるとかないんですか…っ、!?ねぇ!!
カエルタマゴ
あるわけないデミ。ルールはルールデミ
_璃絡@ルリカラ_ ふぃら
璃絡ルリカラ ふぃら
そんなのって…、こんなのってないよ…!
_水樹 玲奈@ミズキ レイナ_
水樹 玲奈ミズキ レイナ
……っ、
_冬樹 美結羽@フユキ ミユハ_
冬樹 美結羽フユキ ミユハ
2人は、本当に…ゲーム、オーバーに…、
_神城 真夢@シンジョウ マユ_
神城 真夢シンジョウ マユ
…救いようのない場所ですわ、本当に…!
_依茉谷 麗音@イマヤ リオン_
依茉谷 麗音イマヤ リオン
なんでだよ…っ!おい、なんとかしろよ!!
_樟 菜々花@クスノキ ナナカ_
樟 菜々花クスノキ ナナカ
…なんともならないよ。それがあの兄妹の選択だもの
_樟 菜々花@クスノキ ナナカ_
樟 菜々花クスノキ ナナカ
それを変える権利を…、私達は、持たない
_緋窮 星螺@ヒキュウ セイ_
緋窮 星螺ヒキュウ セイ
…………なんで、どう、して…っ、
_朝霧@アサギリ_ ひより
朝霧アサギリ ひより
姫様……、


 ┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
どう、して…、
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
だって……っ、!!だって!!兄さん、苦しそうだったから…!!
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
このまま答えちゃったら、兄さんの心が壊れちゃうって…っ、!
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
私、わたしっ、それだけは、絶対嫌だから…っ、!
_木曽路 禅@キソジ ゼン_
木曽路 禅キソジ ゼン
苑…っ、

 ──あぁ、僕は、なんて愚かなんだろう。

 ──あぁ、僕は、なんて泣き虫なんだろう。

 ──あぁ、僕は、なんて良い妹を持ったんだろう。
_木曾路 禅@キソジ ゼン_
木曾路 禅キソジ ゼン
ありがとう、苑。苑がいなかったら、僕は大切なものを無くしてた
_木曾路 禅@キソジ ゼン_
木曾路 禅キソジ ゼン
わかんないけど、きっと、あれが正解だったんだよ…っ、!
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
兄さん…、だよね、!きっとこれは、間違ってない!
 
_木曾路 禅@キソジ ゼン_
木曾路 禅キソジ ゼン
にしても、最後まで苑にいいとこ持ってかれたなぁ…
_木曾路 禅@キソジ ゼン_
木曾路 禅キソジ ゼン
頼りない兄でごめんね…、?
_木曾路 苑@キソジ エン_
木曾路 苑キソジ エン
もう、謝らないでよ!…私、兄さんの妹で良かった!
_木曾路 禅@キソジ ゼン_
木曾路 禅キソジ ゼン
僕も…!苑が僕の妹で良かった。大好きだよ!

 ガタン、と音がして、回答席が崩れた。
 僕らは二人、手を繋いだまま落ちていく。

 そんな僕らの顔は、涙でぐちゃぐちゃだったけれど。
 何も思い残すことがないような、輝くような笑顔で、
 最後がこれでよかったと、心から思ってしまった。




 ── 最高の兄妹だよ。僕たちは。

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