回答席が高くなったからなのか、
それともアトラクションの演出とやらなのか。
空には満点の星空があった。
別に、答えて減るものはないはずだった。
みんなの方が、酷い問題を出されていた。
プライバシーの侵害、だなんて問題じゃない。
一歩間違えれば彼女らの心を粉々に砕いて、
もう元に戻らないようにする程に、外道な問題。
…それに比べれば、僕らの問題は、マシなのだろう。
両親がいない理由を、僕は無かったことにはしない。
今でもこのことは辛くて辛くて仕方がないけど、
それでも口を噤むほどのことじゃない。
これは100点問題。
正解すれば多くのメダルを貰えるのは勿論のこと、
間違えればゲームオーバーは確定だ。
僕だけならまだしも、苑を巻き込んで脱落だなんて、
許されるわけがないし、僕自身が僕を許せない。
…あぁ、それなのに。そのはずなのに。
ボタンを押す手は震えっぱなしで。
声を出そうとしても声にならなくって。
笑おうとしても、全然、全く、笑えなくって。
これを言ってしまえば、母さんと父さんの死が、
なんだか、軽いものになってしまう気がして。
怖くて、悔しくて、辛くて、泣きたくて、仕方ない。
なんとかして、口角を上げた。
それから、震える手を押さえつけて、ボタンを押す。
押してしまった。後には引けない。
深く、深く、深呼吸する。
ギシギシと音を立てる心を、なんとかして無視する。
最後に、心の中で両親に「ごめん」と謝った。
ブッブー!!!!!!!!
大きく、大きく、不正解の音が響き渡った。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
悩み続ける兄さんに、私は何も出来なかった。
私自身に、両親に関する記憶はほとんど無い。
小さかったから、悲しいけど仕方ないん…だと思う。
ただ、兄さんがずっと、二人のことを話してくれた。
だから、とっても素敵な両親の暖かさを、
なかったことにせずに、今日まで来れた。
…拝啓、お父さん、お母さんへ。
今ここで、この決断をすることを許してください。
あなたたちは、私たちに生きることを望むでしょう。
けれど、私は兄さんの心を守りたい。私を怒るかな?
ううん…、きっと褒めてくれるよね。
「よく禅を守ったね」…って。
だから私に、勇気をください。
私は、リボンに触れながら語りかけた。
兄さんとお揃いの、二人がくれたリボン。
唯一、両親に関する思い出で覚えている出来事。
ピコン、と、回答ボタンを押した音が鳴った。
隣を見れば、いつにもなく苦しげな表情の兄がいた。
…そんな顔、しないでよ、兄さん。
今までにないくらい大声で。
今までにないくらい乱暴な口調で。
今までにないくらいぐちゃぐちゃな表情で。
私は、兄さんの答えを遮った。
大きく響いた不正解の音も、気にならなかった。
私は、兄さんの心を、守ることができただろうか?
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┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
──あぁ、僕は、なんて愚かなんだろう。
──あぁ、僕は、なんて泣き虫なんだろう。
──あぁ、僕は、なんて良い妹を持ったんだろう。
ガタン、と音がして、回答席が崩れた。
僕らは二人、手を繋いだまま落ちていく。
そんな僕らの顔は、涙でぐちゃぐちゃだったけれど。
何も思い残すことがないような、輝くような笑顔で、
最後がこれでよかったと、心から思ってしまった。
── 最高の兄妹だよ。僕たちは。


























編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!