ずっと前から、薄々感づいてはいた。
私には才能がないんだって。昔の偉人みたいな、凄く綺麗で感動するような、そんな曲は書くことができないってことを。
いつも、こんなふうになってしまう。そして結局...自分の心に塞ぎ込んで。
辛くなる。
でも、最近は___。もう、曲を作った痕跡を消している。
ビリビリッ
ザクッ、ビリッ
譜面に起こしたばかりの楽譜を破る。
もう、悲しい、もったいない、なんて感情はとうの昔に消した。
押し殺し続けた感情の中の何処かにきっとある。
母は知らない。私がいつも3時に起きて曲を作っていることを。
もう身支度も済ませている。
うちの学校は私服。なぜかローファーだけは指定だけど...。
別に学校なんて行きたくない。でも、彼女に会えるから。それだけがモチベーション。
私は駆け足に、でも少し重い足取りで家を出た。
学校でいじめられているわけでもない。
ただ、面倒くさい。学校の勉強も普通にできる。逆に簡単だ。
だからこそ他の奴らが幼く見える。
不意に後ろから誰かが私の肩を叩いた。
彼女こそが私の学校に行くモチベーションとなっている人物。
私の話をいつも聞いてくれる。
私の心の音を聴いてくれる唯一の存在。
私達はそんな他愛のない会話をしながら学校への道のりを歩いていく。
こんな幸せな雰囲気を私が纏うことはおそらくこの時だけだと思う。
だからこそ私はこの時間を大切にしている。彼女にとってこんな時間はそこまで大切じゃないかもしれない。でも、だからこそ私はこの一時を忘れない。傷ついた心が安らぐ僅かな時を__。
ワイワイガヤガヤ
そう言って彼女は笑顔でわたしに手を振るとクラスの友達のところへ行った。
私はそんな彼女のようにはなれない。私はクラスで1人でいるのが落ち着く。
私も1人、ポツリと呟いて教室に入っていった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。