第106話

after story 1
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2023/02/25 14:00





クリスマスイブの夜


相変わらず俺の隣は樹だった


街中へ出てきたはいいものの


カップルだけではなく


ありとあらゆる人種で人はごった返していた


そりゃ、クリスマスイブの夜はこんなもんだろう


と、すでに開き直ってはいた


そして、人混みが嫌いな俺が


わざわざこんな街中へ行こう、と


それもましてやクリスマスに


誘った理由をきっと隣のこいつは察している



樹「あなたちゃん、こんなとこにいないでしょ」

北斗「わかんねぇじゃん」

樹「生徒に見られたらあっちも面倒だろうしさ」



絶対いない、と言い張る樹の隣で


キョロキョロと頭を動かしながら


人混みの中を歩く


これだけ人がいればいたっておかしくない、と


なぜか期待してしまうから



樹「てゆうか、本人にクリスマスの予定聞いたんでしょ?」

北斗「うん、家で1人だって」

樹「じゃあ確定じゃん」



とことん、希望のないことを突きつけてくる


それが現実だろうからいいけど


少しぐらい夢見たっていいじゃん


こんなにカップルで溢れてるとこにいれば


大好きな人に会いたくなるもんだし、



樹「北斗、広場のツリー見に行こ」

北斗「えー、あそこ人多いじゃん」

樹「今更だろ」



あなたちゃんいるかもよ、なんて


適当な言い訳に負けて、仕方なく着いて行った


相変わらず人は多くて


写真を撮れば必ず誰かの頭が映るもんだから


諦めてスマホを下ろした



北斗「あー、あなたちゃんと見たかった」

樹「それ俺の隣で言う?」

北斗「だって本当だもん」

樹「泣くよ?」



スマホでカメラを起動させ


パシャパシャと写真を撮る樹


こんなの撮ってもどうせ見返さないのに



樹「写真撮らないの?」



そう思ったけど


まあ、1枚ぐらいと


スマホの画面越しにツリーを写す


顔を上げたまま、なんとなく視線を逸らした



北斗「え、」



聖なる夜の奇跡は本当に存在するのだと。


その瞬間に確信した。


ツリーなんてほったらかして


そのまま駆け出してた


人混みの中をかき分けて


目線は大好きなその姿を捉えたまま。


いつもと同じように。


学校であなたちゃんを追いかけるのと全く同じように。








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