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第2話

共通プロローグ1/
29
2022/02/12 19:31
(なまえ)
あなた
(えっと……今何時だ……?)
 目を覚ました瞬間茜色に染まる空が目に入り俺、あなたの名字あなたの下の名前は慌てて時計を確認した。
(なまえ)
あなた
(やべぇもう17時……!)
 この春大学を卒業して就職する予定だった筈が就職活動に失敗し……
(なまえ)
あなた
(俺の良さがわからない企業が悪い!)
 そういった思考に陥ってからは就職活動へのやる気も何もかもが消え、気付けば新社会人になって1月の予定だった5月を迎えていた。
 仕事も無い、遊び相手も居ないから……結局こうして寝て過ごす。
 覇気がない生活をしている自覚はあるものの……アルバイトを始めるのも何だか負ける気がしてならない為、探しもしていない。


 こんな俺でも学生時代は優等生で通っていた。成績は常にトップクラス。受験に失敗した事も無い。  
 そのままエリート街道を歩むのは約束された未来だと思っていたのだから……尚更やる気が出ないのだ。
(なまえ)
あなた
(はあぁ……何かした方が良いんだろうなぁ……けど何をするってんだよ)
 学生時代は勉強が趣味という程勉強に勤しんでいた。そんな俺に趣味と呼べる物がある訳も無く……。
 というよりしっかりとした趣味があるのならずっと寝て過ごすなんてしないだろう。
(なまえ)
あなた
はあぁ……
 毎日のように出る溜息には……俺自身ももう飽きてきている程だ。
(なまえ)
あなた
はぁ……
 それでも溜息を吐くしか無く、再び漏らしたその時だった。
 軽快な音楽と共に充電器に掛けっ放しになっているスマホが震えた。
(なまえ)
あなた
ん、誰だ? ……ああ
 ディスプレイに表示されていたのは見知った名前だった。
(なまえ)
あなた
どうした立樹たつき? 何か用か?
 電話相手は飛風とびかぜ立樹。 幼馴染であり腐れ縁。何なら俺の両親が経営しているアイドル事務所に就職したらしく、今一番聞く話題の人物でもある。
飛風立樹
飛風立樹
[やっほー、あなたの下の名前。最近どーよ? 相も変わらずニート満喫かい?]
(なまえ)
あなた
満喫ってなぁ……暇過ぎてどうにかなりそうではあるけど
 喋りからもわかるように完全な陽キャラの立樹は……誰にでも分け隔てなく接するその性格から学生時代も人気者で有名人だった。
 仲良くなったきっかけも立樹が1人で読書ばかりしてた俺に声を掛けてくれたからだ。
 そんな奴だから勉強位しか能の無い俺とも親友関係で居られるんだろうけど。

 そんな電話相手・立樹は思いがけない事を言った。
飛風立樹
飛風立樹
[そんな事だろうと思ってさ、暇過ぎて辛~いあなたの下の名前ちゃんに朗報だよん♪]
(なまえ)
あなた
え、朗報?
 食い気味に反応すれば立樹は楽しそうに応じる。
飛風立樹
飛風立樹
[そーそ。喜べ、仕事だぞ。しかも重役!]
(なまえ)
あなた
重役?
飛風立樹
飛風立樹
[デデン! 『翼プロダクション』の社長代理だよん!!]
(なまえ)
あなた
な、な、何だって~!?
 予想外過ぎる単語に俺は電話越しで固まった。
(なまえ)
あなた
(『翼プロダクション』って……両親の経営する事務所の1つだった筈……)
 何だか両親のお零れを貰ったようで格好悪いが、仕事が出来るのはこの現状を思えば有難い。
 ただとても気がかりな事がある。
(なまえ)
あなた
(『翼プロダクション』って……所属アイドル居たか?)
 両親の経営している会社なのだから多少なりとも情報は入る筈だが……『翼プロダクション』のアイドルの話は一切聞いた事が無い。真面まともに活動しているのかどうかも正直わからない。

 俺が困惑していると立樹が呑気に続けた。
飛風立樹
飛風立樹
[あーそうそう。あたしも副社長代理としてサポートする感じになったから宜しく]
(なまえ)
あなた
マジか!? それは心強いな……ってか御前が副社長代理? ん? で、俺は……
 先程何だかとんでもない単語を聞いたような気がしたが……まさかな。
飛風立樹
飛風立樹
あれ? 聞いてなかった感じ? だから社長代理だって
(なまえ)
あなた
……ハァ!?
 聞き直して改めて重大な事実に気付く。
(なまえ)
あなた
う、うっそだろおおおおおぉぉぉぉぉ!?
 思わず叫んだ俺にスマホとの距離を離したのか、立樹の声が少し遠くなる。
飛風立樹
飛風立樹
[うるさっ……いやほらだってあなたの下の名前、経営学んでたじゃん?]
(なまえ)
あなた
……確かにそれはそうだけど……いきなり社長って……
飛風立樹
飛風立樹
[代理ね。細かい事なんかはあんたの親父さん達がやってくれるし大丈夫だって。それにあたしもサポートするから……心配しないの!]
(なまえ)
あなた
……でもなぁ
飛風立樹
飛風立樹
[大丈夫大丈夫。『翼プロダクション』の子達は皆良い子だし、一緒に頑張ってくれるよ!]
 不安しか無い俺を立樹が必死で励ます。それでもその言葉を鵜呑みに出来る程俺は純粋では無かった。
(なまえ)
あなた
本当に大丈夫なのか……?
(なまえ)
あなた
(就職失敗した負け組のこんな俺が……代理とはいえ社長なんて)
 自問自答のような俺の呟きに立樹が応じる。
飛風立樹
飛風立樹
[まぁそう思い悩むなって。詳しい事は『翼プロダクション』に行ってから説明する。それにあたしが言葉でどうこう言うよりかは実際所属アイドル達と会った方が安心もするんだろうし。どうせ予定なんて無いっしょ? 何なら明日あたしが迎えに行くよ?]
 立樹のその言葉は……まるで俺の不安を見透かしたかのようだった。
 確かに彼女の言うように実際に所属アイドル達と顔合わせをした方が良いかも知れない。
飛風立樹
飛風立樹
[時間は10時位には着きたいね。どう、そういう事で?]
(なまえ)
あなた
……助かるよ。持つべき者はやっぱり親友だな
 思わずそう言えば引き気味な声が聞こえて来た。
飛風立樹
飛風立樹
[うわ気持ち悪……まぁでも何となく落ち着いたならそれで良いや]
(なまえ)
あなた
何だよ本当に感謝してんのに……有難うな
 俺が返すと立樹が静かに応じた。
飛風立樹
飛風立樹
[ま、その言葉は素直に受け取っておこっかな。どういたしまして。んじゃ、そういう事だから明日はちゃんと起きてよね]
(なまえ)
あなた
おう、勿論だ!
 俺が元気に応じたのに対し、逆に立樹は静かになる。
飛風立樹
飛風立樹
[親友……か]
(なまえ)
あなた
ん、立樹? どうかしたか?
 彼女が何かを呟いたような気がして、思わず返す。
 しかし立樹はもう普段通りのテンションに戻っており、憎まれ口を叩くだけだ。
飛風立樹
飛風立樹
[明日あなたの下の名前がちゃんと起きるのか心配だなーって言ったんだよ。やっだなーあなたの下の名前ったら。もう難聴とか洒落にならないよ? それとも都合の悪い言葉だったから聞き流したのかい?]
(なまえ)
あなた
な訳ねぇだろ! 見てろよ。絶対数時間前に起きてやるんだからな!!
飛風立樹
飛風立樹
[はいはい、期待しないで楽しみにしておいてあげる]
(なまえ)
あなた
何だとー!?
飛風立樹
飛風立樹
[思った事を言っただけだよん。ってかそんならあなたの下の名前さ、早く寝た方が良いんじゃない?]
(なまえ)
あなた
……確かにそうだな
飛風立樹
飛風立樹
[それじゃあ今日はこの辺にしといてあげる。絶対に約束忘れたりしないでよ?]
(なまえ)
あなた
勿論だ!
飛風立樹
飛風立樹
[OK、じゃあまた]
(なまえ)
あなた
おう
 俺が応じると通話は切れた。
(なまえ)
あなた
(明日か……)
 自分が社長代理を任された事も立樹と仕事をする事もまだ何も実感は湧かないけれど、久々に心が躍るような……そんな感覚を覚えた。
(なまえ)
あなた
(今日は早く寝るかな……)
 この日普段ずるずると起き続けている俺にしては珍しく、早めに布団に入ったのだった。

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