第24話

24、レグルスとの記憶②
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2026/01/02 09:00 更新
ミコ
ミコ
自分の立場……か……
ジルベールからのプロポーズ、もとい、忠告を受けた私は、虚空に向かって呟いた。
魔界の空はいつもどんよりとしている。
そんな私の様子に、レグルスは「食え」と何かを放り投げて来た。
ミコ
ミコ
わっ、これ……何?
レグルス
レグルス
魔桃だ
ミコ
ミコ
魔……桃?
見た目は紫色の桃だが、ほのかに甘い匂いがする。
魔界版の桃らしい。勇気を出して齧って見ると、
ミコ
ミコ
……すっっっぱ!!!
レグルス
レグルス
……初めて収穫できた果実なんだが、うまくいかなかったみたいだな
レグルスは自分でも齧ると、眉をしかめていた。
その様子に笑ってしまう。ふと、ジルベールに言われた「自分の立場を考えるように」と言われた言葉を思い出して悲しくなった。
ミコ
ミコ
(聖乙女が魔界に入り浸るのはよくないことかもしれない。でも、私はレグルスとこうして過ごしている時間が好きだな……)
レグルス
レグルス
ミコ、こっちの方が少し甘い。これなら食べられるんじゃないか?
ミコ
ミコ
え? どれ?
レグルスが選んだ果実を私の口まで運んでくれたので、おそるおそる一口齧った。
だが、うまく齧れずに、果汁が唇から滴ってしまう。レグルスは果実を持っているのと反対の手で私の顎に手を添えると、親指の腹で汁を拭ってくれた。
レグルス
レグルス
どうだ?
ミコ
ミコ
レグルス
レグルス
味は?
ミコ
ミコ
え、ああ、味ね、味はっ
ミコ
ミコ
(びっっっくりした~~~!!)
突然の動作に真っ赤になってしまい、味なんてわからず飲み込んでしまった。
ミコ
ミコ
ご、ごめん。飲みこんじゃって、味わってない
レグルス
レグルス
しかたないな、ほら。もう一口
ミコ
ミコ
じ、自分で食べるよ
レグルス
レグルス
だめだ。俺が食べさせたい
愉快そうなレグルスの顔に、私の頬はますます熱くなった。
ミコ
ミコ
(からかわれている?)
面白がられているだけだと自分に言い聞かせるも、鼓動はどきどきとうるさい。
恥ずかしいから嫌だと言ったけど、結局、もう一口食べさせられた。
ミコ
ミコ
確かにこっちは甘い……かも
レグルス
レグルス
おいしくはないかもしれないが、まずくもないだろう。じゅうぶん、食用になる。ここまで無事に育ったのはミコのおかげだな
ミコ
ミコ
魔界のみんながお世話してくれたからだよ
レグルス
レグルス
お前が頑張ってくれる姿に、みんなが影響されたんだ。……ありがとう、ミコ。魔界のことはもう心配いらない
ミコ
ミコ
え?
レグルス
レグルス
あの王子にプロポーズされたんだろう?
ミコ
ミコ
どうして知ってるの!?
レグルス
レグルス
初めに言っただろう。お前を監視すると
それにしたって……、覗きじゃないか。
慌てる私に、レグルスは優しく言った。
レグルス
レグルス
お前は聖乙女だ。リムフローレ国で大切に愛される方が合っている。魔界のことはもう心配はいらない
ミコ
ミコ
それって……、私はもう来なくてもいいってこと?
レグルス
レグルス
来ない方がいい
レグルスに言われた私は傷ついた。
ジルベールに「行かない方がいい」と言われた時よりも、ずっとずっとショックだった。
このまま魔界に入り浸っていたら「聖乙女失格だ」と言い出す人が出てくるかもしれない。ジルベールもそれを危惧しているのだろう。
だけど、私は……。
ミコ
ミコ
そんなこと言わないで。私は、レグルスと会えなくなったら嫌だよ
レグルス
レグルス
ミコ
ミコ
ミコ
リムフローレ国か、魔界か、どちらかを選ばないといけないとしたら、私は魔界で暮らしたい
レグルス
レグルス
――ならば、俺がお前を娶ろう
めとるって何だっけ。そんな私の一瞬の隙をついて、レグルスが私に口付けた。
レグルス
レグルス
お前がここに残りたいというのなら、俺はお前を妻にする。嫌だと言うのなら人間界へ帰るがいい
レグルスがわざと恐ろしい顔をして言ったが、私はというと「妻」という言葉にかあああっと赤くなってしまった。

その時に――ああ、私はレグルスに惹かれていたんだ、と気がついた。
じわっと頬が熱くなって、でもレグルスから目が離せない。
ミコ
ミコ
うん。それでいい。私を、レグルスの妻にして。それで一緒にいられる?
レグルス
レグルス
正気か? もっとよく考えろ
ミコ
ミコ
正気だよ。私、レグルスのことが好きだよ
レグルス
レグルス
レグルス
レグルス
……ああ、もう。ミコ、お前がいると本当に調子が狂う……
赤くなったレグルスが、怒ったように私にキスをした。
ミコ
ミコ
私はここで、魔界で、生きていく
レグルスと一緒に。そう、決めたんだ……。
ミコ
ミコ
あ……れ……?
目を開けると、心配そうなポムの顔があった。
倒れていたらしい。ここは城の庭で、私は記憶を取り戻すためにりんごを齧ったのだ、ということを思い出した。
ミコ
ミコ
そっか。これが私が忘れていた記憶なんだ……
レグルスとの事だけじゃない。この世界に来てジルベールたちと会ったことや、レオンやアンリに武術や魔術の稽古をつけてもらったこと……、色々な記憶が私の心の中にすとんと落ちてきた。
身体の中をぽかぽかとしたものが駆け回る。
ミコ
ミコ
これ、聖乙女の力……?
記憶を失う前の私が持て余していた魔力が、身体の中を駆けまわっているのを感じる。そんな私に、ポムがキスをした。
ミコ
ミコ
ちょ、ポム……⁉
ポム?
ポム?
ようやく記憶を取り戻したか
ミコ
ミコ
その声……、レグルス?
ずっと喋れなかったはずのポムの口から出てきたのは、私の恋人の声だ。
ポム?
ポム?
あいにく、魔力が足りなくてな。自由に動き回れる『身体』を作るのに精一杯で、この人形に喋らせることは難しかったんだ。
ミコが記憶を取り戻せば、聖乙女の力を分けてもらえると思って、俺がこの庭園に置いていった魔力を込めたりんごを食べさせていたんだが……
ミコ
ミコ
今、キスをしたから、あなたに魔力は戻ったの?
ポム?
ポム?
ほんの少しだけな
ポム?
ポム?
私が元の姿に戻るためには、ミコの魔力を分けてもらうしかない
レグルスの本体は異空間に逃げのびたまま、動けないでいるらしい。
ポム?
ポム?
だが、身体を元に戻そうとすると、ミコの魔力のほとんどを吸い取ってしまうことになる。魔力を返せるかどうかもわからない
ミコ
ミコ
いいよ、使って
ポム?
ポム?
だが……
レグルスは躊躇っているようだった。
ポム?
ポム?
聖乙女の力は強大だ。その力をなくしたら、ミコはもう魔術を使えなくなってしまうかもしれない
悲壮な声でそう言われる。だけど、私は悲しいとは思わなかった。
ミコ
ミコ
別にいいよ。魔術を使うのは楽しかったけど……、私は普通の女子高生だったんだよ。魔術が使えないのが普通の世界で生きてきたんだから、なくても大丈夫
ミコ
ミコ
それとも、レグルスは私が聖乙女だから好きになってくれたの?
ポム?
ポム?
違う。俺はミコが魔界を良くしようと奮闘してくれる姿に心惹かれたんだ。魔術が使えなくても関係ない。ミコを愛している
ミコ
ミコ
……ありがとう
愛しているなんて言われて照れくさい。
でも私も、つんけんした態度を取るレグルスが、実は面倒見が良くて優しい人だから好きになったんだ。魔王だとか、種族が違うとかは関係ない。 
ミコ
ミコ
私も、レグルスが好きだよ
そう言うと、ポムの姿のレグルスは私にキスをした。
長い長い恋人のキスに目を閉じる。私の身体を駆け巡っていた力が、ゆっくりとポムに流れ込んでいるような感覚がした。

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