ジルベールからのプロポーズ、もとい、忠告を受けた私は、虚空に向かって呟いた。
魔界の空はいつもどんよりとしている。
そんな私の様子に、レグルスは「食え」と何かを放り投げて来た。
見た目は紫色の桃だが、ほのかに甘い匂いがする。
魔界版の桃らしい。勇気を出して齧って見ると、
レグルスは自分でも齧ると、眉をしかめていた。
その様子に笑ってしまう。ふと、ジルベールに言われた「自分の立場を考えるように」と言われた言葉を思い出して悲しくなった。
レグルスが選んだ果実を私の口まで運んでくれたので、おそるおそる一口齧った。
だが、うまく齧れずに、果汁が唇から滴ってしまう。レグルスは果実を持っているのと反対の手で私の顎に手を添えると、親指の腹で汁を拭ってくれた。
突然の動作に真っ赤になってしまい、味なんてわからず飲み込んでしまった。
愉快そうなレグルスの顔に、私の頬はますます熱くなった。
面白がられているだけだと自分に言い聞かせるも、鼓動はどきどきとうるさい。
恥ずかしいから嫌だと言ったけど、結局、もう一口食べさせられた。
それにしたって……、覗きじゃないか。
慌てる私に、レグルスは優しく言った。
レグルスに言われた私は傷ついた。
ジルベールに「行かない方がいい」と言われた時よりも、ずっとずっとショックだった。
このまま魔界に入り浸っていたら「聖乙女失格だ」と言い出す人が出てくるかもしれない。ジルベールもそれを危惧しているのだろう。
だけど、私は……。
めとるって何だっけ。そんな私の一瞬の隙をついて、レグルスが私に口付けた。
レグルスがわざと恐ろしい顔をして言ったが、私はというと「妻」という言葉にかあああっと赤くなってしまった。
その時に――ああ、私はレグルスに惹かれていたんだ、と気がついた。
じわっと頬が熱くなって、でもレグルスから目が離せない。
赤くなったレグルスが、怒ったように私にキスをした。
レグルスと一緒に。そう、決めたんだ……。
目を開けると、心配そうなポムの顔があった。
倒れていたらしい。ここは城の庭で、私は記憶を取り戻すためにりんごを齧ったのだ、ということを思い出した。
レグルスとの事だけじゃない。この世界に来てジルベールたちと会ったことや、レオンやアンリに武術や魔術の稽古をつけてもらったこと……、色々な記憶が私の心の中にすとんと落ちてきた。
身体の中をぽかぽかとしたものが駆け回る。
記憶を失う前の私が持て余していた魔力が、身体の中を駆けまわっているのを感じる。そんな私に、ポムがキスをした。
ずっと喋れなかったはずのポムの口から出てきたのは、私の恋人の声だ。
レグルスの本体は異空間に逃げのびたまま、動けないでいるらしい。
レグルスは躊躇っているようだった。
悲壮な声でそう言われる。だけど、私は悲しいとは思わなかった。
愛しているなんて言われて照れくさい。
でも私も、つんけんした態度を取るレグルスが、実は面倒見が良くて優しい人だから好きになったんだ。魔王だとか、種族が違うとかは関係ない。
そう言うと、ポムの姿のレグルスは私にキスをした。
長い長い恋人のキスに目を閉じる。私の身体を駆け巡っていた力が、ゆっくりとポムに流れ込んでいるような感覚がした。















編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。