第25話

25、レグルスから見た人間界①
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2026/01/09 09:00 更新
レグルス
レグルス
ミコ
名前を呼ばれて目を開ける。
そこにいたのはポム――ではなく、魔王としての姿を取り戻したレグルスだった。
ミコ
ミコ
レグルス……! 元に戻ったんだね
レグルス
レグルス
ああ。ミコのおかげだ
私達は再会を喜んで抱き合った。
だけど、ここはリムフローレ国の城。レグルスにとっては敵陣ともいえる場所だ。
ジルベール
ジルベール
そこまでだ!
いつかの時のように、バルコニーにジルベールが立ち、私達を見下ろしていた。庭園には大勢の兵士たちが現れる。その中にはアンリと――戻ってきたらしいレオンの姿もあった。
でも、私達はもう躊躇わなかった。
レグルス
レグルス
ミコ、……もういいか?
ミコ
ミコ
うん。ジルたちと和解するのは……残念だけど諦める
レグルス
レグルス
それなら、もうこんな場所に用はないな
レグルスは手をかざすと、魔界への入り口を作った。
話し合う気もなく、さっさと逃げようとする私達に慌てたようにジルベールが声を上げる。
ジルベール
ジルベール
待てっ! ミコ、きみには聖乙女としての自覚がないのか!? この国を捨てて魔王を選ぶなんて、聖乙女失格だぞ!
ジルベールに強い言葉をぶつけられた私は怯んだが、
レグルス
レグルス
残念だな、この娘はもう聖乙女ではない。
この娘の能力は、すべて俺が奪ってやったからな
ジルベール
ジルベール
……は?
ニヤリと悪い顔をして笑ったレグルスは、私を攫うようにして魔界に繋がる入り口をくぐった。
「待て!」とか「ミコ!」とか呼ぶ声が聞こえたが、すべて無視して空間を閉じてしまう。緑豊かなリムフローレ国の庭園とは違い、荒れた魔界の地に降り立った私をレグルスが抱きしめた。
ミコ
ミコ
……あの言い方だと、レグルスが悪者になっちゃうよ。私が望んで、レグルスに力を渡したのに……
レグルス
レグルス
俺がお前の能力を奪ったことには変わりない。だからいいんだ。それより……
言葉を詰まらせたレグルスと共に辺りに視線を向ける。
レグルス
レグルス
俺が力を失ってしまったせいで、また元の荒れた土地になってしまったな
記憶を取り戻した今、レグルスの無念さはよくわかった。
私とレグルスが少しずつ積み上げてきた暮らしが壊れてしまったのだ。
荒れた土地の改善のほとんどは、私とレグルスの魔力でどうにかしていた部分が大きい。

そして私は、レグルスに力を渡してしまったから――光魔法ですぐに植物に元気を与えられるわけでもない。
ミコ
ミコ
レグルス、私、頑張るよ
ミコ
ミコ
また元通りに暮らせるように頑張る。
だから……
レグルス
レグルス
ありがとう、ミコ
レグルス
レグルス
やり直そう。一緒に
うん、と頷いた私はレグルスに抱きついた。

私の指に嵌っていたジルベールの指輪は、レグルスがぽいっと捨ててしまった。代わりに金の指輪を嵌められる。
ミコ
ミコ
あれ? 前にもレグルスから指輪を貰ったよね……?
ポムと共に過去の記憶を探していた時にも、金の指輪があったような気がする。
あの指輪はどこへ行ってしまったのだろうか。
レグルス
レグルス
ふん。ミコが眠っている二か月間の間に奴らが処分したようだ。
だから俺も同じことをしてやる
子どもっぽくむくれたレグルスは、捨てたジルベールの指輪を燃やしてしまった。
多分、ものすごくお高い指輪だろうけど……。
レグルス
レグルス
俺は嫉妬深いんだ
ミコ
ミコ
執念深いの間違いじゃない?
……でも、ありがとう。今度は誰かに捨てられたりしないように、大切にする
私は指輪の嵌った手を胸に抱く。

こうして、ごくごく平凡な女子高生だった私、九谷ミコは、異世界に聖乙女として召喚され――魔王の花嫁になったのだった。
これはまだミコと出会う前の話だ。
俺――レグルスは、『聖乙女』が召喚されたと聞いて、すぐにリムフローレ国の動向を探った。人間界の様子を映す水鏡で、聖乙女とやらの顔を拝む。
レグルス
レグルス
この娘が、聖乙女?
平々凡々な少女。それがミコの第一印象だ。
「聖乙女様! 聖乙女様!」とおだてられてオドオドとしている様子は哀れですらあった。

聖乙女は異世界から召喚されると伝え聞いてはいたが――ある日突然知らない世界に喚ばれ、友人も家族もいない状況に放り出され、国のために力を貸してくれと懇願されるのだ。俺なら煩わしく思って、国を滅ぼしてしまうかもしれない。

しかし、ミコは健気だった。
せっせと図書館に通っては本を読み、魔術の基礎の基礎から学びだし、体力づくりのためとランニングまで始めた。

俺はいつしか、ミコの様子を確認するのが日課になっていた。
そして、ミコの周囲をウロチョロする男たちの様子も、必然的に見る羽目になった。

リムフローレ国の王子・ジルベールは、ミコをこの世界に召喚した張本人だ。
王家の人間が神に祈りを捧げ、それが聞き入れられると『聖乙女』は選ばれるらしい。

自らが喚んだ救世主の存在に、ジルベールはすぐに夢中になった。
ジルベールが婚約者に別れを突き付けるのは、ミコが現れてすぐのことだ。
ジルベール
ジルベール
ローゼリカ、申し訳ないが僕との婚約は破談にして欲しい。僕は聖乙女と結婚する
令嬢
そんな! こ、国王陛下は、このことは……
ジルベール
ジルベール
もちろん、父上の了承も得ている。これまでの聖乙女はほぼ例にもれず、我が国の王族が娶ってきた。僕が聖乙女と結婚するのは、定められた運命なんだ
令嬢
ですが、わたくしは幼少期より、国母となるために研鑽して参りました。ジルベール様をお支えするようにと、父や母からも――
ジルベール
ジルベール
国母となるべく育てられたきみなら、僕の決断を理解してくれると信じているよ。
残念だが、ローゼリカ。きみの幸せを願っている
令嬢
……そ、そんな。ジルベール様……!
泣き崩れる婚約者を宥めたジルベールは、彼女を家の者に引き渡すと、私室へと戻った。
ジルベールの部屋の天井には「聖乙女降臨」の絵が描かれ、家具の意匠もよくよく見れば『聖乙女』――天使のような少女が、国に富をもたらすように腕を振り上げたり、祈りを捧げているような彫刻が施されている。
レグルス
レグルス
(なるほど、こいつは敬虔な「聖乙女」信者か)
ジルベールが部屋の奥にあるキャンバスの布をとった。
描かれたばかりらしい絵は、ミコとジルベールの結婚式の様子である。
その絵をうっとりと見つめたジルベールが呟く。
ジルベール
ジルベール
ふふふ。聖乙女と結婚した王族のほとんどは、「賢君」として名を残している。ミコ、きみは僕とこの国を救う聖なる存在だ……
レグルス
レグルス
(…………)
俺はジルベールから離れた。
次はミコの周りをうろちょろしている護衛騎士・レオンの様子を見てみることにする。

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