第9話

第八話
87
2026/02/16 13:01 更新
─n.h─

拠点は、静まり返っていた。

深夜三時。

大型モニターの光だけが、薄く部屋を照らしている。

ソファに一人、座っている影。

西洸人。

モニターには、止まったままのログ画面。

next_target:n.h

その文字を、洸人はじっと見つめている。

背後で足音がした。

柾哉「……洸人?」

洸人は振り返らない。

洸人「起きてた?」

柾哉「そっちこそ。寝てないでしょ」

柔らかい声が、やけに静かな部屋に響く。

少し間。

洸人はやっと立ち上がった。

洸人「別に。ログ確認してただけ」

柾哉「n.hのやつ?」

洸人の指が、わずかに止まる。

一瞬。

ほんの、一瞬だけ。

洸人「……気にしすぎでしょ」

柾哉「副リーダーの名前でしょ。気にするでしょ普通」

柾哉は、真っ直ぐ洸人を見る。

逃げ道を塞ぐみたいに。

洸人は軽く笑った。

洸人「なんで俺がターゲット」

柾哉「分からない。でも――」

柾哉の声が低くなる。

柾哉「お前、さっきから画面見すぎ」

沈黙。

洸人は目を逸らした。

洸人「……俺は平気」

柾哉「嘘だね」

即答。

洸人の眉がわずかに動く。

柾哉が一歩近づく。

柾哉「昔のこと、関係ある?」

その言葉で、空気が変わった。

一瞬だけ。

洸人の目から、光が消えた。

洸人「……関係ない」

柾哉「洸人」

洸人「関係ない言ってる」

声は静か。

でも、いつものトーンじゃない。

少し低く、少し硬い。

柾哉は黙る。

代わりに、モニターを見た。

画面に一瞬、ノイズが走る。

ログの一部が点滅する。

archived_data / subject : n.h
phase1 complete

柾哉「……フェーズ1?」

洸人の指が、素早くキーボードを叩いた。

画面が消える。

洸人「見るな」

柾哉「なんで」

洸人「俺の問題」

その瞬間。

洸人の声が、ほんの少しだけ震えた。

柾哉はそれを聞き逃さない。

柾哉「洸人」

静かに呼ぶ。

柾哉「俺、リーダーだよ」

洸人「……知ってる」

柾哉「お前のことも守る立場」

洸人が顔を上げる。

目が合う。

数秒。

時間が止まる。

洸人「……守られる側じゃないでしょ、俺は」

柾哉「そう思ってるんはお前だけ」

空気が、張り詰める。

そのとき。

警告音。

小さく、短く。

モニターが自動起動する。

新しい文字が表示された。

phase2 initiating
subject confirmation required

洸人のIDが、自動で入力されている。

柾哉「……は?」

洸人の顔から、血の気が引く。

洸人「……なんで」

柾哉「これ、お前の認証じゃん」

洸人は、一瞬だけ目を閉じた。

その表情は、

諦めに近かった。

洸人「……柾哉」

柾哉「何」

洸人「もし俺が、消えたら」

柾哉「やめろ」

即座。

柾哉の声が鋭くなる。

柾哉「その続き言うな」

洸人は小さく笑った。

いつもの、軽い笑い。

でも目は笑っていない。

洸人「冗談」

柾哉「……笑えない」

沈黙。

モニターのカウントダウンが、静かに始まる。

00:59
00:58

柾哉が洸人の手を掴む。

柾哉「俺が止める」

洸人「無理」

柾哉「やってみなわからいでしょ」

洸人の視線が、柾哉の手に落ちる。

温度が、伝わる。

00:41

洸人「……巻き込むな」

柾哉「もう巻き込まれてる」

00:30

洸人は、ゆっくり息を吐いた。

洸人「……昔な」

柾哉の目が揺れる。

洸人「俺、実験データに使われたことある」

空気が凍る。

カウントは進む。

00:18

柾哉「……は?」

洸人「フェーズ1は、多分それ」

柾哉の手に、力が入る。

00:10

洸人「俺が止める」

柾哉「一人で行くな」

洸人「行かない」

一瞬の間。

洸人は柾哉を見た。

洸人「……一緒に来る?」

00:04

柾哉「当たり前でしょ」

00:01

画面が、白く光る。

暗転。

next_phase unlocked.

続く。

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