第12話

11,午前0時のシンデレラ
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2023/03/29 15:34
翠
葵…ちゃん?
葵
ん?どうしたの?
翠
あー…いや、
翠
なんでもない!(ニコッ)


理由は分からない。






何故だか、違う気がした。






何かが







葵ちゃんこいつの、何かが。





翠
葵ちゃん、今日は外でデートしない?




とりあえず、思いついたことを言ってみる。





こんなんでこいつの機嫌を良くできるなら、朝飯前だ。




…物理的に。



葵
…うん



少し、葵の顔が曇ったような気がした。


葵
あの…



葵は何か言いたげで、


僕の「どうしたの?」という言葉を待っているようだった。
翠
どうしたの?元気無いね
 



葵
翠くんに、大事な話があるの





翠
…うん?



ストン…


とりあえずソファに座らせる。



もちろん隣に僕も座って、



ギュッ



手を握り、“彼氏感”を演じてみる。


翠
僕、なんでも受け止めるから

まぁ、正確にはなんでも右から左に流すんだけど。



興味無いし…





興味、無い、し

葵
私…

葵の声は震えている。



今にも泣き出してしまいそうだ。


葵
わ、私…







葵
結婚、してるの



葵はそういって、僕の手を離す。


翠
………



なにか、言いたかった。





別にこいつが居なくなったって、変わりはいくらでもいる。





だから、今までの僕ならすぐに捨ててた。





なのに…





なのに、なにも言葉が出ない。





心に穴が空いたような、





この気持ちはなんだろう





初めての感覚で、少し困惑する。



葵
翠…くん?
翠
あ、あぁ、ごめん


なんで、?





なんで僕が謝るの?





分からない





ただ、ひたすら分からない。


翠
僕のこと、好き?
葵
…え?


何聞いてるの、僕。





こいつが僕のこと好きでも嫌いでも、





僕には何も害は無いはずなのに

葵
好きだよ


目を見つめて、また言う
葵
大好きだよ


泣きそうな、でも笑ってる顔で。

翠
(…ずるい)


あれ…





僕さっき、なんて思った?




この気持ちが分からないまま、





でも、何も言わないと、葵がもう僕のところに来ないかもしれない。





そう思うと、何かしらは言わないと、と思った。

翠
僕も…
翠
僕も葵ちゃんのこと、大好きだよ



これは本心じゃない。




ただ、遊びだと、自分に言い聞かせた。


葵
翠…くん
ギュッ…




葵は半泣きでそう言って、僕の胸に顔を埋めるようにして抱きついてきた。

僕は、何も言葉を発さないまま、抱きしめた。




どのくらいの時間が経ったのだろう。





とにかく、しばらくの間抱きしめ合ったあと、僕はこう言った。
翠
葵ちゃん、この事は一旦忘れよう
葵
…え?
翠
僕のことだけを見ててよ


僕は、葵のOKが出る前に、ベットへと連れて行った。





この、なんとも言えない劣情も、





どうすれば良いのか分からない躊躇いも、




一度火がつけば燃え上がるから。

翠
今だけは何もかも忘れて

葵は僕がそう言った時、初めて頷いた。


この夜は、前よりも美しい夜になった。





邪魔なものは全部忘れ去って。





この、蕩けるような夢のなかで、





葵の全てを見たいと思った。





僕は、初めて葵を家に入れた時、こう言った。

翠
葵ちゃんは僕のシンデレラだよ


って。





葵がシンデレラなら…





ダンスホールで2人だけ、ダンスをしているような背徳感が、この夜にはあった。





でも、今は葵の心を覆っていた、ドレスは消えている。





これが、本当の姿だと思った。

翠
僕には葵ちゃんしかいない。


思わず溢したこの言葉に、葵ちゃんは微笑む。








葵ちゃんが落としたガラスの靴。
前までの僕だったら、
拾って、割っていただろう。






でも今の僕は、
左足のガラスの靴を拾って、ずっと隠しておくかもしれない。






だって、そうしたら、会える口実ができるから。













時計の秒針の音は、もう聴こえない。


最後まで、


朝が来るまで。

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