翔平side
俺の思考は止まった。
目の前には壱馬さん。
それと呆然としているなっちゃん。(女)
俺が名前を呼ぶも
俺を抱きしめたままの壱馬さんは顔をあげない。
俺にもたれかかったまま、
“動かない”
どんなに叫んでも
壱馬さんの背中を流れる血液は止まる気配がない。
赤黒い血がダムのように溢れ出てくる。
なっちゃんがナイフを突きつけながら俺に迫る。
壱馬さんの血液がついた、あのサバイバルナイフで。
しかし、俺に彼女を構っている暇などない。
俺は焦りながらも血塗れの手で通報した。
警察と救急に。
彼女はそう言うと、握りしめていた刃物を床に落とした。
カランっと甲高い音が部屋中を響かせる。
そしてその音を合図に彼女の目からは涙が溢れ、
冷たい床に座り込んだ。
『ごめんなさい。』
そう何度も何度も泣き叫びながら。
そしてそれから直ぐに救急車とパトカーが到着した。
俺が事情を説明する前に、
なっちゃんは自ら警察に自分の犯した過ちを白状した。
そこからのなっちゃんの行方は俺には分からない。
警察に連れられ行ってしまった。
救命士「男子高校生一人。背中から大量出血。川村さん分かりますか?
JCS20。」
そして俺は壱馬さんが乗せられた救急車に同乗した。
車内は忙しく、息をする暇もないようだった。
俺は徐に血塗れの手で壱馬さんの手を握った。
いいや違う。
本当は徐になんかじゃない。
震える手を抑えたくて握ったんだ。
なんにも関係ない壱馬さんを巻き込んで、
こんなにまでして。
さっきなっちゃんに言った言葉が蘇ってくる。
迷惑かけすぎてるのは俺も同じだ。
俺は失望するほうじゃない、されるほうだ。
そろそろ俺の涙腺も限界を迎え始めた。
俺のせいだ。
俺が弱かったから。
考えれば考えるほど、そんなことばかりが頭を占める。
そして俺は自然と打った。
樹にメールを打った。
アイツに助けを求めた。
『どうしよう。樹。』
すると返信なんてすぐに返ってきて。
『いまどこ?』
俺は瞬間で返した。
『病院。』
『分かった。すぐ行く。』
そうあいつからきたとき、
抑えていたものがプツリと切れた。
そして遂に涙が奥からどんどん出てくる。
樹が来てくれる。
樹が…
そんなとき、壱馬さんが苦し紛れの声で呟いた。
「助けて。樹。」
next…












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!