第26話

お前の横を過ぎ去る俺_#26
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2020/10/06 12:41 更新
翔平side
俺の思考は止まった。
目の前には壱馬さん。
それと呆然としているなっちゃん。(女)
浦川翔平
かず…まさん?
俺が名前を呼ぶも
俺を抱きしめたままの壱馬さんは顔をあげない。
俺にもたれかかったまま、
“動かない”
浦川翔平
壱馬さん!
どんなに叫んでも
壱馬さんの背中を流れる血液は止まる気配がない。
赤黒い血がダムのように溢れ出てくる。
女(なっちゃん)
ふはっ…ははっ…
あーあ、しょーへーのせいじゃん。
こいつ死んだら…へへっ…あんたのせいだよ?
あーあー悪い子悪い子…ひひっ。
お仕置しなきゃあ…ははっははははっ。
なっちゃんがナイフを突きつけながら俺に迫る。
壱馬さんの血液がついた、あのサバイバルナイフで。
浦川翔平
…壱馬さん!
壱馬さん起きてください!壱馬さん!
しかし、俺に彼女を構っている暇などない。
俺は焦りながらも血塗れの手で通報した。
警察と救急に。
女(なっちゃん)
あ、そうだしょへー?
私、
一つだけあんたに聞きたいことがあったの。
浦川翔平
壱馬さん…
女(なっちゃん)
あんたってさ、なんでずっと片想いできんの?
浦川翔平
女(なっちゃん)
あんた、壱馬くんのこと好きだったんでしょ?
私なんかよりもずっと前から。
浦川翔平
女(なっちゃん)
なんでそんなに自分なんて
眼中にない相手のこと、野放しに出来るの?
自分だけのものにしたいとか思わないわけ?
浦川翔平
女(なっちゃん)
ねぇ、なんとかいっ…
浦川翔平
思わないよ。
女(なっちゃん)
え?
浦川翔平
だから、独り占めしたいなんて思わない。
女(なっちゃん)
なんで?
浦川翔平
だって好きな人には
幸せになってもらいたいじゃん。
俺がどんなに願っても壱馬さんが
俺を好きになることなんてないんだから。
壱馬さんには俺じゃなくて、
別の人がいるから。
女(なっちゃん)
は?なんでそんななの?
なんでそんなに弱気なの?
浦川翔平
何事にも強気で挑むのは
悪いことじゃないと思う。
けど、なっちゃんは求めすぎてるんだよ、
なにに対しても。
結局あの日だって、
山彰さん壊したくせに
陸さん振り向かせられなかったじゃん。
なっちゃんは色んな人に迷惑かけすぎてるよ。
今の山彰さん、知ってるでしょ?
何も話さなくなっちゃったんよ?
感情すらもたんくなったんよ?
山彰さんにだって親がおる。
息子の人生を赤の他人に踏みにじられて。
そんな気持ち、
お前は1度でも考えたことあんの?
女(なっちゃん)
は…?どの口が私に…
浦川翔平
俺はお前のこと怖いなんて思わない。
そんな刃物持ってたとしても、
怖がらないから。
だってなっちゃんはなっちゃんだもん。
俺の友達なんだもん。
あのときの優しさも笑顔も明るさも全部全部、
未だに俺の心から染み付いて離れない。
正直、山彰さんをあんなにして、
今度は壱馬さんにまで
手出したのには失望したよ?
壱馬さんの後付けたり、
無理やり不法侵入しようとしたり、
大量のメール送り付けたり。
だけど、だけど憎めない。
こんなにされてもまだ、
なっちゃんのこと憎めん。
だってあの頃の、
中学の頃のあんたを俺は知ってるから。
女(なっちゃん)
浦川翔平
本当は分かってるんでしょ?
こんなのダメだって。
やめたいって。そうでしょ?
だけどエスカレートしすぎて
歯止めが利かなくなっちゃったんよね?
やめたいけど、やめられんのやろ?
女(なっちゃん)
…っ
浦川翔平
俺はなっちゃんは、
必ず戻ってくるって信じてる。
またあの頃の笑顔見たい。
あの頃みたいにふざけ合いたい。
まだ間に合う。まだやり直せる。
俺はなっちゃんをずっと悪者にしたくない。
女(なっちゃん)
…もぅ、ほんっとになんなの…
彼女はそう言うと、握りしめていた刃物を床に落とした。
カランっと甲高い音が部屋中を響かせる。
そしてその音を合図に彼女の目からは涙が溢れ、
冷たい床に座り込んだ。
『ごめんなさい。』
そう何度も何度も泣き叫びながら。
そしてそれから直ぐに救急車とパトカーが到着した。
俺が事情を説明する前に、
なっちゃんは自ら警察に自分の犯した過ちを白状した。
そこからのなっちゃんの行方は俺には分からない。
警察に連れられ行ってしまった。
救命士「男子高校生一人。背中から大量出血。川村さん分かりますか?
JCS20。」
そして俺は壱馬さんが乗せられた救急車に同乗した。
車内は忙しく、息をする暇もないようだった。
俺は徐に血塗れの手で壱馬さんの手を握った。
いいや違う。
本当は徐になんかじゃない。
震える手を抑えたくて握ったんだ。
なんにも関係ない壱馬さんを巻き込んで、
こんなにまでして。
さっきなっちゃんに言った言葉が蘇ってくる。
迷惑かけすぎてるのは俺も同じだ。
俺は失望するほうじゃない、されるほうだ。
そろそろ俺の涙腺も限界を迎え始めた。
俺のせいだ。
俺が弱かったから。
考えれば考えるほど、そんなことばかりが頭を占める。
そして俺は自然と打った。
樹にメールを打った。
アイツに助けを求めた。
『どうしよう。樹。』
すると返信なんてすぐに返ってきて。
『いまどこ?』
俺は瞬間で返した。
『病院。』
『分かった。すぐ行く。』
そうあいつからきたとき、
抑えていたものがプツリと切れた。
そして遂に涙が奥からどんどん出てくる。
樹が来てくれる。
樹が…
そんなとき、壱馬さんが苦し紛れの声で呟いた。
川村壱馬
…ハァハァハァた…ハァハァけて…
ハァハァハァハァハァハァいつ…ハァハァハァき。
「助けて。樹。」
next…

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