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第4話

♯3 俺にだけ ❤️‎🤍
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2026/02/24 07:51 更新
山中side
それに気づいたのは本当に些細なことだった。
笑いながら肩を叩いたり、ふざけて腕を引いたり、何気なく距離を詰める自然な近さ。
そういうのが、最近俺には向けられていない。
最初は気のせいだと思った。
だってそんなの、数えたこともない日常だったから。触れるとか、触れないとか、そんなことを意識して生きてきたわけじゃない。
でも、一度気づいてしまうと、それは視界の端にずっと残り続ける。
舜太が他のメンバーと笑い合いながら肩を寄せる。背中を軽く叩く。服の裾を引く。
どれも自然で、いつも通りで、特別な意味なんてないはずなのに。
…俺にはしてこない。
その違和感だけがどうしても胸に引っかかった。胸の奥にじわじわと熱が溜まっていく。名前の無い感情。




仕事終わり、控室の空気が緩んだ瞬間。メンバーがそれぞれ帰り始めてる中で、ふと、口が勝手に動いた。

山中 柔太朗
…最近、楽しそうだよね
軽い調子のつもりだった。ただの世間話みたいに、なんでもない一言として。

振り返った舜太は、少し首を傾げてから笑った。
曽野 舜太
普通やろ?
その笑顔が、やけに遠く感じた。
同じはずなのに、同じじゃない。
俺に向けられるそれと、他の誰かに向けられるそれの温度が、微妙に違う気がしてしまった。
曽野 舜太
なんかあった?
舜太が、少しだけ声を落として聞いてくる。
たぶん、俺の声が硬かったんだと思う。

こういう時の俺は、ほんとに面倒だ。
言いたいくせに、言えない。
気づいてほしいくせに、聞かれたら逃げる。
山中 柔太朗
別に
反射的にそう返す。でも舜太は引かなかった。
曽野 舜太
俺、なんかした?
その問いは、責めるでもなく、探るでもなく、ただ真っ直ぐだった。この目に見られると、逃げ道が無くなる。
山中 柔太朗
してないよ
視線を逸らしたまま答える。それでも終わらない。
曽野 舜太
じゃあ何なん
静かな声。詰め寄るでもなく、舜太はただそこに立ってるだけなのに、逃げ道が消えていく。
こいうい会話が苦手だ。特に自分の中を言葉にする作業は、どうしてこんなに苦しいんだろう。
でも、逃げたらこのまま終わってしまう気がした。
多分舜太はすぐ逃げてしまう俺の性格をわかってて、こんな風に逃げ道を塞いでくれてるんでしょ。優しいから。
喉の奥がキュッと締められる。
それでも絞り出す。
山中 柔太朗
……おれには
一度、息を吸って。
山中 柔太朗
…最近、触ってくれないよね
言葉にした瞬間、空気が止まった。

舜太が、ぽかんとした顔をする。

その反応に、後戻りできない焦りが込み上げて、続けてしまう。
山中 柔太朗
他の人には触るのに
喉の奥が強く締め付けられてるみたいだ。
少しの沈黙の後。
曽野 舜太
嫉妬?

軽く、冗談めかして言われる。
でも、すぐに否定した。
山中 柔太朗
違う
そう言いながらもう誤魔化せないってわかってた。自分にも、舜太にも。ずっと俺の胸に溜まってくこの熱い塊の正体を。
小さく落とす。
山中 柔太朗
……いやだった
視線は下げたまま。だって今舜太の顔を見たら涙が溢れそうだった。目頭が熱くなるのがわかる。
山中 柔太朗
…舜太が他の人にベタベタしてるの
山中 柔太朗
…俺には触ってくれないくせに
言い切った瞬間、耳の奥まで熱くなった。
こんな感情、見せたくなかった。
みっともない。

人間の嫉妬はすごく醜いと思う。

曽野side
ようやく腑に落ちた。じゅうの胸に引っかかってるものの正体が。
向かい合うと指先が僅かに震えているのが見える。無意識にその手を掴んでいた。
曽野 舜太
じゅうさ
できるだけ、柔らかく呼ぶ。驚かせたい訳じゃない。驚かせないように、逃げ出せないように。
曽野 舜太
前、雑誌のインタビューの時言っとったやん?
ずっと俯いたまま目の合わないじゅうの視線に合わせて屈む。
曽野 舜太
人前でベタベタされるのいややって
じゅうの目が揺れる。既に溢れ出そうなほど溜まっていた宝石が、みるみるうちに増えていく。
曽野 舜太
やからさ、人前ではあんまり触らんかったんよ
静かに、宥めるように。別に泣かせたいわけやない。
曽野 舜太
嫌がられたらいややから
じゅうが黙り込む。
その沈黙は拒絶やなくて、理解に近づく、そんな感じだった。
ポロッと涙が落ちる。綺麗やなって思った。みんな、好きな人は笑ってる顔が1番、なんて言うけど、俺は泣いてる顔も好きやな。そりゃ笑ってる顔が1番なのはもちろんやけど、こういう顔も、嘘がなくて、真っ直ぐで、綺麗。
山中 柔太郎
……ッヒク、たくさん、触れるのは、
ずっと黙ってたじゅうが口を開いた。しゃくりを上げて声がかすれてる。ごめんなぁ。苦しい思いさせて。やっぱりさっきの前言撤回しよう。笑ってる顔が1番や。
山中 柔太郎
…俺が、特別だからだと思ってた、グス
そんなふうに思わせていたんだなと思うと、胸がぎゅっとなる。嬉しくて、同時に申し訳ない。
でも、いつもに増して素直なじゅうに、思わず笑ってしまう。じゅうもつられて笑ってくれないかな。
曽野 舜太
じゃあさ、どうしてほしいん?
どうして欲しいかなんてわかってる。俺って意地悪やな、て自覚はある。

でも、じゅうは不器用やから。ちゃんと言葉にして欲しい。
ジャージの紐をしばらくこねくり回す。悩んでるんやな。いくらでも待つよ。
少しの沈黙の後、今にも消え入りそうな声で
山中 柔太朗
……ちょっとだけ、触ってほしい
その素直さに息が詰まりそうになる。
一歩近づく。
周りに誰もおらんのを確認して。
肩にほんの一瞬、指先を置いてすぐに離す。
曽野 舜太
これでええ?
自分でも思う。俺ってほんま意地悪やなって。
でも好きな子には意地悪したくなるんよ。
ぽかん、とフリーズしてるじゅうを見て、流石にやり過ぎたかな、と反省してちゃんと抱きしめようとした瞬間。

じゅうから掴んできた。
俺の袖を。
山中 柔太郎
…もっと、
その声はちゃんと言葉になっていた。
言葉をぎゅうぎゅうに詰めるより、行間を開けると読みやすいかな、と思ったので、いつもより改行多めにしてみました😊

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