「……っ、チッ」
ネット際、指先を掠めていったボールの感触に、内心で舌を打つ。
いつもなら、もっと正確に絞り込めているはずだ。
……さっきから集中しきれていないのが、自分でも分かる。
ブロックに跳ぶ瞬間も、リエーフの動きにアドバイスを飛ばしている時も。
視界の端に映る「音駒のベンチに座る彼女」の姿が、どうしようもなく頭の中に浮かんできてしまう。
(……俺は音駒の主将だ。)
自分に言い聞かせるように、強く拳を握る。
まだ、烏野との「ゴミ捨て場の決戦」だって叶っちゃいない。
ここで足を止めている暇なんてない。全国へ行くために、今は目の前の試合、目の前のバレーについてだけを考えなきゃいけない。
……のに。
思考をバレーに引き戻そうとすればするほど、彼女が木葉に向けていたあの混じりけのない笑顔が、胸の奥をチリチリと焼く。
主将として、一人の選手として、こんなことで足元が疎かになるなんて、最高に格好悪い。
「……っ、さあ一本!! 粘るぞ!!」
自分自身を鼓舞するように声を張り上げ、再びコートを駆ける。
なんとか第1セットを戦い抜き、次のタイムアウト。
呼吸を整えようとベンチに戻り、タオルを手に取った。
……その時だった。
「……黒尾くん、大丈夫……?」
隣から、ひどく心配そうな声がした。
見ると、あなたちゃんが不安そうに俺の顔を覗き込んでいる。
いつもなら「余裕だよ」なんて適当に茶化して笑えるはずなのに。
「……何が?」
絞り出した声は、自分でも驚くほど低くて、少しだけ震えていた。
ずっと俺を見てきた彼女の目は、俺が必死に隠している
「主将の仮面」の下の、不恰好な動揺を簡単に見抜いてしまうらしい。
「なんか、いつもと違う気がして……。無理、してない?」
真っ直ぐに向けられるその瞳。
その優しさが、今の俺には何よりも痛くて。
……そして、どうしようもなく愛おしかった。
(……なんで、気づいちゃうかな)
心の中で、力なく苦笑する。
ずっと俺のことを見てくれていたから。
俺が誰にも見せないように押し殺している、眉間の微かな力みも、呼吸の乱れも、彼女には全部バレてしまうんだ。
他の誰でもない、彼女にだけは見抜かれてもよかった。
けれど、今それを見抜いてくれる彼女は、もう俺の隣にはいないんだろ?
(……嬉しいよ。でもさ、それ、反則だろ)
自分を心配してくれるその声に、冷え切っていた胸の奥がじんわりと熱くなる。
その一方で、この優しさはもう「俺だけのもの」じゃないんだという事実が、重くのしかかってくる。
彼女がこうして俺を気遣うのは、もう恋心からじゃない。
木葉の彼女として、そして音駒の手伝いをするマネージャーとしての、純粋な善意。
俺がかつて、当たり前のように受け取っていたはずのその視線が、今はもう別の場所へ向かっている。
「……っ」
一瞬だけ、彼女を抱き寄せて「お前のせいだよ」と全部ぶちまけてしまいたい衝動に駆られる。
でも、そんなこと、できるはずもない。
「……あーあ。参ったね、ホント」
俺はわざとらしく、いつものように意地悪く口角を上げた。
けれど、彼女を見つめる瞳から、隠しきれない熱が漏れ出すのを止められなかった。
「……気づいちゃった? さすがあなたちゃん。……でも大丈夫。俺、音駒の主将だからさ」
そう言って、彼女の頭をポン、と軽く叩く。
手のひらに伝わる髪の柔らかさが、今の俺には毒のように甘くて苦い。
「心配すんな。おジョーさん。……お前の『元・好きな人』は、これくらいじゃ折れないよ」
冗談めかして言ったその言葉が、自分自身の胸を一番深く抉った。
今更、自分がどれだけズルくて、どれだけ彼女を求めていたのかを思い知らされる。
「……さあ、行くぞ。後半戦、キッチリ決めさせてもらうわ」
振り返らずにコートへ戻る。
背中に感じる彼女の視線を振り切るように、俺は再び「主将の顔」を作って、ネットの向こうで待ち構える木葉を、今度こそ真っ向から睨み据えた。
黒尾さんの心情…書くの楽しすぎて、なかなか進めない…
というか終わりが見えない笑
こうやってずるずる書いちゃうんですよねぇ……
片想いの心情って1番書くの楽しいですからね🥺
どうやったら綺麗に終わるか考え中です、、
思いつくまで、楽しみながら書いちゃいます!
長えよ!完結したんじゃねぇのかよ!
と思いますよね?もう少し待っててください!
多分!!終わると思う!、、多分!!、、












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。