街は、冬の寒さが訪れて、
カップルは手を繋ぎ歩いて行く。
暖かそうにマフラーを巻いて、
クリスマスソングがあちこちのお店から漏れて聞こえる。
私は1人、コンビニで買ったコーヒーを飲みながら、
ベンチに座ってボーッとその人並みを眺めていた。
すると、真隣のベンチにいたカップルが
別れ話をしていた。
女「もう無理。ほんと、ついていけないから別れて」
男「何で?全然今まで何も無かったじゃん」
女「あんたが気付かなかっただけで
私はずっと我慢してたのよ。もう限界。さよなら」
男「待ってっ………」
女の人が去っていった。
男の人は1人で、はぁっとため息をついてベンチに座る。
○○(うわっ……気まず……)
チラッと隣に目をやると、たまたま目が合ってしまった。
男「……なに?」
○○「なっ、何でもないです!!失礼します!!」
びっくりして、急いでその場を立ち去った。
数日後、私は新しく出来たコンビニで
働くことになっていた。
そこで、接客等指導するのに、他店舗から
社員の方が来てくれるらしい。
緊張しながら出勤した。
○○「おはようございます」
何人かから返事が来た。
そして、正社員と店長の紹介があった。
店長「店長の渡辺です。よろしくお願いします。
それと、他店舗からしばらくの間、
接客とか指導してくれる社員の方が、この方です」
社員「社員の目黒です。
短い間ですけど、よろしくお願いします」
○○「よろしくお願いします……
(あれ…店長、どっかで見たような…)」
一通り、基本のレジ打ちや商品棚の整理、
掃除など教えてもらって、休憩に入る。
○○(はぁ……なんだかんだ疲れたな)
渡辺「おつかれ〜」
○○「あ、店長お疲れ様で……」
パッと顔を見ると、やっぱり、この間ベンチで
居合わせた人だ。彼女に振られてた……
翔太「なに?」
○○「いえ…」
翔太「あ」
○○「え?」
翔太「思い出した、あの時の!」
○○「思い出しちゃいましたか…」
翔太「○○、お前絶対言うなよ!!」
○○「え!言えるわけないじゃないですか!!
逆に!!別に言いませんから大丈夫ですよ」
翔太「最悪だわ、あんな場面見られたやつと
同じ職場とか」
○○「そんな言い方しなくても良いじゃないですか!
私だって別に見たくて居たわけじゃないし!」
翔太「絶対絶対秘密だからな」
○○「分かってます!そんな威嚇しないで下さいよ。
怖いし!」
蓮「お疲れ様です」
○○・翔太「お疲れ様です」
蓮「なんかあったんですか?」
○○「いえ、何も。私そろそろ休憩終わるんで、
目黒さん、この椅子使ってください。
コンビニの休憩室って狭いですよね笑」
蓮「ありがとう。困ったら、休憩中でもいいから
呼んでね」
○○「ありがとうございます」
店長は何だかピリピリしちゃうけど、
目黒さんは優しくて良かった。
とりあえずその日一日は何とかやり過ごした。
帰り際、何かあった時に連絡するためにと、
店長と目黒さんとLINEの交換をした。
帰宅すると、目黒からLINEが来ていた。
蓮[今日は初日お疲れ様。大変だったと思うけど、
これからも辞めずに続けてくれると嬉しいです]
○○「目黒さん、ほんと優しいなー♡
それに比べて店長、ほんっとつんつんしてて
怖いんだから…」
○○[覚えることたくさんで大変ですが、
辞める気はないので大丈夫です😊
これからもよろしくお願いします]
○○「これでよしっと…あーでもマジで疲れたなー」
何日か経って、それぞれが仕事を覚えてきた頃。
シフト調整で、店長と2人になった。
翔太「○○さ、あの時何であそこにいたの?」
○○「え、私の方ですか?えーっと……」
翔太「ま、別に言いたくないならいいんだけど」
○○「なんですか、自分から聞いといて。
あの日、私、派遣切りになっちゃって。
仕事無くなっちゃって…1人でコーヒー飲んで
途方に暮れてたって感じです。
ほんと、たまたまそこにいただけで…」
翔太「そっか。○○も大変だったんだな」
○○「え、もっとバカにされるかと思いました」
翔太「仕事無くなったら生活大変じゃん。
バカにする要素ないでしょ、別に」
○○「あ…ありがとうございます」
翔太「でもここで会うとは思わなかったわ。
世間どんだけ狭いんだろうな。
大都市って言われてるココで」
○○「ほんとですよね〜。ところで店長?
今日2人じゃないですか」
翔太「うん?」
○○「なんか逆にっていうか…
ちょっとモヤモヤするんで、
突っ込んじゃって良いですか?」
翔太「え?何を?」
○○「店長なのに天然すぎません?
あの時のことですよ。あの彼女さん……」
翔太「あぁ……あー、ね。あれは、もうほんと、
あの時で終わった。あのまま一切連絡取れないし」
○○「店長はまだ…好きなんですか?その人のこと」
翔太「んー、なんだかんだ長くいたし。
引きずってはいるかな。ほら、男はさ、
こういう時引きずる生き物じゃん?笑」
○○「そうですか…それは、復縁する事を
応援するべきなのか、新しい出会いを
応援するべきなのか、どっちなんですかね?」
翔太「さぁ……俺にも分からん」
そう言って少し寂しげに笑った店長の顔を見て、
○○は少し、胸がチクッとした。
聞いたらマズかったかな…と少し後悔した。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!