夜に駆けるの元になった小説「タナトスの誘惑」「夜に溶ける」の内容を含みます、というかほぼそれです。読んでなくて、ネタバレが嫌な人はブラウザバック推奨
※死ネタ
【タナトスの誘惑】
マンションの階段を駆け上がる俺の体からは
汗が止めどなく噴き出していた。

……だけだった。
るかわくんから来た一通のLINE。
その四文字が何を意味しているのか
LINEが来た時、職場で仕事をしていた俺は
帰り支度をしたあと急いで自宅のあるマンションに向かった。
マンションの屋上、フェンスの外側に彼は居た。
日が沈み出した空と、るかわくんの姿が
フェンス越しに重なっていた。
飛び降り自殺を図ろうとする彼の姿を見たのは、実はこれで四回目だ。
世の中には二種類の人間がいるという。
この世界の人間のほとんどが前者だが、るかわくんは紛れもなく後者だった。
るかわくんは、最近このマンションに引っ越してきた。
今回のように、飛び降り自殺をしようとしていたところを、俺が止めたのが出会いだった。
所謂一目惚れというのだろうか、どこか儚げな表情をしている彼は、一瞬で俺の心を奪った。
それだけの期間付き合っていても、俺はひとつるかわくんに疑問に思うことがあった。
るかわくんは、自殺をしようとするとき、必ず俺に連絡を入れる。そして、俺が来るまでその場で待っている。
だから俺は、今夜もこうやってマンションの階段を駆け上がる。
フェンスの向こうに立つ、るかわくんの背中を見つけた。
フェンスを乗り越え、彼の手を取る
儚くて静かな声
俺はるかわくんの声も好きだった。
るかわくんには「死神」が見える。
図書館やネットで調べると、「タナトス」に支配される人間に稀に見られる症状なのだということがわかった。
そして、「死神」は「タナトス」に支配されている人間にしか見ることができない。
俺が死神を否定すると、るかわくんは決まって苦しそうな表情でそう答える。
前に一度、るかわくんに死神について尋ねたことがある。
俺は、
死神を見つめるるかわくんの顔が嫌いだった。
見とれているかのような、恋するような
そんな顔が、
嫌いだ。
るかわくんが俺の手を振り払おうとしたから、思わず力強く握ってしまった。
なんで、こんなにも俺はるかわくんのことを愛しているのに
君は俺だけを見てくれないんだろう
死神に嫉妬するなんて、馬鹿げていると心のどこかでは思っていたが、もうそんなことはどうでもよかった。
その時、るかわくんが顔を上げた。
にっこりと笑っていた。
ああ、そうか。
俺にとっての「死神さん」は、るかわくんだった。
手を繋いだ君と俺は、
夜空に向かって今、駆け出した。
「夜に溶ける」
どこまでも広がる夜空の下、
隣には、眠るように目を瞑ったツナカンくんがいる。
俺は、「死にたい」というツナカンくんの思いから生まれてきた、ツナカンくんの目にしか映らない幻想に過ぎない。
ツナカンくんは外から帰ってくる時、いつも疲れた顔をしていた。
でも俺と一緒にいる時は、たまに嬉しそうな顔を見せてくれた。
俺は、ツナカンくんのその表情が大好きだった。
でも、許してほしい。
ツナカンくんが「死にたい」と思ってくれなければ、俺は生まれなかった。
俺がツナカンくんの救いになれていたらいいなと思う。
感謝を込めて、彼の唇にキスをする。
やはりツナカンくんは目を瞑ったまま、動かない。
人間でいることは苦しいのかもしれないけれど、ツナカンくんと一緒なら大丈夫なのかもしれない。
沈むように溶けていくように、
二人だけの空が広がる夜に。
二人一緒なら大丈夫。
あの遠い夜空へと、どこまでも駆けて行ける。
この手を離さなければ、きっと。
「 繋いだ手を離さないでよ 」
繋いだ手の感触はそのままに、
この世界の焦燥から解放された俺たちは、
どこまでも続く夜へと溶け込んでいった。
夜に駆ける/YOASOBI
星野舞夜「タナトスの誘惑/夜に溶ける」
文字書きすぎちゃっ












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!