⚠️メンバーと住んでないです
それを目撃したのは、同棲を始めて数日目の
ことだった。その日のテレビ収録は夜遅くで、
すっかり帰りが遅くなったのだ。
恐らく寝ているであろう彼女を起こさない
ようにそーっと玄関の扉を閉めて、静かに
廊下を歩く。
気を緩めると大きく足音を立てて
しまいそうだから、ゆっくりと。
さっさとシャワーと着替えを済ませて
しまいたかったけれど、同棲したてのかわいい
彼女を疲れていても………否、疲れている
からこそ一目見ておきたくて寝室を覗いた。
そこで俺は目撃したのだ。間抜けな顔をした
大きなオオカミのぬいぐるみを抱きしめて眠る、
彼女の姿を。まるで宝物を守るかのように、
それはもう大事そうにぬいぐるみを抱きしめて
いる。
とりあえず、一応、恐れ多くも恋人と
いう称号を手にする許しをいただいた俺を
差し置いて、だ。
そこって普通、俺の居場所じゃない?
というか、今までこんなぬいぐるみいなかった
よね?ぽっと出のオオカミごときがデカイ面
しやがって。
俺に負けず劣らずの間抜け面のくせに。
非常に悔しいが、とりあえずずっとそんなこと
を考えていても埒が明かないので一旦撤退。
カラスも鼻で笑うレベルの短さでシャワーを
済ませ、寝室へと急ぐ。
ベッドの側へと辿り着くや否や、俺は
ぬいぐるみを彼女の腕から引っこ抜いた。
ぶん投げるのはさすがに気が引けて、
ベッドサイドに座らせておく。
後々恨まれて追いかけられたりとかしたら
嫌なので。
ぬいぐるみ一体分、もとい人一人分が空いた
べッドに身体をねじ込む。
すると、もぞもぞと身動ぎをして彼女が
目を開けた。起こしてしまったらしい。
遅くに帰ってきた彼氏はお役御免なのか、
腕の中から姿を消したオオカミの行方を彼女は
心配そうに問う。
渋々ベッドサイドに退けられているオオカミを
指し示すと彼女は頬を緩めて俺に抱きついた。
えっ。
ふにゃっとやさしく笑ったのもつかの間、
彼女は夢の世界へと言い逃げしてしまった。
細くて小さくて、頼りない腕で俺を抱き
しめている。
ぬいぐるみへの浅ましい嫉妬心なんてものは
彼女のかわいい寂しがりによってすっかり
消え失せてしまって、代わりに心はあたたかい
しあわせで満たされている。
既に彼女には骨抜きにされているというのに、
こんなにしあわせをもらってしまうなんて。
いつかしあわせで溺死しそうだな、なんて
らしくもない考えと共に瞼を閉じた。













編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。