第8話

縷縷たる命の果てに(srkw)※
74
2024/02/02 05:39
※注意※
・ファイナルファンタジー10(以下:FF10)とカリスマのクロスオーバー夢小説(?)です(なんだこれ)。
・FF10のストーリーの主軸に関わるネタバレがあります。
・未プレイでも理解できる程度の最低限の世界観の説明はしますが、最後まで内容を知っていたほうが楽しめると思います。
・人が死にます。
・バッドエンド(?)注意。
FF10の世界観
・物語の舞台は【スピラ】。
・スピラには【シン】という怪物が存在する。
・シンはとても強大で人命を奪い都市を破壊する。
・シンを倒すことができるのは【召喚士】のみである。
・召喚士は【召喚獣】を召喚することができる。
・召喚士は【ガード】(護衛のような存在)とともにスピラを旅し、最果ての地【ザナルカンド】を目指す。
・召喚士がシンを倒すためにはザナルカンドにて【究極召喚】という秘術を得て、使用する必要がある。
・ただし、究極召喚を使ってもシンはいずれ復活する。
・その上、究極召喚を使用した召喚士は例外なく死亡する。
・シンを倒した召喚士は【大召喚士】と呼ばれ、人々に尊敬されている。
設定
あなた
・20代 女
・召喚士
・猿川慧と両想い(公認)
 最果ての地ザナルカンドにてあなたたちを待っていたのはスピラで初めてシンを倒した偉大なる大召喚士【ユウナレスカ】だった。白く滑らかな髪と素肌、凛とした立ち姿にあなたたちの顔つきが引き締まる。

「はじめましてユウナレスカ様。〇〇(地名)より参りました、あなたと申します。」

あなたは挨拶をして一礼する。ユウナレスカは静かに語った。

「ようこそザナルカンドへおいでくださいました、あなた。長い旅路の中で多くを得て、多くを失ったことでしょう。あなた、顔をみせてください。……いいでしょう、あなたは究極召喚を授かるにふさわしい召喚士ですね。」

あなたたちは安堵の表情を浮かべた。

「あ、ありがとうございますユウナレスカ様。」

「では、選ぶのです。」
「何を……でしょうか……?」
「究極召喚の祈り子です。私の手で魂を取り出し、究極召喚獣の核とするのです。」

唖然とする一行。

「シンを倒すことができる唯一の力、それは絆の力。召喚士と強く結ばれた魂だけがシンを討ち滅ぼす光となるのです。」

あなたは助けを求めるかのように仲間の方を向く。

「……できません。誰にも祈り子にならないでほしい。死なないでほしいから。犠牲になるのは私だけでいい。」

選択を躊躇うあなたにふみやが言う。
「あなた、でもそれじゃシンを倒せないだろ。」
「セクシーじゃありませんが……ほ、他に方法がありませんから……。」
「旅の途中で何の手がかりも得られなかったもんね。」

しばらくの沈黙ののちに大瀬が口を開いた。

「……誰かが祈り子になる必要があるなら、このクソ吉を選んでください。」
「いいや!この奴隷を選んでください!祈り子なんて最高の負荷じゃないですかっ!」
「シンを倒せば秩序が保たれるのです……ならば私が。」
「祈り子にならないでほしい?……なら、なるしかねぇな‼」

猿川はそのままの勢いであなたの腕を掴んで力説した。
「絆でシンを倒せんだったら、俺が一番いいだろうがよ。お前と一番結ばれてるのは、俺だ。な?」

みんなはしぶしぶ頷いた。猿川はあなた頭を撫でてぼそっと呟いた。
「お前がいない世界にいる意味はねぇんだよ。」

みんなに見守られながら、猿川はユウナレスカの前に歩み出た。
「祈り子となる者が決まったようですね。」
「頼む。」

ユウナレスカが複雑な印を結び呪文を唱えると猿川の姿が徐々に変化していく。その姿はさながら凶暴な狼のようだった。だがその灰色の瞳は穏やかに輝いている。

「……すごくかっこいいよ。世界で一番かっこいいよ。」

泣きながらそう伝えるあなたを愛おしそうに見つめた後、猿川は彼女の胸の中に吸い込まれた。そして、シンと戦うために召喚されるのを待っている。

「ありがとうございますユウナレスカ様。」
「ええ、どういたしまして。ではお行きなさい召喚士あなたよ。【ナギ平原】にてシンを迎え撃つのです。」
「はい。行って参ります。」

あなた一行はガードを一人失った状態でザナルカンドを後にした。これから来た道を少し後戻りしてナギ平原へと向かう。ただ草地が広がっているだけの平原であればシンがどれだけ暴れても問題ない。歴代の大召喚士もこの場所でシンを待った。


「……。」
ナギ平原までの道中、一行は本当に静かだった。最低限必要な会話だけを交わし、ときどき理解が放つダジャレに絶妙な笑いを浮かべた。でも、そうでもしないと正気を保てないようだった。
 
ガガゼト山を越えると、目の前に平原が見えてきた。
一行は平原の端まで移動してシンを待った。あなたは空を見つめて体を震わせている。

「あなたさん、怖くなりましたか……?では僕のセクシーダンスを……。」
「いえ、大丈夫です天彦さん。武者震いですから。」

 数日後、想定より早くシンが姿をあらわした。あなたは力強い声でみんなに伝えた。

「皆さん、よろしくお願いします。これが、最後の戦いになります。」

あなたは祈りを捧げ、召喚する。魔法陣が現れ、爆音の咆哮と共に究極召喚獣が姿を見せる。





 三日三晩戦い続けてあなたたちはようやくシンを倒した。巨体が爆散して平原の谷底へ落ちていくのを見届けると、全員が草むらに倒れこんだ。

「こんな負荷、生まれて、初めて……。」
「また、死ねなかった、死ねなかったです……。」
「やり切ったテラくんもあなたも無欠、だよね……。」
「これで、ようやく、平和な世界に……なり、ますね。」
「ええ、皆さん本当にセクシーです。セクシー、ですよ。」
「はぁ……はぁ……。みんな、あり、がとう。」

「はは、あなたお疲れ。」


すると、究極召喚獣があなたの前にやってきた。ひとつだけ「がるる」と唸る。穏やかなまなざしを彼女に向けたのちに、その尾で頬をそっと撫でた。そして、ゆっくりを背を向けて谷底の方へ歩を進めると、突如黒い煙がその体に飛び込んでいった。



「………うっ!!」
あなたはそう声を漏らして苦しみ始めた。両手で胸を押さえ、体を縮こまらせて唸っている。すかさずみんなが駆け寄る。
「あなた!!」
「あなたさん!!」
「胸が……痛い……心臓が、引き裂かれる……ねぇ……お願い……私の側からいなくならないで……みんな……一人にしないで……。」
「ちょっと何言ってんのあなた!テラくんならここにいるでしょ!?」

声が少しずつ小さくなっていく。
嫌だ……行かない、で……

「依央利さん!早く回復魔法!」
「無理だよ理解くん。……この状態異常は魔法じゃ直せない……。」
しばらくしてあなたは息絶えた。

最期の方はうわごとで猿川の名前を呟いていた。
 次に気がついた時、俺は大海原に浮かんでいた。人間の時とも究極召喚獣の時ともちげぇ感覚がある。水面に姿を映してみてようやく気付いた。巨体を守る堅牢な鱗に禍々しく光る何個もの瞳。前に見た時より若干小さいがそれは紛れもないヤツだった。

 もしかして、俺、シンになった……のか。

 絶望したよな。必死で倒したのに、あいつも俺も肉体を失って。多くの物を犠牲にしてようやく得られた平和を俺の手で壊しちまうかもしれねぇ。

 
 くそっ……こうなったら何も破壊しないシンになってやる。

 














 あいつらが先代のシンを倒してから長いときが経ったような気がする。俺は相変わらずシンのままで、次の召喚士に殺られるのを待っていた。前よりも自我を保てなくなって、何人もの命を奪ったし何度も都市を壊したと思う。……思い出しただけで腹が立つ。もう腹がどこにあんのか分からねぇけどな。

……こんな風にあれこれ考えんのも久しぶりだった。それくらいしかできることがねぇから。昔はもっと自由で、楽しく旅をして……あいつがいつも側にいて……。

あいつ……?あいつ……って……?

漠然と考えてまたすぐに意識を手放した。






次に気がついた時に俺はナギ平原を見下ろしていた。……ようやくだ。
2人の男と一匹の究極召喚獣が見え、男たちの会話がうっすら聞こえてきた。

「これで最後だ。ジェクト、アーロン。よろしくね。」
「……最後だなんて言わないでくださいブラスカ様。あなたはビサイドに帰らなくてはいけないでしょう!」

その後に究極召喚獣が唸る。

「ああ、分かっているさ。無限の可能性にかけてみるよ。…………でも、万が一の時は僕の娘とジェクトの息子を頼んだよ。」
「……はい。」
「行こうか。」

なるほど召喚士の男と究極召喚獣の祈り子となったヤツには子供がいんのか。……きっと離れたところで親の帰りを待ってんだろうな、寂しい思いしてんだろうな。

あいつらも。(……だから、あいつらってなんだよ。)


そうこうしているうちに攻撃を仕掛けられた。


本能が戦えと言っているが、俺はそれに抗った。


徐々に体力が削られて、意識が遠のいていく。2度目の死が近づいてくるのがわかる。そうだ、これでいい。これでいいんだ。俺はこのまま【異界】(死後の世界)に行くだけだ。






 目が覚めると俺は花畑の中にいた。周りを虹色の光が舞っている。こんなの性に合わねぇよと思いながら体を起こすと、人間の頃の身体感覚に戻っていた。現実じゃありえねぇことだったから、俺が本当に死んじまったんだと理解するまで時間はかからなかった。

「ここが、異界か。」

「ちがうよ。異界はもう少し先です。」
聞きなじみのありすぎる声のする方を向くと、女が歩いてくんのが見えた。光のせいで顔がよく見えない。

「誰だ……?」

女は俺の真正面にしゃがみ込んで顔を寄せた。
それは、ずっと見たかったあなたの顔だった。

「あ……。」
間抜けな声が出た。

「久しぶり、ですね……。100年ぶりくらいかも。えっと、その、迎えに来ちゃいました。話したいこと、山ほどあるんです。」
そう言ってあいつは目を細めた。

あなたの声を聞いて俺は忘れていた記憶を取り戻した。たまらなく懐かしくて、馬鹿馬鹿しいくらい輝いていた。思わず目頭が熱くなる。

「……泣いてますか?」
「……泣いてねぇよ、バカ。」

俺はゆっくりと立ち上がった。

「待たせたな。」
「はい、みなさんも待ってました。」

あなたの奥にかつての仲間の姿が浮かんでは消えていく。

「俺、お前らのこと忘れてた。悪かった。」
「でも、思い出してくれた。」
「ああ。迎えに来てくれたから……。ありがとな。」
そう言ってあなたの体を強く抱きしめると、みんなの声が聞こえる。

「エクスタシーィィィ!」
「さ、猿!そういうことはどこかほかでやりなさい!」
「いいじゃん別に。二人とも超キラキラしてる。」
「今日の夜はごちそうにしましょう!猿ちゃんお帰り記念で。」

「………お帰りなさい、猿川さん。」
「慧、おかえり。お疲れさん。」

あなたが俺を見上げて言った。
「あの、私と一緒に逝っちゃ……ダメですよ……。」





「ぜってぇ、嫌。」




俺らの体は光となって消えた。

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