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第3話

649
2024/08/01 02:29
















 
久しぶりに見た北斗に、感情が溢れ出しそうになる。




 
樹
  ……  
北 斗
北 斗
  ………  





二人の間に、どうしようもない沈黙が流れ続けた。




 
樹
  ……その…体調は?  
北 斗
北 斗
  まぁ…まぁ…、です 
樹
  そっか…  





いつもの明るい感じで話しかけたいのに、全身が緊張して中々気まずい雰囲気から抜け出すことが出来ない。


北斗も北斗で、目線を至る所に向け、緊張している様子が丸分かりだった。




 
樹
  今なに弾いてたの  
北 斗
北 斗
  オフコースの…さよならって曲  
樹
  へぇ、初めて聞いたわ、笑  





無理矢理笑ってみたけど、北斗は俯いたまま。



なにか共通の話題は無いかと頭の中の引き出しを必死に開けては閉めて。



やっと見つけ出した話題が





 
樹
  ピアノ、きょもに教えてもらってから  
ハマったの?





これだった。




北斗は一瞬、驚いたような表情を俺に見せる。




「いや、まぁ…」なんて曖昧な返事をして目を泳がせるから





 
樹
  お前、好きな人当てられた時の  
反応かよ 笑





そう言ってみたら、




 
北 斗
北 斗
  ぇ、…その…  





動揺が返ってきてしまった。




その反応を見て、


“あぁ、図星なんだ。”


そう思った。




久しぶりの会話で北斗の好きな人がわかるなんて思ってもいなかった。




北斗と同じように、俺も動揺してしまう。




 
樹
  う、うそうそ、! 笑  
冗談だって 笑





気づいてないフリをするように、



いや、正しくは





俺に言い聞かせるように。




 
北 斗
北 斗
  そ…う、





北斗は安心したように肩の力を抜いた。




 
樹
  それで…いつから  
学校きてたの?
北 斗
北 斗
  え?えっと…最近かな  
樹
  へぇ…なんか…その、
保健室登校とか、そういうの?
北 斗
北 斗
  …そうだね  





これ以上この話題を広げるのも気が引けるし、また新しい話題を探す。




 
樹
  あ、そうだ  
樹
  昨日背でっけぇ同級生  
ここ入ってきたでしょ
樹
  あのー、ハーフの! 
北 斗
北 斗
  あー…うん、来たよ  
樹
  あれ俺の友達でさ  
樹
  急に入ってきて急に  
どっか行ったでしょ?
樹
  めっちゃフレンドリーなやつ  
なんだけど、悪いやつじゃないからね
樹
  超優しいやつだから  
心配しなくていいよ
北 斗
北 斗
  ふふ、笑 そうなんだ  
樹
  なんで笑ったんだよ!笑  
北 斗
北 斗
  いやぁ、一生懸命だなぁって、笑  
樹
  なんだよそれ 笑  





やっと笑ってくれたと安堵する俺。



それと同時に、さっきのを聞いてジェシーとも仲良くしてくれたらなーなんて。



きょもが好きだと分かって焦ったくせに、ジェシーとは仲良くしてほしいとも思う。



それは多分…ジェシーと北斗の間に恋愛感情が生まれていないからだろう。



別に、俺はきょもが嫌いなわけじゃない。


寧ろ親友として大好きだ。





“友情の好き” と “恋愛の好き” は大分意味が違う。



今の状態で言うと北斗は

きょもに対して “恋愛の好き” だし、



きっとこれからジェシーと北斗が仲良くなっても

“友情の好き” だと思う。




なぜそう言えるかは、北斗がきょもを好きだからなだけであって。根拠は少なすぎるけど…。



これから北斗がジェシーを好きになる可能性もあるし
ジェシーが北斗を好きになる可能性も充分にある。





でも今は、今の俺は、そんな事考える暇もなく。





とにかく北斗と楽しく話せたことが嬉しかった。





 
樹
  とりあえず、ジェシーと  
仲良くしてやって!
北 斗
北 斗
  うん…まぁ、また会ったらね?  
樹
  んは 笑 それもそうだな  





久しぶりの会話で場が和んできたというのに、時間は止まってくれない。



そろそろ教室へ帰らないといけない時間が来た。




 
樹
  …なあ、また来ていい?  
北 斗
北 斗
  ………うん。大体  
ずっとここに居るから
北 斗
北 斗
  でも、4限と放課後以外ね  
樹
  ん、わかった  





「じゃあまた」と言って、旧音楽室をあとにした。







旧校舎の長い廊下を俯いて歩く。




 
樹
  ………なんて言お、





代わりに行ってきてやるなんてジェシーに言ったからには、結果も報告しないといけない。



いけないって、そんな強制的な事じゃないけど…。



99%報告するとして、北斗の事をベラベラと正直に話していいのか?



いや、普通に友達だって言えばいいか。





そんなことを考えていると、俺が下を向いていたせいで走ってきた人とぶつかってしまった。





 
大 我
大 我
  うぉゎっ!ごめん!  
樹
  あれ、きょも?  
大 我
大 我
  樹なんでここにいんの!?  
樹
  まあ、色々と?  
大 我
大 我
  なにそれ 笑  
樹
  きょももなんでここ?  
大 我
大 我
  え?あー、俺も色々!笑  
大 我
大 我
  じゃ、行くわ!  





そう言って俺が来た道を珍しく走っていくきょも。


久しぶりに見たきょもの走りが何故か面白く見えて、遠くから少し揶揄った。





 
樹
  コケんなよー 笑  
大 我
大 我
  うるさいわ!笑  





笑いの余韻が残って、口角を上げたままきょもを見送っていると……




 
樹
  ………え、?  





きょもは旧音楽室へ躊躇無く入っていった。














 

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