【いつか目覚める時には】アニ
『わぁ、女の子!よかったぁ~!はじめまして、私、あなた!』
「………アニ」
駆け寄ってきた、ゆるいウェーブのかかったライトブラウンの髪をやや高いところで二つに結んだ、自分より少し小柄な少女に、アニは仕方なく名乗った。
『アニ!ねえねえ、ご飯一緒に食べない?』
「…遠慮しとく」
『遠慮しなくていいのに~』
「はあ」
『どこの訓練所?私はね~』
聞いてもいないのにペラペラと喋るあなたを、アニは返事もほとんどせず聞き流す。
『私、女の子の友達ってほとんどいなくて』
「あのさ」
『うん?』
「私、友達作りに来たんじゃないから」
『え、うん…あ、ごめんね?私、いつも喋りすぎて…』
「じゃあね。他あたって」
廊下にぽつんと残されて、あなたは首を傾げた。
***
気にしなくっていいよ、あのコいっつもそう。
ヒッチの言葉に、あなたはスープを飲みながら頷く。
『うーん、きっと、私が煩かったんだと思う』
「そんなことないって、ただあのコが根暗なだけ」
私にも全然だもん。
そういって、ヒッチがパンを齧る。
『そうかなあ…』
「そーそー。気にしないほうがいいって!あ、今度街を見に行こうよ~私、内地なんてはじめて!ホント頑張って良かったァ」
『行きたい!私も、こんなところはじめて!』
「そう?ねえやっぱ、内地にきたくて頑張ったワケ?」
『うん、そうだよ~。ほら、五年前、外側が大変だったでしょ?それにあわよくば、お金持ちに見初められたいから』
「…アンタ、思ったよりイイ性格してるね!」
『ヒッチに言われたくないよぉ~。私、女の子の友達欲しいのに、こんなだからいつもハブられるの』
ヒッチがくすくす笑う。
「分かってるのに直さないんだ?」
『女の子の友達は欲しいけどー』
「けど?」
『でも、何でもやってくれる男の子を手放してまで、じゃなくない?』
声を潜めてくすくす笑いをしながら言ったあなたに、いよいよヒッチが声を出して笑う。
「サイッコー!」
『ヒッチがそう言ってくれて良かったぁ』
「じゃあなに、男の子利用して憲兵団にのし上がったワケぇ?」
『それは違うよぉ。まあ、座学の教官にはちょっと媚び売ったけど…でも、私、他のコよりちゃんと頑張ったもん』
「へー。いいな、アンタと同じところで訓練したかったー」
『私も~…ホントに女友達いなかったの!おかげで今、女の子に飢えてる』
「いーよ、アタシが女友達一号じゃん?」
『嬉しい~!あと、アニも友達になってくれないかなぁ~やっぱ私みたいなのキライだと思う?』
「さあ」
***
アニはうんざりした顔をして、何度も自分を呼ぶあなたを振り返った。
銃を胸に抱えて駆け寄ってくるあなたを、周りの男が目で追っているのがわかる。
『やっと追いついたぁ。アニ、一緒に行ってもいい?』
「嫌って言ってもついてくるんでしょ」
『あたり』
「ほんと、鬱陶しいよあんた」
『よく言われる~』
ツインテールを揺らして首を横に倒して、えへへとあなたが笑った。
『でも直接言われるのははじめて!』
「はあ」
『あのねみてみて、この前ヒッチとお出かけした時にみつけたの。アニにあげる!』
「…指輪?いい、いらない」
『えー!絶対アニに似合うと思って買ってきたのに…私、指短いから指輪って似合わないの。アニ、貰ってよぅ』
「サイズ合わないかもしれないでしょ」
『試してみて!』
「…」
鬱陶しいよ、といいながら、パッとあなたの手から指輪をひったくって、半ばヤケで指を押し込む。
『あ、ほら!ピッタリじゃない?』
「…まあ、緩くはないけど?」
『あげる~!』
「いらないったら」
『うふふ、アニ、よく似合ってる』
はちみつ色の瞳がアニを見上げて、ふにゃりと緩んだ。
「…あんた、本当に面倒くさいよ」
『よく言われる~!』
「うざい」
『それもよく言われるぅ』
何を言ってもケラケラと笑うあなたに諦めたのか、アニは指輪をしたまままた歩き出した。
その後ろをトコトコとあなたが付いて行く。
『私ね、お兄ちゃんと、弟がいるの』
「へえ」
『お兄ちゃんは憲兵団になれなくてね、駐屯兵団に行くって言ってたんだけど、今はなんか、調査兵団にいるんだけど』
「…なんで、駐屯兵団やめたの」
『わかんなーい。でもリヴァイ兵士長っていうひとを尊敬してるんだって』
「…あんたの兄貴もバカなんだ」
『そーなの!…って、「も」ってなぁに、私もバカみたいじゃないの』
「バカにしかみえない」
『そんなにバカじゃないよ~』
それでね、とあなたが続ける。
『弟は、私のこと大嫌いなの!』
「…はあ」
『何がイヤなの?って訓練兵になる前日にきいてみたんだけど~、私の性格がイヤだって。ひどいと思わない?私も弟の性格キライだなぁ~…女の子を利用することしか考えてないの』
「…あんたは?」
『男の子を利用することしか考えてないの』
「どっちもどっちでしょ」
『でしょ~?じゃ、なくて!弟に嫌われる筋合いって、なくない?』
まあ、確かに。
アニは少し、頷いた。
途端にあなたの目が一層輝く。
『でしょ!』
ああ、失敗した。
アニはそう感じて、足を早めた。
『それでね、それでね…』
あなたの話は今日も終わりそうにない。
アニは軽くため息をついて、空を見上げた。
雲一つない、まるで壁外のような広い空だ…少し視線を下げれば、壁が目に入るけども。
『アニ、聞いてる?』
「はいはい、すごいね、いいね」
『聞いてないでしょ!!』
「あんた、そんなに毎日毎日喋ってて、疲れないの」
『ぜーんぜん!』
あなたがアニの隣まで駆け寄って、えへへと笑う。
『おしゃべりって、大好き!』
「へえ。私は嫌い」
『でも時々、私の話おもしろいでしょ?』
「寝言は寝ていえば?」
『うそ。アニ、ちょっとだけ笑うもん』
アニが足を止めて、あなたを睨みつけた。
「…気のせいでしょ。あんたの話、つまらないよ」
『それでもいいよ。でも、私は、アニが笑ったように見えると、とってもうれしい!』
「…気のせいでも?」
『うん!』
「ほんと、バカじゃないの」
『バカじゃないよー』
銃を横にして、頭の上に両腕で掲げてあなたがえへへーと笑う。
それをじろりと一瞥して、アニは足を早めた。
***
あんたといると、イライラする。
アニの言葉に、あなたは一瞬きょとんとしてから、またいつものようにへらっと笑った。
『そう?』
「そうだよ。言っても全然きかないし、バカだし」
『酷いなぁ』
「ヒッチといればいいでしょ」
あの子、あんたのこと気に入ってるでしょ。
そうアニに言われて、あなたは頷く。
『ヒッチは私のこと大好きよ』
「自分で言うんだ」
『だって言ってたもの。私もヒッチは好きよ。楽だし、あれでいて優しいし』
「尚更私のところにくる意味がわからないね。嫌がらせも程々にしてよ」
『アニ』
あなたに背を向けて歩きだそうとしたアニのジャケットの裾を、あなたが強く掴んだ。
『アニは、まるで怖がってるみたい』
大きく目を開いたアニが、あなたの手を振り払う。
「バカにしてる?」
『してない』
「私が、何を怖がってるっていうの」
睨みつけたアニの視線を散らすように、あなたのツインテールが揺れた。
くすくすと笑うあなたに、アニが思わず一歩右足を引く。
『私と仲良くなるのが、怖いんでしょう』
「…何?」
『近づかないで、って言いながら、アニはとっても不安そう』
「そんなことない。…私は戦士だもの」
『でもその前にアニは女の子よ』
あなたが小さな身体で、仁王立ちをして微笑む。
『アニは女の子なの』
「…関係ないでしょ」
『あるよ。私は、女の子のアニ、好きよ』
言葉に詰まったアニに、あなたが手を伸ばした。
あなたの綺麗な形の爪が、アニのジャケットを滑って、肩まで届く。
『アニは、隠し事がたくさんありそうね』
「…だったら?」
『ミステリアスな女の子って素敵だと思う!』
「…バカみたい」
アニが少し瞳を揺らして、呟いた。
「私に関わらないで。何回言えばわかるの?」
『バカだから、わからない』
「本当にイライラする。何も、知らないくせに…」
『そうよ。知らないから…知りたいの』
あなたが瞬きをして、アニの目を見つめる。
『知りたいのよ』
「やめて…どうして、私に、こだわるわけ?」
『…ねえ、私の秘密をひとつ教えてあげる』
「………なに?」
あなたが両腕でアニを抱きしめた。
逃れようとしたアニを落ち着けるように、アニの背をぽんぽんと叩く。
『ヒッチも好きだけど、アニのことはもっと、好き』
「…それが、秘密?」
強ばっていたアニの身体が、弛む。
「あんたの、秘密?」
『そう』
あなたのはみちつ色と、アニのアイスブルーが至近距離で交わる。
『私、アニのことが好きなの』
***
逃げて!!
そう叫び声が聞こえて、ミカサは横から飛び出してきた柔らかいものに突き飛ばされて倒れた。
「…っお前…!」
素早く起き上がったミカサは、ブレードを拾い直して自分に被さる女に向かって躊躇なく突き出した。
女型が目を見開く。
ガスを吹かす音がして、ブレードの切っ先を避けたあなたが空中へ飛び出した。
「お前も…女型の仲間か」
『あなた今、彼女を殺そうとしたの』
「答えろ…」
女型の側へ降り立ったあなたは、ミカサの殺気をいつものへらりとした笑みでかわして、軽やかに女型の手の近くまで歩み寄る。
『私は彼女の友達よ。たぶんね、そう。わかるの』
女型の指が僅かに動いた。
『あなたは…彼女の敵なのね』
あなたに向かってミカサのアンカーが飛ばされた。
あなたはそれを自分のアンカーをぶつけることで弾いて、もう片方のアンカーをミカサの後ろの壁に突き立てて飛ぶ。
女二人のブレードが激しい音を立てて交わった。
「お前もエレンの敵か」
『私は彼女の味方なだけ』
力で押し負けたあなたの頬に刃が当たり、スーッと傷が入る。
ち、と舌打ちをして、あなたがガスを目一杯吹かした。
ぐ、と力が増したあなたをミカサが睨み付ける。
『お願い、見逃してよ…あの子は、本当は』
「うるさい…お前も巨人になるの?お前もエレンを狙うの?」
『誰よ、それ?あなたのボーイフレンド?残念ながら興味ないわ』
大きな音を立てて、お互いに刃を弾く。
素早く距離を取ったあなたは、ちらりと女型を見上げた。
逃げて。
その口がそう動いて、はちみつ色の瞳がふにゃりと緩んだのを見て女型が弾かれたように動き出した。
動けないようにしたエレンの巨人を置いて、壁へ走る。
「逃がさない…!」
『行かせない!』
女型を追おうとしたミカサのアンカーが再び弾かれた。
この、と憎悪のこもった目を向け、ブレードの刃をあなたに向けて飛ばす。
咄嗟に顔を庇ったあなたの左の肩口を鋭い刃が切り裂いた。
続いてもう片方のブレードが、怯んで動きを止めたあなたの右太腿に刺さる。
それを横目に捉えながら、ミカサが刃を素早く付け替え、硬化した指先を突き立てて壁を登ろうとする女型を見上げる。
「速い…!」
逃げられる。
誰もがそう思ったが、その時金髪の男の子が飛び出そうとするミカサを呼び止めて、もう一体の巨人が再生したばかりの身体を動かすのをあなたはその目に捉えた。
あなたはまばたきをひとつして、それからサッと顔色を変える。
巨人の力で投げられたミカサが真っ直ぐに女型の元へ飛んでいこうとする。
『ッ…いやっ…!』
待って、とあなたも瞬時にその後を追って飛び出した。
風圧で血があなたの左頬に散る。
飛びながら自身に刺さったままだったミカサのブレードを引き抜き、多量の出血をものともせずそれを離れていく背中に向かって投擲した。
キィン、と金属音がして、弾かれた血塗れのブレードが地面へ向かう。
ミカサは僅かに切れた手の甲を、ちらりとも見ることさえない。
パン、と音がして、あなたの脇腹を地上から放たれた銃弾が貫いた。
『ぐぅ、ぁ…っ…』
脇腹を押さえて、あなたが目に見えて失速したが、そのはちみつ色の瞳は、壁の上、女型の真上に降り立ったミカサのシルエットをしっかり見据えている。
「………アニ、落ちて」
『やめて…っ!!』
壁を登るために食い込ませていた指先をすべて斬り落とされ、女型が落ちていく。
まるでスローモーションのように、血を流しながらも飛んできたあなたを振り返りながら、落ちていく。
激痛のためにうまく壁面に着地できず、女型に向かって飛ばしたアンカーも届かずに地面に落ちたあなたのもとに、憲兵団が飛んでこようとしていた。
あなたはそんなことには目もくれず女型を見つめたまま立ち上がろうとして、今度は後ろから左胸と腹を撃たれ、倒れる。
『ぉ、あ……女の子の、からだに…三発も、ひ、どい、なぁ…?』
巨体が地に落ちる寸前、女型がぐるりと身体を動かして、指先のない手を地面に倒れているあなたに向かって伸ばした。
それに瀕死とは思えない速さでアンカーを飛ばして、あなたが自らその手の中に収まる。
そのままあっという間に口へ放り込まれたあなたの姿と女型が地面に落ちた轟音に、憲兵団の中から幾つか悲鳴に似た声が上がった。
***
「…ほんと、最悪。どうなるかわかんないよ…」
蒸発が始まった女型の口の中で、うなじから肉を突き破ってきたアニがあなたの身体を抱き締めていた。
『…いいよ、それでも……なんか、痛くなくなってきた…から、へいき、かも』
「あんた、バカだね…」
『よく言われるー…ふふ……けほっ…』
「…ほんと、バカだよ…でも、ここまでバカだとは思わなかった…ほんと、何やってんの…」
こつんとおでこを合わせて、アニが涙声で呟いた。
『アニ、すきよ…でも、あなたのひみつの、規模、大きくてびっくりしちゃった。だから、だ
ったのね…納得。よく、ひとりでがんばった、ね…』
「…もうひとつ、ついでに秘密を教えてあげる…本当は…あんたのこと…そんなに嫌いじゃなかったよ…」
『ふふ…知ってる…』
そのまま、二人の身体を硬い水晶が包んだ。
【】











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。