結人くんと健三はお見送りに行く
食堂の中
今日はあいにく土砂降りだ
風も吹いている
その風の勢いで食卓に置かれていた紙が落ちた
落ちた紙を拾い上げる
その紙には「どうか投函してください」という
健三宛の達筆な字が書かれていた
今度は食卓の上にある紙に目を移す
特攻隊員のみんなが家族あてに書いた手紙だった
もちろん誠一のもあった、誠一のは
最後の一通は.......
その封筒の表には「恵美へ」と書いてあった
どくん。と心臓がはねた
耳の奥でどくどくどく、と聞こえるほどに
僕は無意識に誠一、と言っていた
誠一、誠一
声にならない声で呼び続ける
最後の最後まで僕に優しいひどい人
僕は気がつくと走り出していた
土砂降りなのに、傘も持たず
今までの人生で、こんな速く走ったことはない
空襲の時だって今より遅かった
普段運動をしていない僕は足が棒になって爪先がもつれて、何度も転んで怪我しても
その足を止めることはなかった
飛行場にたどり着いた
すると、左手さんの飛行機が目の前を通った
それから次々に、飛行機が目の前を通って行った
ーー瑠衣さん
ーー右手さん
ーー雷夏さん
最後の飛行機は.......
届くかは分からない、けど必死に叫んだ
エンジン音や雨の音、周りの歓声で、
僕の声がかき消される
それでも僕は必死に叫んだ
両手いっぱい振って
それに気づいたのかは分からないけど
驚いたように目を瞑ってから、
いつもの笑顔に戻った
そして操縦機を握っていた右手を外し
胸元から何か掴んで僕に投げた
わけも分からず、僕はそれを必死に掴んだ
僕が掴んだものは
ーーー美しく花開いた百合だった
甘い香りがふわりと鼻腔につく
涙が溢れる
誠一は最後に手を振り、眩しい笑顔のままで
通り過ぎて行った
ーーーその後、僕の身体はぐらりと傾いて
地面に倒れ込んだ
そこでそのまま、意識がとだえた











編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。