それでも、戻らないと。
自転車を押しながら、暗い道を歩き出す。
パンクしたタイヤが、不規則な音を立てる。
遠くに見える光だけが、かすかな目印だった。
あそこに戻らないと
みんなが待っている。
自転車を押す手に、もう一度力を込めた。
しばらく歩いていると
暗闇の向こうから、何かの気配がした。
何かが地面を打つ音が聞こえる。
目を凝らしても、何も見えない。
自分だけが見つけられている気がして
一気に恐怖が襲ってくる。
音は止まらない。
むしろ確実に近づいてくる。
それが足音と分かった瞬間、音が止まった。
足が地面に縫い付けられたみたいで動けない。
暗闇が固まって張りつめる。
低くかすれた息の音が聞こえて
闇が動いた。
いちばん聞きたかった声が
見慣れた姿と重なるように、目の前に現れた。
姿を見た瞬間、張りつめていたものが一気にほどけて
視界が滲んでいく。
與那城さんは
私たちの距離を埋めるように、ゆっくり歩み寄り
私の存在を確かめるように
両手でそっと私の肩をつかんだ。
うまく言葉にならない。
與那城さんの目が
私と同じくらい揺れている。
肩を引き寄せられ
胸の中にしまい込むみたいに、深く抱きしめられた。















編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!