第20話

解像度と解釈 ✍ knmc
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2025/05/14 09:51 更新
教室の真ん中で、
数人の男女が集まって恋バナをしている声が、
特に聞き耳を立てなくても聞こえてくる、放課後。

「やっぱ、好きな人のことは目で追っちゃうっすよね」

帰り支度をしながら聞こえてきたその言葉に、
片想い中の私は、心の中で頷きまくった。

と同時に、その言葉通り、つい、
好きな人に視線を向けてしまった。


(え?!)


同じクラスの、好きな人。剣持刀也。

たった今、
ものすごい勢いで目が合ってしまったその人だ。


私の席とは対角線の位置にある剣持の席。
真ん中で喋ってる人たちの、向こう側に居るのに。

人の隙間を縫うように、バチッと音が聞こえてきそうな
勢いで、目が合ったんだけど?!

(……剣持も、こっち見てた? いや、まさか、ね)

お互いビックリしてしまって、
しばらく見つめ合ってしまったけれど、
ほぼ同時に我に返り、スッと視線を戻した。

(いやいやいや、気のせいだよね、気のせい)

バクバクと稼働する心臓を一旦ぎゅうっと押さえ、
気のせいだと自分に言い聞かせて、帰り支度を進めて、
近くの席の友達に「バイバイ」と声をかけ、
私は帰路に着くべく席を立った。



昇降口を出て校門に向かって歩き出すと、
背後から人の近寄ってくる気配がした。


「……勘違いしないでよ」

そう声を掛けてきた、というかこれは、
喧嘩を売ってきたのかもしれないのは、

先程目の合ってしまった剣持だった。

「しないよ」

そう返事をしながらも歩みを止めずにいると、
剣持は隣に並んで歩き始めた。

剣持はたまに、
こうやって私と帰る日がある。

特に約束とかもなく、
ただ、時間が合ったから、って感じで。

期待してしまうと、そうでなかった時に悲しくなるから、
毎日期待はしないで歩いている。


「……しないの?」

……目が合ったこと、どっちにしたいの?

なんで、「するな」って言われたことを
「しない」って希望通り答えたのに、
残念そうな反応すんの?


勘違いなんて、するはずが無いのに。

剣持が、私のことなんて見てるはずない。
こんな、愛想もない、可愛げのない私のことを、

私と同じ理由で、目で追ってしまったなんて、

そんなこと、あるわけない。

たまたま目が合っただけ。
それくらい、分かってる。


「勘違いなんてしないから。
いちいち確認なんてしないで」

あ。
まずい。

改めて“勘違いするな”と言われたくない、
という感情が声に乗ってしまった。


「そうかよ。
……ならなんで目が合ったのか説明出来んの?」

私の態度は明らかによろしくなかった。
そりゃあ、喧嘩を売ったと捉えられ、
買われても致し方なし。

「はぁ。出来るよ。舐めないでくれる?」

隣を歩く剣持に、ちらりと視線を送ると、
かかって来いよ、と指先をちょいちょいっとされた。

(ムカつく……)

「伏見くんたちが話してたの、聞こえてたんでしょ。
んで、クラスの人の弱みのひとつでも握ってやろー
って、教室内を見渡したら、たまたま私と
目が合っちゃったんでしょ」

私がそう言うと、剣持はわざとらしく口に手を当て
驚いた素振りをみせた。
……振りなのが見え見えで、これまた腹の立つこと。

「あなたの名字、僕の解像度高いんじゃん!
いやぁ、その通り過ぎて驚きだぁ」

伊達に片想いはしてませんし。
剣持の言いそうなことくらい、なんとなくわかる。
……言い訳系は特に。

「舐めてごめんなさいは?」
「はあ? 謝んねぇよ?」
「なら、解像度高いの知らなくてごめんなさいは?」
「……それはさ、僕だってあなたの名字の解像度高いし、
お互い様じゃん」
「は?」


剣持が、私の解像度が高い、だと……?!
何を言ってんだ、こいつ。

そんな意味のわかんないことを言うのなら、
こちらも買って出てやるしかない。

「なら、……私はなんで剣持と目が合ったんだろうね?」

言い当てられるわけがない。
剣持が、私のことをわかってるはずがない。

「そんなの簡単じゃん」

剣持からも、舐めんなよ、
という気持ちが出てる返事がきたから、
私としてはとても驚いたのだけれど、

その威勢は長くは続かなかった。


「それは、あなたの名字が……、……、……」
「……私が?」

あまりに長い沈黙だったため、
合いの手を入れてみたけれど、

剣持の言葉が続いてくることはなかった。


挙句の果てには、歩く足を、

剣持は止めてしまった。


数歩先を歩いてしまった私も、一応止まるしかない。
振り向いて、剣持が追いついてくるのを待ってみたけど、

剣持は下を向いて、立ち止まったままだ。


「剣持?」

簡単だと言ってしまった手前、
負けを認めるのが悔しいのかな?
どうしたら謝らないで済むのか考えてるとか?

仕方がないから、私が来た道を数歩だけ戻って、
剣持の目の前まで近付いた。


距離が少しあったから気が付かなかったけど、
剣持は耳まで赤くして俯いていた。

「耳真っ赤だけど。どうかした?」

顔を覗き込むように私が声を掛けると、

やっと我に返ったようで、顔を上げ、
自身の手の甲で口元を覆って見せた。

「顔も赤いね」
「みっ、見んなっ」

なにか照れる要素があった……??

私の解像度の話だったよね?
剣持が低いくせにわかってるような口を利いたから、
この話になったんだよね?

「……なんで自爆してんの?」

「なんでって……、僕にも分かんねぇよ!」

完全に自爆してる、こいつ。
……一体なにがあったんだ?

「あなたの名字が僕を見た理由なんて、そんなの……、
僕のことが好きだからしかないだろ!!」

「え、いや、たまたまの可能性とか……あるよ?」

一応、平静を装って否定してみたけれど、
なんでバレてるんだと内心穏やかではない。

「ないよ! 僕の知ってるあなたの名字は!
単純で! すぐに引っかかるんだ! まんまと!
がっくんの誘導にもすんなりとな!」

「誘導……?」

聞けば、伏見くんはわざと教室内で大きめの声で、
“好きな人は目で追う”発言をしたらしい。

「僕は! あなたの名字の彼氏が僕じゃないのは
解釈不一致で! だから、あなたの名字の好きな奴って
だれなのかな、って言っただけなんだ!」

「はぁ?」

どうしよう、剣持の言ってることがわからない。

私の彼氏が剣持じゃないのは解釈不一致……?
私の好きな人がだれなのか……、知りたかったってこと??

「そしたらがっくんが、“確かめる良い方法があるっすよ”
って言うから……、やれるもんならやってよ、って、
僕は言っただけだけで……!」

「?」

「なのにあなたの名字が僕のこと見たから……!
それって僕のこと好きじゃん! ってことを
指摘したらここまでの話全部しなきゃいけなくなる
じゃん、って思ったら何も言えなく……なるだろ……」

「……つまり?」

「自爆だよ! 自爆したよ! 自分で掘って埋めた地雷を
自分で踏み抜きに行ったよ!!」

ずっとキレてる口調で、剣持は喋り続けているけれど、
剣持の解像度の高い私は、これが“照れ隠し”であることを
当然見抜いているのである。

可愛いじゃん、剣持。
……私のこと、好きなんだ、剣持。


「私の好きな人、分かったんだ?」

私からの問いかけに、顔を上げた剣持と目が合う。

今度はびっくりした瞳じゃなくて、
少し潤んで、真剣で、でも柔らかい。
そんな視線を、私からも飛ばしていたのかもしれない。

「解釈一致してて、安心したから……、
あなたの名字も、……僕と同じ解釈でいてよね」

ストレートに言ってこないところも、
剣持らしくて笑ってしまう。


「剣持のその可愛い顔、私以外に見せるとか解釈不一致
だから。剣持も私に合わせてね」

私も素直に好きだとは言えず、
それでも伝わる言い方を模索した。

「可愛いとか言うな! 気持ち悪い」
「は? なに? 合わせないの?」

「合わせるに決まってんだろ、バーカバーカ」

羞恥が限界突破したのだろうか。
剣持は子どものように走り去っていった。



・━━━ ℯ𝓃𝒹 ━━━・
短編がどんどん長くなっている……。
3000文字越えてしまいました。すんません!

素直じゃない剣持くんを書きました。
一番書きたかったシーンは、
手の甲を口に当てる剣持くんです。
見るな、って言わせたい。見たい。
背景は夕焼けでお願いします。

「好き」って言わないんだよ、この子!!
そしたら何故か夢主ちゃんも言わない子になっちゃった!
好き同士のくせに!
お互い「好き」って言いやしない!
なんでよ!(書いてんの私だwww)

剣持くんは、二手三手先まで考えながら話すと思うの。
だからこそ、これから自分の言おうとしてることを
先に気付いて、直ぐに修正できないと一旦止まるかな、と。
このままでは自爆してしまう、と気付いたところで、
修正きかないじゃん、くそが!
ってなるまでが剣持くんだと思ってます。


結構いつも思いつきで流れるままに書くのですが、
剣持くんのお話の時は頭の使い方が変わる気がします。
だから時間がかかる……。
何度書き直したかわかんないくらい書き直しました。

なんとか形になって良かった……。

決めてたのが「好きな人の話から目が合う」
→「バーカバーカ」で去る

だけだったのも悪い。うん。もう少し考えろ、私。
考えてから書き始めろ、私。

いい教訓にしていきたいと思います。


剣持くんの解像度、上げたい。
おえ森楽しかったよ!

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