そこからは特に何もなく何気ない日常の繰り返し。
図書委員の仕事は単調だった。
返却された本を並べ、貸出カードを確認し、静かに過ごさない生徒がいれば注意する。
それだけのことを、週に何度も繰り返す。
僕にとっては理想的な役割だった。
人と深く関わらずに済むし、本に囲まれていられる。
それ以上の理由は、必要なかった。
彼女が図書委員になった理由を、僕は知らない。
聞いたこともないし、聞くつもりもなかった。
ただ、彼女は毎回、決まった時間に現れた。
放課後、校内が少しずつ静かになり始める頃。
かっこよくいってるが、
本当は委員会が始まる時間ってだけだ。
「もー!なんでおいていくの」
僕はそれに無言を返す。
同じ椅子、同じ机、同じ距離。
「今日、何してたの?」
返却台の前で本を並べていると、背後から声がする。
振り向かなくても、誰の声かは分かるようになっていた。
「委員会」
「それは知ってる」
彼女はそう言って、軽く笑う。
会話としては成立していないのに、それ以上の言葉は求めてこなかった。
彼女は本を一冊手に取り、ぱらぱらとめくる。
表紙も見ず、あらすじも読まず、ただ指先で紙をなぞるように。
「それ、面白い?」
「分からない。まだ読んでない!!」
「そう」
「あ!君ってさ、黙ってると本みたいだよね!」
「え意味分からないんですけど??
ていうか話が飛躍しすぎだよ」
「静かで、閉じてて、勝手に中身を想像される感じ!」
そう言って、彼女は本を棚に戻す。
結局、その本を借りることはなかった。
図書室の窓から入る光は、日ごとに少しずつ柔らかくなる。
春が近づいているのが、分かる。
「春って好き?」
ある日、唐突に聞かれた。
「別に」
「そっか」
彼女はそれ以上何も言わず、椅子に座って足を揺らした。
その様子を、なぜか目で追ってしまう。
時間は、穏やかに、同じ速度で流れていく。
変わらないことが、当たり前みたいに。












編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。