第11話

1-10 虚像
8
2025/12/28 00:00 更新
みんなー買ってきたよー!
いつになく満面の笑みで境は戻ってきた。
おかえり〜何買ってきたの?
唐揚げと焼きそばとポテトと…なんか色々
へぇ〜美味しそう
境は袋の中身を出して見せる。
好きなの取っていって〜
あ!りんご飴!
幸さんが頼んだんでしょ…
…あれ?
境はりんご飴を幸に手渡す。
屋烏はそれをいかにも不服だというように睨んだ。
屋烏
呑気だなお前ら…
屋烏
さっき出場者がいないだとか何とかで騒いでたぞ
うわ、大変そう
屋烏
絶対思ってないだろ
ため息をついてから、屋烏は足を組んで椅子にもたれる。
騒がれている割には、滞りなく事が進んでいるように見えるのだが。
対応が速いですねぇ
ですねー
そういうことなのだろう。

おもむろに燕は身を乗り出す。
何食べてるんですかー?
唐揚げです。めっちゃ美味しい
わ、本当だ。すごい良い匂い
…1個食べます?
いいんですか?じゃあ1個いただきますね
何ともまあ微笑ましい光景である。

しかしぼーっと左隣を見ていれば、右隣から話が振られてくる。
かいくん、ちょっと遅かったよね〜
何かあったの?
んー…?知り合いと鉢合わせたんだよね
そっか
幸にしては素っ気ない返しだった。

彼女は膝の上で拳を握った。
…ねぇかいくん
なあに?
今何してるの?
境は軽く微笑む。
幸の視線を辿れば、そこにあるのは試合___というより、それが行われているはずの空間そのものだろうか。
彼女は、いつもの燦々とした瞳ではなく、何か不気味なものを見るような目をしていた。
…なんでもない
境にはありふれた笑みと観衆の大声によって、どこか異質な空気は打ち消されているようだ。
やってみたら?
…え
『遮断』は分かるんだもんね?
睨むように、揶揄うように、細められた青い目を、幸は睨み返す。
やめとく
そっか〜
境は頬杖をついて、前へ向き直った。
やっぱ私の勘違いかも〜ごめんねかいくん
幸は膝の上の握り拳を開いて、取ってつけたように笑う。
ねー焼きそばちょうだい〜
はーいどうぞ
幸はそれを受け取ると、割り箸を割って食べ始める。
…付け合わせの紅生姜を除いて。
屋烏
…幸、お前紅生姜嫌いなのか
うっ…そんな言うならくうちゃんが食べてよ
屋烏
…しゃーねぇな
屋烏さんは甘いね〜
屋烏
お前に言われたくはねぇよ!
屋烏は境に対して声を荒らげながら、紅生姜を受け取る。
わーいありがとう〜
幸は紅生姜の消えた焼きそばに、2つの意味で目を輝かせた。












灰色のポニーテールが揺れる。
彼女の脳裏に浮かぶ映像はプツリと途切れた。
大胆だねぇ…
青く光る瞳と“誰もいない試合”に対して沸く観衆。
『視覚』は幸の瞳越しにそれを見ていた。
ここまでの大人数にそんなことするんだね
疲れないのかな?
その問いかけに返事は返されなかった。
…まぁいいか。あの先輩が何をしようが、私にはそれをどうこうする権利は無いからね
先程の問いには答えなかったのに、今度は鋭い瞳を返す隣に、彼女は困ったように微笑みかける。
私には・・・だよ。睨まないでよ先輩

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