いつになく満面の笑みで境は戻ってきた。
境は袋の中身を出して見せる。
境はりんご飴を幸に手渡す。
屋烏はそれをいかにも不服だというように睨んだ。
ため息をついてから、屋烏は足を組んで椅子にもたれる。
騒がれている割には、滞りなく事が進んでいるように見えるのだが。
そういうことなのだろう。
おもむろに燕は身を乗り出す。
何ともまあ微笑ましい光景である。
しかしぼーっと左隣を見ていれば、右隣から話が振られてくる。
幸にしては素っ気ない返しだった。
彼女は膝の上で拳を握った。
境は軽く微笑む。
幸の視線を辿れば、そこにあるのは試合___というより、それが行われているはずの空間そのものだろうか。
彼女は、いつもの燦々とした瞳ではなく、何か不気味なものを見るような目をしていた。
境にはありふれた笑みと観衆の大声によって、どこか異質な空気は打ち消されているようだ。
睨むように、揶揄うように、細められた青い目を、幸は睨み返す。
境は頬杖をついて、前へ向き直った。
幸は膝の上の握り拳を開いて、取ってつけたように笑う。
幸はそれを受け取ると、割り箸を割って食べ始める。
…付け合わせの紅生姜を除いて。
屋烏は境に対して声を荒らげながら、紅生姜を受け取る。
幸は紅生姜の消えた焼きそばに、2つの意味で目を輝かせた。
灰色のポニーテールが揺れる。
彼女の脳裏に浮かぶ映像はプツリと途切れた。
青く光る瞳と“誰もいない試合”に対して沸く観衆。
『視覚』は幸の瞳越しにそれを見ていた。
その問いかけに返事は返されなかった。
先程の問いには答えなかったのに、今度は鋭い瞳を返す隣に、彼女は困ったように微笑みかける。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。