第10話

1-9 空
8
2025/12/21 00:00 更新


円形回廊に等間隔で並ぶドアの前を、誰かが歩いていく。
チッ……

彼は携帯を見ると、小さく舌打ちをする。

その携帯に写っているのは、現在行われている試合のライブ映像だ。

彼は携帯をポケットにしまい、先程よりも速度を上げて歩き出した。





やがて1つのドアの前で立ち止まる。
彼は3回、速くノックをしてからドアを開いた。
剣闘士
? 誰ですか?
中にいた数人の剣闘士は彼を振り返る。
どうやら準備中だったらしい。
少し邪魔するよ。君たちは“残光”の人間で間違い無いよね?
剣闘士
はい…そうですが。何の用で
馴れ馴れしい彼に、剣闘士は怪しむような顔をした。
それなら良かった。じゃあ君たちは俺が誰かもすぐ分かるね?
そう言って彼はフードを取る。












不敵な笑みを浮かべ、細められた彼の目は紺青だった。




剣闘士
っ!なんで
“残光”の規律を忘れたのかい?
箝口令が敷かれていることぐらい誰でも知っているはずだよ
剣闘士
(だから何だ?僕らがしたことなんて関係無いじゃないか)
古参の者であれば知っているが、箝口令が敷かれたのはトップが代わってからだ。

しかし実力主義の組織で、その『夢見』がトップに立てる理由は何だ?

誰だって思う。そして、それに答えが出る事は無い。














なぜなら、彼がその事を誰かに見せることも、話すことも極力しないから。









規律違反者を憎む人間なんてごまんといる。だからなんだよ、分かってる?



          【輪廻】



放たれたその一言を皮切りに、剣闘士たちの体がホログラムのように歪む。

境は相変わらずの笑みを湛えていた。









消えていく彼らの目に、空色に光る瞳が映る。

真夏の雲一つ無い青空のような、眩しい光だった。













…あははっ、嘘つきだね
無邪気な笑い声と共に真っ黒なポニーテールが揺れる。
彼女がもたれているドアの内側から、くぐもった声が聞こえた気がした。

「___誰が嘘つきだって〜?開けて?」

彼女はその声に耳を貸さず、目を閉じる。
その視界に流れるおびただしい量の光景の中から1つを選び取った。
その写真のような光景は、ノイズがかかっていて何が映されているのか分からない。
…綺麗
到底似合わない一言だけ言うと、目を開け、ドアから離れる。
…ちょっと〜、人が出ようとしてるんだから閉じ込めないでよ〜…
あはは、ごめんごめん先輩
笑い事じゃないって…ん、今って夜な訳ないよね?
境は黒いポニーテールに目を向けて言う。
うん?黒にしてただけだよ
途端に髪色が曇り空のような灰色に変わる。
あぁ、今曇りなんだ
そうっぽいね
いつも思うけど不思議な髪してるよね
仕方ないでしょそういうものなんだし…
というか、なんでここにいるの?
暇つぶしだよ、ここにはよく来る
そうなんだね
それだけ交わすと、2人は廊下を歩き出す。
雨降らないといいな
「言っておくとすれば、
 ノイズ、青空と曇り空、そして真夏とフィクション」

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