翌朝の撮影現場。
あなたは書類を抱えたまま、深呼吸をひとつ。
昨日の夜の、あの温度。
触れたあとの指先の震え。
ゆっくりおでこを合わせてきた呼吸の近さ。
全部が、まだ体に残ってる。
振り返る前から分かる声。
でも——振り返った瞬間、もっと分かってしまう。
いつもより距離が近い。
マークはコーヒーを持った手を、ほぼ“差し出すみたいに”あなたの前に置いた。
隣でスタッフの子が小声で囁く。
「ねえ……やっぱマーク、あなたさんにだけ優しくない?」
「最近距離、近くない?」
慌てて目をそらすと、マークは小さく笑っていた。
「気にしないでいいよ」というみたいに。
けどその笑顔が逆に心臓に悪い。
ダンスシーンのカメラテスト。
マークは反対側の立ち位置なのに、視線を向けると——
ちゃんと視線が返ってくる。
目が合った瞬間、マークの目尻がふっと下がる。
ほんの一拍だけ、完全に“素のマーク”が出る。
その瞬間が、あなたの胸をきゅっと締めつけた。
「あなたさん、ちょっと頬赤くない?」
メイクさんが心配そうに覗き込む。
飲み物をとりに給水スペースへ行くと、
背後からそっと影が重なった。
マークの声が低い。
至近距離。
周りに誰もいないことを確認して、マークが声を落とす。
あなた の心臓は爆発寸前。
マークの唇が、あなたの耳の近くをかすめる距離になった瞬間——
「マークー!次の準備入りますー!」
スタッフの声。
マークはふっと笑い、軽くウインクした。
胸の奥にじわっと熱が広がっていく。
マークがふと、あなたの腕に触れてくる。
あなた の脈の速さに気づいたのか、マークは優しく笑った。
あなたはうつむいたまま、小さく息を吸った。
マークの手が、そっとしおりの指先を包んだ。
――仕事中なのに。
――周りに人がいるのに。
それでも、もう止められなかった。
心が勝手に、彼のほうへ傾いてしまう。
そしてマークもまた、
ただ静かに、でも確かに。
もうあなたを手放す気がないことを
隠すつもりがなかった。














編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。