第57話

Episode 55 - 「“溢れる想い”」
226
2025/12/02 16:30 更新
翌朝の撮影現場。
あなたは書類を抱えたまま、深呼吸をひとつ。
(なまえ)
あなた
 だめ…落ち着かなきゃ…
でも、昨日のマークの“キスしていい?”が頭から離れない……
昨日の夜の、あの温度。
触れたあとの指先の震え。
ゆっくりおでこを合わせてきた呼吸の近さ。

全部が、まだ体に残ってる。
マーク
マーク
あなた 、おはよう。
振り返る前から分かる声。
でも——振り返った瞬間、もっと分かってしまう。

いつもより距離が近い。

マークはコーヒーを持った手を、ほぼ“差し出すみたいに”あなたの前に置いた。
マーク
マーク
昨日、あんまり寝れてないでしょ。
飲む?
(なまえ)
あなた
 なんで分かるの……?
(なまえ)
あなた
え、ありがとう……
隣でスタッフの子が小声で囁く。

「ねえ……やっぱマーク、あなたさんにだけ優しくない?」

「最近距離、近くない?」
(なまえ)
あなた
 聞こえてる……!
慌てて目をそらすと、マークは小さく笑っていた。
「気にしないでいいよ」というみたいに。

けどその笑顔が逆に心臓に悪い。
ダンスシーンのカメラテスト。

マークは反対側の立ち位置なのに、視線を向けると——
ちゃんと視線が返ってくる。
(なまえ)
あなた
 うそ……なんで今見てくるの……
目が合った瞬間、マークの目尻がふっと下がる。

ほんの一拍だけ、完全に“素のマーク”が出る。
その瞬間が、あなたの胸をきゅっと締めつけた。
「あなたさん、ちょっと頬赤くない?」
メイクさんが心配そうに覗き込む。
(なまえ)
あなた
だ、大丈夫です……!
(なまえ)
あなた
 赤いのは体力じゃなくて……気持ち……
飲み物をとりに給水スペースへ行くと、
背後からそっと影が重なった。
マーク
マーク
……さっき、目そらしたでしょ。
マークの声が低い。
(なまえ)
あなた
えっ、そ、そんなこと……
マーク
マーク
俺のこと、見れないの?
至近距離。
周りに誰もいないことを確認して、マークが声を落とす。
マーク
マーク
昨日の続き……考えてた?
あなた の心臓は爆発寸前。
(なまえ)
あなた
べ、別に……!
マーク
マーク
ほんと?
マークの唇が、あなたの耳の近くをかすめる距離になった瞬間——


「マークー!次の準備入りますー!」

スタッフの声。

マークはふっと笑い、軽くウインクした。
マーク
マーク
逃げてもいいけど……俺、ちゃんと追うよ。
(なまえ)
あなた
 っ……!!
仕事なのに、仕事なのに……どうしてこんな……
胸の奥にじわっと熱が広がっていく。
マークがふと、あなたの腕に触れてくる。
マーク
マーク
今日ずっとさ、あなたのこと考えてた
(なまえ)
あなた
えっ……!
マーク
マーク
俺だけじゃないと思うけど。
あなた の脈の速さに気づいたのか、マークは優しく笑った。
マーク
マーク
大丈夫。
ゆっくりでいいから。
(なまえ)
あなた
 ……だめだ。
好きが溢れてるの、隠せない……
あなたはうつむいたまま、小さく息を吸った。

マークの手が、そっとしおりの指先を包んだ。

――仕事中なのに。
――周りに人がいるのに。

それでも、もう止められなかった。

心が勝手に、彼のほうへ傾いてしまう。

そしてマークもまた、
ただ静かに、でも確かに。

もうあなたを手放す気がないことを
隠すつもりがなかった。

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