異変を感じたのは、宿屋を通りかかった時だ。
いつもよりもご婦人方の噂話が多いな、と感じた。それだけだと思っていたのだが…
そうはいかなかったようだ。
数日前のこと…おれたちの前に、二人の兄弟がやって来たのだ。
フィラズが勇者であった事実に変わりがあるわけではないので、結局俺が勇者であることは明かさずに、そのまま旅に出たわけなのだが…
この兄弟は、いったいどこから情報を入手したのだろうか…
そのまま走り去ってしまう少年。
ロウの静止の声は届かなかった。
…知ってた。いつかは真実を明かすべき時が来るんだって。
おどおどとした表情…しかし、フィラズは覚悟を決めている…それが伝わって来た。
世間に真実を知らせる…俺はそれからずっと逃げていた。
別に、俺が悪いことをしてそれがバレるわけでもなくて…ただ、俺のやってることの正しさを、世間に知らしめるってだけ。
だけど、後ろめたかったんだ。
正義とも悪とも気にされず、縁の下の力持ちとして民衆を助けている自分に…自惚れていた。
そんな俺が、いざ影のない光だけの世界に差し出されたら、どこか駄目なところやいけないところが見つけられて、批判されるんじゃないかって…そんな…
俺の思考を遮ったのは、ファイルの声だった。
俺の心のうちを、見透かしているようだった。
俺は頷いて、ロウ、そしてフィラズの方を見た。
人々は噂をして、雑談をして、ざわめいて…
フィラズの声に、一瞬で人々が静かになる。
そこには、俺たちが慰めた弱々しい少年はおらず、人々の先頭となって立ち上がる、勇者の姿があった。
視線が一斉に、俺へと突き刺さった。












編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!