第45話

逃れるな
4
2026/02/22 05:00 更新
 異変を感じたのは、宿屋を通りかかった時だ。
 いつもよりもご婦人方の噂話が多いな、と感じた。それだけだと思っていたのだが…
 そうはいかなかったようだ。
 数日前のこと…おれたちの前に、二人の兄弟がやって来たのだ。
子供達
お兄さんが勇者って…ホント?
ロウ
!?
 フィラズが勇者であった事実に変わりがあるわけではないので、結局俺が勇者であることは明かさずに、そのまま旅に出たわけなのだが…
 この兄弟は、いったいどこから情報を入手したのだろうか…
子供達
黙ってるってことは…本当なんだね!?
 そのまま走り去ってしまう少年。
ロウ
ちょ、まっ…!
 ロウの静止の声は届かなかった。
 …知ってた。いつかは真実を明かすべき時が来るんだって。
フィラズ
ヴィアル…
ヴィアル
フィラズ
真実を明かす覚悟は、出来たか?
 おどおどとした表情…しかし、フィラズは覚悟を決めている…それが伝わって来た。

 世間に真実を知らせる…俺はそれからずっと逃げていた。
 別に、俺が悪いことをしてそれがバレるわけでもなくて…ただ、俺のやってることの正しさを、世間に知らしめるってだけ。

 だけど、後ろめたかったんだ。
 正義とも悪とも気にされず、縁の下の力持ちとして民衆を助けている自分に…自惚れていた。
 そんな俺が、いざ影のない光だけの世界に差し出されたら、どこか駄目なところやいけないところが見つけられて、批判されるんじゃないかって…そんな…
ファイル
ヴィアル
 俺の思考を遮ったのは、ファイルの声だった。
ファイル
お前は正しいよ。例え間違ってても、俺が責任取るから、さ
 俺の心のうちを、見透かしているようだった。
ヴィアル
…ありがとな
 俺は頷いて、ロウ、そしてフィラズの方を見た。
ヴィアル
場所は用意できるんだよな?
フィラズ
あぁ、俺が使っていた広場でやれば良い
ヴィアル
…よし。人集めてくれ
モブ
勇者が二人いただって?
モブ
なんと…
モブ
勇者の家計が割れていたってことでしょうか
モブ
でもそれだと…
 人々は噂をして、雑談をして、ざわめいて…
フィラズ
皆のもの!
 フィラズの声に、一瞬で人々が静かになる。
 そこには、俺たちが慰めた弱々しい少年はおらず、人々の先頭となって立ち上がる、勇者⚫︎ ⚫︎の姿があった。
フィラズ
我々は四神よんしんや、勇者アスペルの歴史を追い、日々厄災討伐のために奮闘して来た…その中で!
フィラズ
アスペルと対になる新たな勇者の存在を知ったのだ
モブ
アスペルと…対!?
モブ
新たな勇者って…そんな簡単に増えるものなの!?
モブ
何で聖典には載ってないんだ
フィラズ
平和の神、フェアルア。彼女とアスペルの血を引くのが…我々ナーズル家、そして!
ヴィアル
…俺たち、ウェザル家だ
 視線が一斉に、俺へと突き刺さった。

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