私は物心ついたときには父と母に嫌われていた。
出来損ない。役立たず。
よくそう呼ばれた。
使用人には避けられた。
ひとりぼっちで家の中に閉じ込められる。
まるで大きな監獄だった。
なにが役立たずだったのか、出来損ないだったのかはわからない。
毎日、毎日殴られた。蹴られた。ご飯は残りものしかもらえない。
こんな生活が嫌で、なにがダメなのか教えてほしくて、どう頑張ったら役立たずじゃなくなるのか知りたくて。
でも教えてもらえなくて。
毎日が辛かった。
だんだん大きくなっていくにつれて疑問と不満も出てきた。
何故、どうして、殴られなければいけないのだろう。
なにがダメなのか教えてもらえないのに。
ある日、母からこう言われた。
「あんたなんか産まれてこなければよかったのに!!」
つい、言い返してしまった。
「じゃあ、産まなきゃよかったのに」
すぐに後悔した。こんな言葉言わなきゃよかった。
母はその言葉を聞いて逆上した。
そのあとのことは覚えてない。
ただ、喋ることをやめたのは覚えてる。
自分の声を誰かに届けることが怖くて。
考えを、意見を、意思を伝えるのが怖かった。
怯えながら生きていたある日、たまたま自分の部屋の鍵が空いていた。
いつもは鍵を閉められていた。
空いているのを確認した瞬間、無我夢中で部屋を出た。
しかし、からくりだらけでなかなか出口に辿りつかない。
そんな時、この通路を見つけた。
何にも考えずに飛び出した。
逃げたくて。
逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて逃げたくて。
この監獄から。
必死に逃げた。
なにも考えずに走り続けた。
そしてみんなに会った。
今はもう心配しないで。
みんなに会えて幸せだから。
最後にそう言って私はみんなに笑顔を見せた。
上手く笑えてるかな。
今も怖いよ。今が壊れてしまうのではないかって思ってしまう。
でも、やっぱり。
ずっとこのままではいけない気がするの。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。