――その日は、雨だった。
雨脚は強くも弱くもなく、ただ、静かに降っていた。
公園の屋根の下、 濡れたブランコの音だけが遠くでギイギイと鳴っていた。
翠扇がそう尋ねたとき、躑躅はわずかに目を伏せた。
そう言って、翠扇は笑った。 濡れた髪を結い直しながら、傘を差し出してくる。
でもそれは、躑躅の方じゃなくて、 自分の肩にそっと寄せるように差し出された。
その言葉に、躑躅はほんの少しだけまばたきをした。
心の中の何かが、水の波紋みたいに揺れた。
ベンチに座り、缶コーヒーをふたつ。
そう言って翠扇は、 飲み口に残ったコーヒーを指でぬぐって、躑躅の唇に触れた。
空はまだ灰色だった。
けれど、その日だけは、雨が少しだけあたたかかった。

















編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。