第67話

幕間③-6
234
2026/06/11 16:18 更新
R8.6.12セリフが一つ抜けていたのを修正しました
rk
じゃあ、僕から言ってもええですか?
mt
いいよー
rk
そんな暢気に……えーっと、整理しますね。メテヲさんの持っていた手帳は、色々情報が書いてあったって言うけれど、何が書いてあったんですか?
 ひなにいさんの最初の質問。メテヲさんはそれを受けて片手を開いたり閉じたり、白衣のポケットに突っ込んだりする。だけど、目当てのもの―――多分手帳だ―――が見つからないのか、小さく首を傾げている。
mt
……あれ、持って帰れなかったのかな。なんか出てこないから見せれないんだけど。……まあいいや。次の調査で出る幽霊の正体と、その特徴、襲われる条件とか?
rk
でも、それを直接言ったらだめってことだったんですよね?
mt
そう、だから……あーまあ、持ってくアイテム気にしたり、いかにも推測したみたいにして伝えたり?してみようとはしてた
 ……言われて思い返す。確かに、メテヲさんは調査が始まる前に手帳をよく見ていた気がする。持ち物を選ぶ時もいつも最後の方に選んでいたかも。それと、襲われる条件。あの時、メテヲさんは突然その話題を言い出した。あれは皆に伝えたかったんだ。一番命の危険につながることを。
 そんなことを考えていると、メテヲさんは思い出したかのように付け加える。
mt
あ、あと皆の能力についても書いてあった
sr
え、マジですか
mt
マジマジ。って言ってもこっちはだいたい皆で想像してたのと変わんなかったかな?
sr
なるほど……
 聞きながら手帳に書き込む。片手だと書きにくくて、地面に置きながらそうしていると、覗き込む小さな影。顔をあげると、幼い姿に似合わない真剣な表情で見つめている眼と一瞬視線がかち合った。
sr
ウパさん、見えます?
 心配になって聞いてみる。ウパさんは手帳から目線をそらさないまま、淡々とした返事が返ってくる。
up
大丈夫。そのまま続けて
sr
ええっと、じゃあ、次おれ良いですか?……能力って言ったら、メテヲさんの能力!特別って、具体的にどういうことなんです?
mt
んーなんて言えばいいんだろ……俺のは手帳に書いてなかったんだけど、幽霊と同じことができるようになるって言われたんだよね。だから、あのホワイトボードに書いてあることはだいたい?なのかなぁ?
sr
だいたいって……、強すぎません?
mt
俺もそう思う。でも、非現実的すぎて上手く使えなかったかも。最初は色々試し試しって感じだったし
rk
だとしてもチートやん……
 ホワイトボードを改めて見たひなにいさんは、少し引いたような顔をしている。自分もそれにつられて眺めていると、ひとつ、気になる文字。瞬間移動。……その言葉がずっと疑問に思っていたことと繋がる。
sr
……メテヲさん、1回目の調査で幽霊から逃げる時、能力って使いました?
mt
1回目?……あ!使った!逃げなきゃって思ったら、玄関まで飛べたんだよね~結局扉は開かないからあんま変わんなかったけれど
 そんな。それってつまり。……恐る恐るもうひとつの、自分が疑うきっかけとなったことを口に出す。声が、震えた。
sr
……じゃあ、あのメモって……
 メモ、その言葉を聞いた途端、メテヲさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
mt
……ああ。あそこ、小屋、にさ、最初から幽霊がいたのはレイマリさんも覚えてると思うんだけど……俺が同じような能力使ってたからかな。入ってからずうっと、幽霊が『裏切り者め、裏切り者め』ってうるさくて。そこでレイマリさんが道具使ったからなのかな。あれで書いてやる、な安定言い出して、焦ったよね。でさあ、思わずラジカセ鳴らしちゃったけど、音大きくてびっくりしたり
sr
……じゃあ、じゃあ!……なんで能力ウソついたんですか
mt
あー、それはぁ……モニターに隠せって言われて、いや隠せって言ってもどうすんのって文句付けたら飛べるってことにしたらって言われてしたけど、結局ウパさんにバレちゃった
 えへ。そんな言葉が続きそうな軽さでメテヲさんは言う。だけど、自分にとっては重い答え合わせだ。だって、メテヲさんはずっと皆のために動いていてくれてたんだ。そんなこと。メモを書く手が震える。そんな自分の動揺を知ってか知らずか、今まで静かに聞いていたウパさんが口を開いた。
up
……で、メテヲさんが今こんな状態になっているのって何か心当たりあるわけ?
mt
……能力には、ハンデがある。そう言われてはいたんだけどさ、見誤ったよね。使い過ぎて、俺が幽霊みたいになっちゃった
 メテヲさんはあっけらかんと言う。その言葉を聞いて。手帳に書き込んで、そこでもうダメだった。ぽたり、と手帳の端に水滴が落ちる。―――自分の眼からこぼれた涙だ。
mt
ちょ、レイマリさんなんで泣いてるのさ
sr
おれの、せいで……おれが、変な勘違いなんてしなければ
mt
レイマリさ
sr
ごめ、んなさい、めて、をさんのこと、うたがって、おいてって、ごめんなさい……
 喉が引き攣る。気持ちが涙と一緒にあふれ出す。そうだ。メテヲさんはずっと協力してくれてた。ハンデがあるのに、それでも能力を使っておれたちを助けてくれていた。ずっと信じてくれていた……
rk
……レイマリさんだけのせいじゃないです
 ひなにいさんがそっと肩を抱いてくれる。
rk
僕も、全然、気づけんかった……メテヲさんが頑張ってくれてたんも、み、みんなが不安やった、ことも……はは、ダメですね。僕まで……
 ひなにいさんは言葉を詰まらせながら紡ぐ。その頬には、一筋の涙が伝い落ちた。
up
そうだ。レイマリだけの責任じゃない……どうせお前が言わなくてもどっかでオレが指摘してた
 ウパさんが慰めるように言葉をかけてくれるけど、涙は止まらない。
mt
ひないさん、ウパさんまで、止めてよ……ほら、いつもみたいに浅はか~ってメテヲのこと笑ってよ
 ……渦中のメテヲさんは、そう言って困ったように笑っていた。
 眼を赤くし大粒の涙をこぼしていたレイマリは、ヒナニキにもたれかかって眼を閉じている。泣きつかれたのか、ヒナニキが慰めているうちに眠ってしまったらしい。そのまま、トントンと優しく肩を叩いている彼に声をかけた。
up
ひなにいさんも疲れたっしょ。寝てていいよ
rk
え、でもウパさんは……
up
オレはそんなに疲れてないし。それに、皆寝てもここは安全だろ
 そう伝えてもヒナニキはまだ迷っている様子だった。だけど、レイマリと反対側に目を向けた後、眉を下げてこちらをまた見た。
rk
じゃあ……ちょっとだけ。すみません
up
別に謝んなくていい
 ……そんな会話をしたのが少し前。互いに身を寄せ合いながら眠る二人を見つめながら、自分も寝ようかと目を瞑るが、一向に眠気はやってこない。代わりに来るのは後悔ばかりで。レイマリの書き記したメモを読み返す。メテヲさんから告げられたらしい答え合わせを、一つ一つ指でなぞる。……ずっと、考えていた。目の前にいるメテヲさんは、何者なんだって。いや、違う。あれは本当に自分たちの知っている彼なのか、疑っていた。冷たい手、不思議な力。やたら浄化香の匂いを嫌う仕草。小さな、だけど積もり積もった違和感に、一つの推測を導いていた。
up
(だけど、逆だった……幽霊だから、じゃない。幽霊に近づいていたから、だったんだ)
手帳を握る手に力がこもる。くしゃり、と端がしわになってしまった。
up
(見えなくても何とかなるなんて、そんなことなかった)
 もどかしかった。自分だけが見えない姿を探すのが。直接話せないのが。仲間を見つけられないのが。どうして自分だけ、と悔しかった。レイマリみたいに、泣いてすがって、ゴメンって言いたかった。
rk
ん……
 唸るような小さな声と、もぞもぞと動く影。手帳から顔をあげると、発信源は寝入っていたはずのヒナニキからだった。レイマリに貸している反対側の手で目を擦る。薄っすらと開いた瞼からは青い瞳がのぞいた。
up
ひなにいさん、まだ寝てても……
rk
ん、んー……や、だいじょぶ……
 自分の声に対して、生返事をしながらヒナニキは肩を回す。手を開いたり閉じたり、何かを確かめるような仕草を繰り返した。しばらくして、こちらの視線に気づいたらしい、目が合った。
rk
……どうしたん?ウパさん?
 そう言って嫌みなくらいに整った顔を笑顔にする。いたずらっ子のように笑う姿に、違和感と既視感。……いや、そんなことあるのか?でも、自分たちはそれをさっきまで見てきた。口に出すか悩んで、結局オレは声をかけた。
up
お前……もしかして、メテヲなのか?
rk
……
mt
はは。やっぱウパさんってすごいね
 オレの言葉に、目の前の人物は目を丸くして、また笑う。正体を暴かれたというのに、嬉しそうに。そうしてヒナニキ―――いや、メテヲさんはそう言い放った。

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