R8.6.12セリフが一つ抜けていたのを修正しました
ひなにいさんの最初の質問。メテヲさんはそれを受けて片手を開いたり閉じたり、白衣のポケットに突っ込んだりする。だけど、目当てのもの―――多分手帳だ―――が見つからないのか、小さく首を傾げている。
……言われて思い返す。確かに、メテヲさんは調査が始まる前に手帳をよく見ていた気がする。持ち物を選ぶ時もいつも最後の方に選んでいたかも。それと、襲われる条件。あの時、メテヲさんは突然その話題を言い出した。あれは皆に伝えたかったんだ。一番命の危険につながることを。
そんなことを考えていると、メテヲさんは思い出したかのように付け加える。
聞きながら手帳に書き込む。片手だと書きにくくて、地面に置きながらそうしていると、覗き込む小さな影。顔をあげると、幼い姿に似合わない真剣な表情で見つめている眼と一瞬視線がかち合った。
心配になって聞いてみる。ウパさんは手帳から目線をそらさないまま、淡々とした返事が返ってくる。
ホワイトボードを改めて見たひなにいさんは、少し引いたような顔をしている。自分もそれにつられて眺めていると、ひとつ、気になる文字。瞬間移動。……その言葉がずっと疑問に思っていたことと繋がる。
そんな。それってつまり。……恐る恐るもうひとつの、自分が疑うきっかけとなったことを口に出す。声が、震えた。
メモ、その言葉を聞いた途端、メテヲさんは苦虫を噛み潰したような顔をする。
えへ。そんな言葉が続きそうな軽さでメテヲさんは言う。だけど、自分にとっては重い答え合わせだ。だって、メテヲさんはずっと皆のために動いていてくれてたんだ。そんなこと。メモを書く手が震える。そんな自分の動揺を知ってか知らずか、今まで静かに聞いていたウパさんが口を開いた。
メテヲさんはあっけらかんと言う。その言葉を聞いて。手帳に書き込んで、そこでもうダメだった。ぽたり、と手帳の端に水滴が落ちる。―――自分の眼からこぼれた涙だ。
喉が引き攣る。気持ちが涙と一緒にあふれ出す。そうだ。メテヲさんはずっと協力してくれてた。ハンデがあるのに、それでも能力を使っておれたちを助けてくれていた。ずっと信じてくれていた……
ひなにいさんがそっと肩を抱いてくれる。
ひなにいさんは言葉を詰まらせながら紡ぐ。その頬には、一筋の涙が伝い落ちた。
ウパさんが慰めるように言葉をかけてくれるけど、涙は止まらない。
……渦中のメテヲさんは、そう言って困ったように笑っていた。
眼を赤くし大粒の涙をこぼしていたレイマリは、ヒナニキにもたれかかって眼を閉じている。泣きつかれたのか、ヒナニキが慰めているうちに眠ってしまったらしい。そのまま、トントンと優しく肩を叩いている彼に声をかけた。
そう伝えてもヒナニキはまだ迷っている様子だった。だけど、レイマリと反対側に目を向けた後、眉を下げてこちらをまた見た。
……そんな会話をしたのが少し前。互いに身を寄せ合いながら眠る二人を見つめながら、自分も寝ようかと目を瞑るが、一向に眠気はやってこない。代わりに来るのは後悔ばかりで。レイマリの書き記したメモを読み返す。メテヲさんから告げられたらしい答え合わせを、一つ一つ指でなぞる。……ずっと、考えていた。目の前にいるメテヲさんは、何者なんだって。いや、違う。あれは本当に自分たちの知っている彼なのか、疑っていた。冷たい手、不思議な力。やたら浄化香の匂いを嫌う仕草。小さな、だけど積もり積もった違和感に、一つの推測を導いていた。
手帳を握る手に力がこもる。くしゃり、と端がしわになってしまった。
もどかしかった。自分だけが見えない姿を探すのが。直接話せないのが。仲間を見つけられないのが。どうして自分だけ、と悔しかった。レイマリみたいに、泣いてすがって、ゴメンって言いたかった。
唸るような小さな声と、もぞもぞと動く影。手帳から顔をあげると、発信源は寝入っていたはずのヒナニキからだった。レイマリに貸している反対側の手で目を擦る。薄っすらと開いた瞼からは青い瞳がのぞいた。
自分の声に対して、生返事をしながらヒナニキは肩を回す。手を開いたり閉じたり、何かを確かめるような仕草を繰り返した。しばらくして、こちらの視線に気づいたらしい、目が合った。
そう言って嫌みなくらいに整った顔を笑顔にする。いたずらっ子のように笑う姿に、違和感と既視感。……いや、そんなことあるのか?でも、自分たちはそれをさっきまで見てきた。口に出すか悩んで、結局オレは声をかけた。
オレの言葉に、目の前の人物は目を丸くして、また笑う。正体を暴かれたというのに、嬉しそうに。そうしてヒナニキ―――いや、メテヲさんはそう言い放った。













編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。