第68話

幕間③-7
296
2026/06/18 09:00 更新
 あんまりにも非現実的な光景にめまいがする。目の前で笑っているのはヒナニキ、だけどその中身はメテヲさんで。いや、ファンタジーかよ。
mt
それは今更じゃない?
 思ったことが口から出ていたらしい。ヒナニキ、もといメテヲさんはこんな異常な状態にもかかわらずのんびりとした声でそんなことを言う。さっきまでゲームが終わるかもしれない、なんて大騒ぎだったのにもうそんなことを忘れてしまったかと思うほどいつも通りに。……さっきとは違う意味でくらりとする。額をおさえ、努めて冷静でいることを意識しながら、今度は明確な意思を持って話す。
up
えっと……もう一回聞くけど、メテヲさんで、いいんだよな
mt
そーだよ
up
……なんで、そんなこと
mt
いやさー、出来るかなーってやってみたら……出来ちゃった
 そう言ってメテヲさんは小さく舌を出す。てへ、なんて効果音が聞こえてきそうな顔。こいつ、わかっててずらしてきたな。じろ、とひとにらみすると、メテヲさんは自分の反応を無視されたことを拗ねるように、口をむうと結んでこちらを見返す。……ヒナニキ(=面の良い男)の顔でされると、こう色々とアレだぞ。
up
そんな適当な感じで、何かあったらどうするんだよ
mt
適当じゃないし!さっき幽霊に憑りつかれてたのみてだから!……やっぱり、ひなにいさんの力は強くなってる。多分レイマリさんが俺のことみえたのもそのおかげなんだろうね。その分ハンデも重くなって……俺なんかでも簡単に憑りつかれちゃう
 全くの考えなしだったわけではないらしい。ようするに、幽霊と同じような能力を使えるから観察してできそうだと判断したと。
up
……だとしても、あんまり気軽に能力使うなよ
mt
まあまあ、出来たんだし良いじゃん
up
ハンデのこともあるし……その能力ってさ、ちゃんと制御、できてんのかよ?
 思い出す。逃げようと思ったら瞬間移動ができてしまったと。それは、メテヲさんの意志じゃなかったということだ。レイマリが言ってたラジカセだって、大きな音で驚いたなんて言ってたけれど、本当は鳴らしてしまったことに驚いたんじゃないのか。
mt
……
up
メテヲさんも見てただろ?オレがロッカーをへこますところ。多分、オレたちの能力は使えば使うほど強力になると同時に、制御も難しくなる。メテヲさんはあの結果を見誤ったからって言ってたけど……そういうことなんじゃないのか?
mt
あはは……
 淡々と推測を伝える。聞きながら、誤魔化すように笑うメテヲさん。その反応から、あながち間違っていないことを悟る。
up
(無理、し過ぎなんだよ……)
 メテヲさんはしばらく困ったよう笑っていたが、少しだけ顔を歪める。それから出た言葉は、普段と違って小さく、弱弱しいものだった。
mt
最初は、さ。色々試しながら使ってみたんだよ。便利だったよね。でも、だんだん冷たくなっていく身体がわかって。とっさに能力を使っちゃうこともあって……自分が何か別のものに代わっていくみたいで、怖かった、かも
up
……
 その気持ちは、わかる。それに加えて秘密を抱えなくてはいけないメテヲさんの恐怖は、どれだけのものだったのだろう。何も言えずにいると、メテヲさんは伏し目がちにポツリと呟く。
mt
……巻き込まれたのが、俺以外だったら違ってたのかな
 唐突ともいえる言葉、だけど、少し考えて先の調査の途中でしていた話の続きだと気が付く。
up
それって、例えば誰とか
mt
あーやっぱりレイラーさん、とか……?
up
……『はいはい、そのパターンね』とか言うって?
mt
ぶっ……なに、それ……
up
や、メテヲさんいない時のitoであったんだよな、レイラーがデスゲームに巻き込まれたときに言いそうなセリフ
 いつかのゲームのお題を思い出しながら言うと、メテヲさんは思いっきり噴き出した。解説してる間にもお腹を抱えて笑い続けている。
mt
ひ、やば普通に言いそう……ふ、ふふ
up
ちなみにこれはヒナニキが、あー確か40くらいで出してきた
mt
や、もっと高いだろ!
 メテヲさんはしばらく笑っていたが、波がおさまったのか深呼吸して呼吸を整えてる。興奮のせいかほんのりその頬は赤らんでいた。
up
……で、そんなに自信がなくて怖いのに、なんでわざわざ能力を使ってまでヒナニキの身体に憑りついたんだよ
mt
……えー、誤魔化されてくれない感じ?
up
えーじゃない
mt
……ちゃんと、ウパさんにお礼言いたくって
up
……は?そんだけ?
mt
それだけってひどい!……でも、マジでありがと。ウパさんいなかったら、俺の所為で皆まで巻き込むとこだった
up
っそれは!……それは、メテヲさんのせいじゃない!ああしてくれなかったらそもそも調査中に全滅してたし、モニターの条件だって後出しじゃん
mt
だとしてもさ、俺の迂闊な判断で、結局死ぬところだったんだよ
up
……
mt
ね、ウパさん。こっちおいでよ
 メテヲさんは、さっきまでとは違って真剣な顔で言う。そして、自分を呼び寄せると、そっと右手に触れた。
mt
……ほら、手、震えてる。ウパさんだって怖かったんでしょ。なのに、頑張ってくれたから。……ありがと
 メテヲさんはふ、と静かに笑う。その仕草に、自分よりも年上なんだったと思い出させた。
up
そりゃ、オレだって死にたくないし……あん時出来そうだったのがオレだったってだけ。わざわざ礼を言われるような話じゃない……
mt
それでも、実際に行動に移せるはその人次第じゃない?……俺はさあ、ご覧の通り役立たずだし。……ウパさん、皆のこと、頼むよ
 皆、そこにメテヲさんが含まれていないような言い方。何か猛烈に嫌な予感を感じた。
up
……おい、メテヲさん、もう大丈夫なんだよな?
mt
……
up
何かまだ隠してんのか?やめろよ。レイマリが言ってたじゃん、皆で帰るって。……これ以上、悲しませんなよ
mt
……そうだ、ね
 メテヲさんはもう片方の手で頭を撫でてくる。少しだけ荒っぽい撫で方は、ヒナニキには似合わなくって。やっぱりメテヲさんなんだって感じると共に、先とは違う、人間の温もりが触れたところから伝わってくる。それを感じた瞬間、涙が出そうになる。それをこらえながら、メテヲさんを叩く。だけど、力が入っていないそれは何のダメージにもなってないようだった。
up
……子ども扱いすんな
mt
ちょ、やめてよ~
ケラケラと笑うメテヲさん。変わらず頭は撫でられたままだ。でも、これ以上は言葉と一緒に涙が溢れてしまいそうで、ただ服の袖をを掴んで俯くことしか出来なかった。
mt
……さ、ウパさんも寝たら?ほら、こっち空いてるし
 しばらくそうしていたが、メテヲさんがポンポンとレイマリが座っているのと逆側を叩く。少し悩んで、そこに座り込んだ。それを確認するとメテヲさんは手に持った毛布ごと抱き込んできた。ずるり、と肩に持たれかかっていたレイマリがすべり落ちて、膝枕みたいになるのが視界の端に見えるのを、ぼんやりと見ていた。
up
おい……
mt
だーいじょうぶだって。今までだって何とかなったんだから。次だってどうにかできるよ
 毛布と人のぬくもりが全身を包み込む。
mt
あ、ヤバ……これめちゃくちゃ犯罪臭する見た目になってない?
up
そんな……今更だろ……
 メテヲさんの軽口に反論しようとする、だけど、さっきまで遠くに行っていた眠気がたちまち襲い掛かってきて口がまわらない。
mt
ふふ……おやすみ、ウパさん
 メテヲさんの声が遠くなり、意識が溶けていく。……だから、メテヲさんがどんな顔をして言っていたのかなんて、俺にはわからなかった。
mt
……ウパさん、寝ちゃった?
mt
あは、寝顔はこんなに可愛いのにホントカッコいいんだからさ
mt
……ね、ウパさん。俺は自分の選択に後悔なんてしてないよ
mt
この先何があったとしても、きっと、俺が弱かっただけ
mt
だからさ、そんな顔しないで欲しいんだけどなあ……

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