あんまりにも非現実的な光景にめまいがする。目の前で笑っているのはヒナニキ、だけどその中身はメテヲさんで。いや、ファンタジーかよ。
思ったことが口から出ていたらしい。ヒナニキ、もといメテヲさんはこんな異常な状態にもかかわらずのんびりとした声でそんなことを言う。さっきまでゲームが終わるかもしれない、なんて大騒ぎだったのにもうそんなことを忘れてしまったかと思うほどいつも通りに。……さっきとは違う意味でくらりとする。額をおさえ、努めて冷静でいることを意識しながら、今度は明確な意思を持って話す。
そう言ってメテヲさんは小さく舌を出す。てへ、なんて効果音が聞こえてきそうな顔。こいつ、わかっててずらしてきたな。じろ、とひとにらみすると、メテヲさんは自分の反応を無視されたことを拗ねるように、口をむうと結んでこちらを見返す。……ヒナニキ(=面の良い男)の顔でされると、こう色々とアレだぞ。
全くの考えなしだったわけではないらしい。ようするに、幽霊と同じような能力を使えるから観察してできそうだと判断したと。
思い出す。逃げようと思ったら瞬間移動ができてしまったと。それは、メテヲさんの意志じゃなかったということだ。レイマリが言ってたラジカセだって、大きな音で驚いたなんて言ってたけれど、本当は鳴らしてしまったことに驚いたんじゃないのか。
淡々と推測を伝える。聞きながら、誤魔化すように笑うメテヲさん。その反応から、あながち間違っていないことを悟る。
メテヲさんはしばらく困ったよう笑っていたが、少しだけ顔を歪める。それから出た言葉は、普段と違って小さく、弱弱しいものだった。
その気持ちは、わかる。それに加えて秘密を抱えなくてはいけないメテヲさんの恐怖は、どれだけのものだったのだろう。何も言えずにいると、メテヲさんは伏し目がちにポツリと呟く。
唐突ともいえる言葉、だけど、少し考えて先の調査の途中でしていた話の続きだと気が付く。
いつかのゲームのお題を思い出しながら言うと、メテヲさんは思いっきり噴き出した。解説してる間にもお腹を抱えて笑い続けている。
メテヲさんはしばらく笑っていたが、波がおさまったのか深呼吸して呼吸を整えてる。興奮のせいかほんのりその頬は赤らんでいた。
メテヲさんは、さっきまでとは違って真剣な顔で言う。そして、自分を呼び寄せると、そっと右手に触れた。
メテヲさんはふ、と静かに笑う。その仕草に、自分よりも年上なんだったと思い出させた。
皆、そこにメテヲさんが含まれていないような言い方。何か猛烈に嫌な予感を感じた。
メテヲさんはもう片方の手で頭を撫でてくる。少しだけ荒っぽい撫で方は、ヒナニキには似合わなくって。やっぱりメテヲさんなんだって感じると共に、先とは違う、人間の温もりが触れたところから伝わってくる。それを感じた瞬間、涙が出そうになる。それをこらえながら、メテヲさんを叩く。だけど、力が入っていないそれは何のダメージにもなってないようだった。
ケラケラと笑うメテヲさん。変わらず頭は撫でられたままだ。でも、これ以上は言葉と一緒に涙が溢れてしまいそうで、ただ服の袖をを掴んで俯くことしか出来なかった。
しばらくそうしていたが、メテヲさんがポンポンとレイマリが座っているのと逆側を叩く。少し悩んで、そこに座り込んだ。それを確認するとメテヲさんは手に持った毛布ごと抱き込んできた。ずるり、と肩に持たれかかっていたレイマリがすべり落ちて、膝枕みたいになるのが視界の端に見えるのを、ぼんやりと見ていた。
毛布と人のぬくもりが全身を包み込む。
メテヲさんの軽口に反論しようとする、だけど、さっきまで遠くに行っていた眠気がたちまち襲い掛かってきて口がまわらない。
メテヲさんの声が遠くなり、意識が溶けていく。……だから、メテヲさんがどんな顔をして言っていたのかなんて、俺にはわからなかった。













編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!