第2話

1.引き金は引かれて
4
2025/12/15 12:07 更新
金が必要だ。
できるだけ早く、できるだけ沢山の金が必要だ。
僕は今日もパソコンで高額バイトを探す。
大学に通い、バイトをかけ持ちする日々。
自分のための時間は皆無と言っていいだろう。
どれもこれも、母が介護施設に居られるようにするためのことだ。
この事を少し前に知人に話したら「大学を辞めて正社員として雇ってもらえばいいじゃないか」と言われたが、大学入学は母からの最後のプレゼントと言ってもいい。
入学金から何から何まで、僕が大学を卒業するまでの学費を母は全て僕にくれたのだ。
だから、絶対に母からの贈り物を無下にする訳にはいかない。
パソコンの画面を見ていると、ひとつのバイト求人に目が止まった。

スクロールし続ける人差し指を止め、募集要項が記されたページへ飛ぶ。
『テレビ番組の現場下見』
5/13の16時から三時間ほどの勤務です。
現場の場所は応募後メールでお送り致します。
給与:日給五万円
日給五万。
かなりいい額だ。
たとえこれが世間で闇バイトと呼ばれる類のものだとしても、他人に自分のした事がバレなきゃ問題はない。
僕は迷うことなく「応募」をクリックした。
あれから五日後、僕の元には勤務先の地図がメールで送られてきていた。
大学の中庭のベンチに座り、その地図を開く。
指定された場所は、大学近くの廃工場だった。二十年ほど前までは金属加工工場として機能していたようだが、今ではすっかり心霊スポットとして有名になっているようだ。
糸井彩乃
直樹!
いきなり後ろから声をかけられ、僕はびくっと体を震わせる。
糸井彩乃
なにしてんの?
後ろを振り向くと、同期の糸井彩乃が茶髪のポニーテールを揺らしながら立っていた。
岡島直樹
んん、別になんもしてない
岡島直樹
あっ、ちょっと!
彩乃はひょいっと僕の持っていたスマホを取り上げ、画面に書かれた文章を読み上げ始めた。
糸井彩乃
「この度はご応募ありがとうございます。当日の勤務先の地図を添付させていただきます。当日は何卒よろしくお願い致します」……
まさか、またバイト掛け持とうとしてる?
岡島直樹
今回は単発だから。
糸井彩乃
単発だからとか関係ないから!
学校の勉強も超頑張ってるくせに、あんたは大学生の分際で働きすぎなの!
糸井彩乃
あ、そうだ。
このバイト、私も応募しちゃおっかな
岡島直樹
え?
なんで……
糸井彩乃
だって、いつ直樹が過労でぶっ倒れるかわかんないし。
私だって心配なんだよ。
岡島直樹
いや、気持ちは嬉しいけど……
勤務先心スポだしさ、危ないから来ない方がいいよ
心スポにビビって諦めて欲しいという僕の願いとは逆に彩乃は目を輝かせた。
糸井彩乃
心スポなの!?
ならもっと行きたい!
心スポ行ってお金貰えるとか最高じゃん!
……もう何を言っても止まってくれそうにない。
岡島直樹
わかったよ。
彩乃も来るってことは担当の人に伝えとくから。
今月の13日、午後四時に近くの廃工場集合ね。
糸井彩乃
やった!
ありがと!
そう言う彩乃の目はさっきよりも輝きを増していた。
その目からはバイトを本当に楽しみにしているということがひしひしと伝わってくる。

僕はお化け屋敷の類のものはあまり好まないが、彩乃と一緒に行けば楽しめるような気がした。

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