No side
三時間十五分。
これは、エーミールの能力で本の中に入ってから経った時間である。
少なくともあなたはそう思っている。
そして二回。
これは、あなたが違和感を覚えた回数である。
中に入ってから一時間目に一回、二時間目にもう一回があった。
そして十五分前の一回、違和感の元凶が再来したその瞬間、彼女の疑問は確信に変わる。
——リセットされている。
遡ること二時間十五分前、度重なる戦闘の為彼女の疲労は限界を突破していた。
フラフラと足がもつれ、視界はどんどん狭くなっていく中で、
彼女はやっとの思いで、時間が経つにつれて過激化するゾムの猛攻を掻い潜っていた。
倒れそうになったその瞬間、一瞬にして疲れが吹き飛んだのだ。
大袈裟なことは言っていない。
何もなかったように体力が戻ってきた。
というか、傷も回復している。
そしてその一時間後も同じ体験をした。
最初は混乱したものの、段々と冷静になっていった彼女。
あることに気がつく。
——さっきも聞いた音だ。
爆撃、悲鳴、銃声、そしてまた悲鳴、誰かの名前を叫ぶ兵士の声。
それら全てに聞き覚えがある。
そう、実際あなたは一時間前にその音を聞いている。
また一時間後、全く同じ体験をする。
そこで漸く、この世界は一時間毎にリセットされているのだと気付いた。
それは、実は最初に能力を使う際エーミールが開いたページに関係している。
彼が開いたページに書かれていたことは戦争の場面について。
この本の作者は当時、一時間ここに滞在した際の記録を記したという。
つまりこの世界、開いたページの分しか時間が進まない。
するとダメージもリセットされるから、ゾムは焦りから攻撃を過激化させたのだろう。
一時間以内に決着をつけなければならない。
そう気付いた。
彼女が呟くと、ゾムの動きが止まる。
ゾムは笑う。
小馬鹿にしたように、薄らと。
身体の疲れは取れても、心労の残る彼女に。
そう、彼の体には傷一つない。
全くダメージを与えられていない。
リセットされるとかされないとか、そういう次元の話ではなくて。
純粋に、ただ、あなたが弱い。
頼みの綱であるエミーリエは、ゾムにかけた能力のために上手く動けない。
ここで本気を出して戦うと、ゾムの成仏までの時間が伸びてしまう。
霊気は温存したい。
ゾムが動く。
バケツの中身をあなたにぶっかける。
いきなりのことで対応出来ずに、降りかかる溶岩を避け切れなかった彼女。
慣れのせいか、彼女も身体に受けるダメージを気にしなくなった。
かかったのは左手の中指から小指。
溶岩を包むように分厚いゴムのような生気で覆い、皮膚と無理矢理引き剥がす。
爆発が生気の中で起きると、左手が凄い力で弾かれる。
大火傷ではあるが、一度死を体験した彼女にとっては大した傷ではない。
そういえば、とあなたはエミーリエを見る。
まだ彼はピンピンしているようだが、ゾムの完全な成仏までどれくらいかかるのだろう。
そう思い、平然と尋ねる。
エミーリエが祓われなければ、必ず二十分後にゾムは成仏する。
あなたの作戦としては、あと三分程残してゾムを追い込むことで、
時間ギリギリということもあり判断力が鈍るであろうエーミールに交渉を持ち込む。
彼の心はそこまで強くないとエミーリエから聞いているあなたは、
ゾムを材料に、ここから出してもらう魂胆でいるのである。
彼女はまだ、本を二度とは読めない形に破壊すれば出られるとは知らない。
だから、解決策はそれしかないのである。
あなたにとって、我々国の亡霊たちはもちろんエミーリエも依然として敵のままなので、
自分の生気を与えすぎて祓えない、とかいう間抜けなマネは避けたいのだ。
だからエミーリエの今の霊気のままで、発動してもらうしかない。
そう言うと彼女はゾムに殴りかかった。
自慢のメリケンサックとともに。
ゾムは避ける。
しかしそこに、彼女の岩のような生気の塊が突っ込んだ。
メリケンサックはダミーで、避けたところを狙う作戦である。
一瞬痛みのためか顔を顰めるゾム。
もちろんそんなことで倒れる彼ではない。
ゾムはそれが命中して尚、インターバルなく立ち上がると、溶岩を生成した。
それを、あなたは生成された瞬間から固く厚い生気で包み込むと、
それはゾムの手元で静かに爆発を終える。
そしてすぐに溶岩を生成、それを包む彼女、というふうに繰り返される。
息切れしながら叫ぶあなた。
そう、三時間半の中で、この状況は数回繰り返されているのだ。
ゾムには他に能力がない。
幽霊の打撃は人間には効かないから、これで倒すしかない。
——ん?ちょっと待てよ。
——なら何で、最初の打撃は当たったんや?
ゾムはあなたとエミーリエと初めて会った時にあなたを殴っている。
感情任せの突発的な行動だったが、戦闘狂の彼は自分のした攻撃を全て覚える癖がある。
エミーリエの残酷さに触れてから、無意識の躊躇が生まれて考えずに戦っていたが、
よく思い出せ、と自分に言い聞かせる。
——せや。
あなたからの攻撃をすんでのところで避けつつ頭を働かせる。
——あのとき、たまたまそこに。
——アイツが生気のバリアを張ってた。
幽霊は、生気や霊気を他者から奪うことで、その力を蓄えることが出来る。
そしてそれらにより、他者から攻撃を受けることもある。
つまり、幽霊は生気に触れられるのである。
あまりにも当たり前のことで、三人とも頭になかったのだ。
基本を忘れると痛い目を見るのは、この世の常識だと言うのに、
皮肉なことに、それを最初に思い出したのは幽霊であるゾムだった。
ゾムは、溶岩を出した。
反応したあなたはバリアを張る。
またか、と思いながら。
その一瞬の油断を、彼が見逃す訳もなく、
生気に向かってハイキックを食らわす。
突然の物理攻撃に戸惑いを隠せない彼女。
次の瞬間あなたの目の前にあったのは、真っ赤に燃えるの溶岩であった。
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![[参加型?]空の上で最後の遺言を、](https://novel-img-gcs.prepics-cdn.com/prcmnovel-tokyo-prod-converted-images/p/fLidrLhRSUUik4ZkTr7M83BhU0V2/cover/01KCTXMWS5RZ2WT40YN9XJ0C3Y_resized_240x340.jpg)



編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。